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4月10日 その③

 

「ルーレットの結果、情報④の『暗所恐怖症だ』の真偽が公開されます!」

 マスコット先生以外、誰も声を発さない。否、発せない。


 俺の右隣りに座っている、森愛香が尋常じゃない量の殺気を放っているからだ。


「ざ、残念だピョン...ボ、ボクが入れたところの結果は、わ、わからないピョン」

「ワ、ワイもや!」

 自己保身の為に、宇佐見蒼と津田信夫がそう言い捨てる。


「情報④か。そうか、そうか」

 森愛香が、口を開く。森愛香の殺気が、俺の体を穿つ。俺は、智恵に手を引かれた。


「───怖い...怖いよ...栄、なんでこんなに怒ってるの?」

「多分...俺のせいだ...」

 俺と、もう一人の誰かが「情報④ 暗所恐怖症だ」に投票したからからだ。俺が、正直に「情報⑤ 平塚ここあを殺した」に入れたほうがよかっただろう。


 俺の判断ミスだった。ポイントに目が眩み、的確な判断ができていなかった。


「では、真偽を発表します!でけでけでけでけでけ...」

 マスコット先生によって、真偽が発表される。いや、真だと言うことは火を見るより明らかだ。


 放たれる殺気と、先程握ってきた手がそれを証明してくれている。


「情報④暗所恐怖症だということはリアル!」

 俺のタブレットには赤色の「◯」が浮かび上がってしまう。画面右のマスコット先生は俺の目には映らない。



 ゾワッ。


 俺の体に、鳥肌が立つ。俺は、ブリキの人形のように首を軋ませながら森愛香の方を見る。


「───ひ」

 そこにいたのは、こちらを睨んでくる森愛香だった。


「───死のうな?」

 森愛香がそう言い放つ。


「死ぬか?」という選択肢の提示ではなく「死のう」という提案。選択さえもできない。


 俺の歩む道は、死への一直線であった。激昂を通り越し、無の境地に辿り着きそうな森愛香。だが、そこには確かに「恥をかかせたことへの怒り」があった。


「血祭りにあげてやる。楽しめ」

 森愛香の右手が、俺の襟首をを掴む。首根っこを押さえられている俺は、逃げられない。


 なんだか、森愛香の体が光っているように見えた。例えるなら、まるで神。森愛香は神格化しているようにも感じられた。


「───来世は、幸せになれるといいな」

 森愛香が、俺に向かって放つ手刀が俺に当たる刹那。



 ───世界から、再び明かりというものが消えた。


「───っな!」

 誰かが、電気を消したのだ。「俺を助けたい」と思う誰かが、一瞬の油断を誘うために電気を消した。


 俺は、掴まれていた森愛香の右手を外し智恵の方に座ったまま移動する。椅子のギリギリに座っていれば、森愛香の手は届かない。


「栄...」

 智恵は、弱々しい声で俺の名前を呼んだ。俺は、智恵に手を差し伸べる。


「森愛香...さんと仲直りしてよ...私、怖いよ...」

 智恵の震える感覚が、俺の腕から伝わってくる。後ろからヒュンヒュンと、何かを探すような───俺を掴もうとしてくる森愛香の手が風を切る音が聞こえていた。


「こ、皇斗きゅーん!ボクとお手々を繋いで欲しいなー?」

 森愛香に掴まれることを危惧した宇佐見蒼が、森宮皇斗の方へ逃げる。


「───ッチ」

 舌打ちが聞こえる。


「栄...」

 智恵の心配そうな声。俺は、智恵の頭を一度撫でる。智恵の柔らかい髪質を一瞬で堪能した後、森愛香と対面する。もっとも、暗闇の中なので顔は見えていないのだが。


「森愛香」


 ”ガシッ”


 俺は彼女の両手を、自らの両手で包み込む。彼女の体は、極寒の地に放り出されたかのように震えていた。


「ごめんな、怖かったよな。暗闇恐怖症だって、言うのもプライドの高い君には悔しいことなのに...それどころか、暗闇に一人放り出されて怖かったよな」

「妾は───」


「大丈夫。大丈夫だよ、完璧な人間になんかならなくてもいい。社長の娘だからって頑張らなくたっていい。大丈夫、大丈夫だから。時には、弱さも見せてくれ。森愛香───いや、愛香。俺達は仲間だろ」

「───」


 森愛香の震えが、より一層大きくなる。幼き少女のように、暗闇を恐れているのだろう。


「ごめんな、愛香。怖かったよな」

 俺が、彼女の手を強く握ると同時に電気がつく。そこにいたのは、俺を睨んでいた愛香だった。


「栄、貴様は勘違いしていないか?妾と栄が仲間?何を言っている!妾は誰とも並ばん!妾は頂点で、栄は妾の下僕!仲間など甚だ図々しいぞ!」

「えぇ...」

 俺の口から出る困惑。忘れていた。森愛香は、基本傲慢なのだ。同じ土俵で戦っていてはキリがない。


「───だが、また暗闇に放り出された時は、栄の手を握らせてはくれないか」

 彼女は足を組み、頬杖をつきながらも顔を少し赤くしてそう答えた。


「助かったピョン...栄、ありがとうピョン」

 俺は、宇佐見蒼からそう感謝される。

「お、おう」


「あ、そうだピョン。ボクのことは蒼きゅんって気軽に呼んでもらっていいピョン」

「わかった、蒼って呼ばせてもらうよ」

 流石に、「きゅん」は付けない。男が、男に「きゅん」と呼んで誰得なのだろうか。絵面が地獄だ。


「では、次は池本栄君の番ですね」

 マスコット先生の声と共に、また場に緊張が走る。


「池本栄の情報①───」


 自分の情報が晒されるとなる、胸が不安に一杯になった。こんなドキドキ感の中、平常心を保てていた森宮皇斗や愛香は異常だ。


「───小寺真由美を殺した」


 池本栄の情報

 ①小寺真由美を殺した

 ②???

 ③???

 ④???

 ⑤???

『スクールダウト』

情報の公開される順番 津田信夫・森宮皇斗・宇佐見蒼・森愛香・池本栄・村田智恵

現在 情報①の開示

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かったぁ~。 なんとか愛香が折れてくれた。 そしてとうとう栄の番。 でもこれは情報内容より情報公開による 周囲の反応との戦いになりそうですね。
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