4月9日 その⑫
マスコット先生の、声に反応し皆が一気に静まる。このゲーム、真偽のわからぬ5つの情報を見て人を疑うのも重要だが、1つだけ真偽がわかる情報を理解するのも重要だ。
向けられる疑いの目が「嘘」とされれば潔白が証明されるし、「真実」だと分かれば差別の対象───いじめの対象にされてしまうだろう。
宇佐見蒼についての5つの情報は以下の通りだ。
宇佐見蒼の情報
①両親はウサギだ
②彼女を殺した
③デスゲームならば、人を殺してもいいと思っている
④これまで、いじめられていた
⑤生徒会に属している人を知っている
「では、投票に移りましょう。5人は目の前にあるタブレットで投票してください。もちろん、どれにいれるか話し合ってもらってもいいですよ!」
マスコット先生の言葉。
「どうする?」
森宮皇斗は、もう絞れているような視線が見える。早い。早すぎる。
「少し、考えさせてくれ」
俺はそう述べる。
───まず、情報①両親はウサギだは確実に嘘だ。
わざわざ何故嘘かなんて、説明しなくてもわかるだろうけど、一応。兎から人間は生まれない。
嘘だとわかっているこの情報にわざわざ投票するバカはいないだろう。
ポイントを手に入れて、1位になれば5万コインを貰えるのだ。せめて、正解を手に入れたい。
現在、俺が持っているのは1ポイントだ。できれば、ここでも1ポイント手に入れておきたい。
そして情報⑤の真偽を明かしてしまった場合、生徒会メンバー全員の緊張を煽ることが失敗してしまう。
故に、真偽問わずに投票してはいけない。これは、白黒を付けないほうが賢明なのだ。
ならば、残された選択肢としては②か③か④となる。
②彼女を殺した
③デスゲームならば、人を殺してもいいと思っている
④これまで、いじめられていた
推理材料としては───
「あ...」
「どうしたの?」
俺の口から、思わず驚きの声が漏れていた。隣に座っている智恵が、不思議そうな目で見てくる。
何を思いついたのか、結論だけ述べておく。それは、情報②か情報③のどちらか片方は確実に嘘だと言うことだ。
それは、何故か。
これは情報③の文言に関連する。「③デスゲームならば、人を殺してもいいと思っている」と記載されているが、「ならば」と言うデスゲームだけと限定する部分が、情報②の「彼女を殺した」と矛盾している。
もし、本当に彼女を殺したのならば「人を殺してもいいと思っている」と、デスゲームに限定しないような文言になるはずだ。
実際、このデスゲームの運営は言葉で騙すようなことをしてくるので、言葉選びのミスだとは思えない。
もし情報③が本当ならば、宇佐見蒼は彼女なんか殺していない。そして、情報②が本当ならば、デスゲーム以外で人を殺した殺人犯となってしまう。
ならば、本当の情報は③となる。
情報④のいじめられていたと言う内容は、真偽の考察ができない。俺は、宇佐見蒼の過去を知らないのだ。
ポイントをほぼ確実に手に入れるなら「情報③」に入れるのが得策だろう。
「───時間をくれてありがとう。どれに入れるか決めたよ」
「栄は何に入れるの?」
「俺は情報③に入れる。智恵は、情報⑤以外の好きなのに入れなよ」
「わ、わかった」
俺は、しっかり智恵を牽制する。森宮皇斗も森愛香も、情報⑤には入れていけないと理解しているので入れたとしても津田信夫の一人になるだろう。
情報①に入れるバカはいないであろうから、5つの情報に満遍なく1票ずつ入り、ルーレットに突入という選択肢は無くなる。
「皆に情報を言わない蒼は、きっと生徒会と繋がってるんや!それで、優遇してもらっとるんや!」
津田信夫が、そんな根も葉もないことを言っている。その可能性もあるかもしれないが、わざわざ宇佐見蒼と協力する理由はないだろうし、協力しているのならスクールダウトの「本戦」には出ないだろう。
宇佐見蒼の情報
①0票
②1票
③2票
④1票
⑤1票
俺は、情報③に入れた。情報①は嘘なので、俺以外にも2人が1ポイントを手に入れていることとなる。
「お、今回はルーレットは必要ないみたいですね!」
マスコット先生がそんなことを言っている。今の所、3個連続で俺が入れた物が公開されている。俺の利点としては、自分が今、何ポイント持っているのか理解できることだろう。
「では、情報③の『デスゲームならば、人を殺してもいいと思っている』の真偽を発表します!」
マスコット先生は、やはりまた口で「でけでけでけでけ」と言っている。
「情報③デスゲームならば、人を殺してもいいと思っているはリアル!」
俺のタブレットに、赤い「◯」が浮かび上がる。俺は、今の所2点所持している。画面右端のマスコット先生はもう気にしない。
───情報③は真実。
「ほう、宇佐見蒼は誰か殺してもいいと思っているのか」
森愛香が金色の扇で自らを仰ぎながらそう述べる。
「バレちゃった物は仕方ないピョン...そうだピョン。デスゲームなんだから、人を殺さないと面白味が無いピョン!それとも、ボクの言い分は間違ってるピョン?」
「皆で、生き残る方がいいと思わないのか?」
俺は宇佐見蒼に問う。
「残念ながら、思わないピョン。大切なのはボク自身の命だピョン!」
きっと、宇佐見蒼はいくら言っても意見を曲げないだろう。
だから、俺は口論することはなかった。
だが、言おうと思えば声を大にして言える。
「宇佐見蒼は間違っている」と。





