序章 地獄
よろしくお願いします
別に死にたい訳じゃなかった。
別に死のうと思ったことも無かった。
ただ、地獄に叩き落として欲しかった。
単純で、それしか選択肢がなくなるくらい強烈に。
自分の人生なんて、人を傷つけて来た記憶しかないから、最後は、人に蹂躙されて地獄に落ちる事に密かに憧れていた。
そう考えるなら、自分は死にたがりと言われるのかもしれない。
けど、自分から望んで死のうと思ったことがないなら、死にたがりではないだろう?
俺はただ、言葉のとおり、誰かに地獄に落として欲しかっただけだ。
俺の言っている意味が分からないかもしれない。言いやすくしたなら····死にたいとも、死のうとも思ったことがないけれど、何時でも死ねる覚悟は出来ていた。
それが今、来ただけだと思っていた。
その時だ、“お前”が現れたのは。
暗がりの一室、身体中から感じる熱さ、顔は痣と血まみれで火照っていて、何故か心地いい。
両腕を縛られていて身動きがろくに取れないから、言葉のとおり、俺は為されるがままに蹂躙されていた。
刺された太ももと、汗ではない別の液体が流れている感覚がある頭、切られた腕が酷く熱くて、自分が限りなく極限に近い状況に置かれているのを改めて自覚した。
俺を蹂躙していた“奴ら”は、驚愕でその場で立ちつくしたまま動いていない、全部、視線は俺じゃなくてお前にいっている。
コンクリートの壁まで飛び散った鮮血に、血で塗れたドス。
そして、流血の勢いで吹き飛んで、転がってきた小指の欠片。
さっきまで持っていたドスは床に落として、欠けた小指からは現在進行形で鮮血を落とし続けている。
痛みを見せる素振りを一切見せずに1歩ずつ、俺のほうに近づいた。
死ぬほど痛いはずなのに。
痛いなんて顔は微塵もしてない。
水滴のように赤い水が垂れ落ちているのを、知らないかのように放置して、俺の前に立った。
そのとてつもなく異様で、場違いすぎる光景を、俺も驚愕してお前を見つめることしか出来無かった。