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4月9日 その⑧

 

 ***


 今から、17年ほど前。2010年2月22日のことだった。


 一人の少年が、この世界に生まれ落ちる。だが、すぐには泣き声をあげなかった。


 ───死産か。


 出産を見守る者達が、皆不安になった時だった。その不安を杞憂だったと否定するかのように、少年は大きな泣き声をあげたのだ。


「───よかった...」

 不安の次に襲いかかる安堵。ジェットコースターのように変化する感情に、身を任せて無事にその少年───森宮皇斗の出産が成功したことを安堵した。



 ───そして、出産してから7ヶ月後。


「ははうえ」

 皇斗が話し始めたのは、7ヶ月を過ぎた頃。人としては、異例の事であった。

 これも皇斗の天才たる所以だろうか。それとも、神が授けた「必然」なのだろうか。


 その後、皇斗は成長し続けた。父親の部屋にある限りの本を読み尽くした。言語を理解するのも、皇斗は早かった。


 そして、5才児になる頃には大人顔負けの───いや、大人ボロ負けの知識を蓄えた。


 一体、そんな子供が世間一般に混じって、上手くやっていけるのだろうか。答えは断じて否。


 皇斗は、「精神異常」と認識されて精神病院と通うことになったのだ。


 もちろん、皇斗はネットに溢れている陳腐な異世界転生などというものの主人公でもないし、前世の記憶を引き継いだ人物でもない。


 故に、精神に異常はないのだ。なんなら、その逆。超安定していた。森宮皇斗は生まれながらにして冷静沈着。冷静さを欠かせたことなどこれまでの人生の中で一度たりとも無かった。


 ただ、知識を欲する好奇心と、その知識を溜め込めるだけの脳が森宮皇斗を「異常」としたのだ。


 彼は、精神疾患と判断されて精神病院に通うことになった。


 ───そして、今に至る。


 ***


「と言った感じだな」

 森宮皇斗が、過去を述べた。


「これが作り話だと思うなら、そう思えばいい。だが、余は余なりに話したつもりだ」

「生後7ヶ月って...早すぎじゃない?」

「早くても話せるようになるのは9ヶ月くらいだと思うピョン!」


 宇佐見蒼は正しい。本来の赤ん坊なら、早くても9ヶ月くらいから話し始める。声帯の発達などからも考えて、7ヶ月から話し始めるのはおかしい───と、考えるも目の前にいるのは森宮皇斗。


 楽器ならば、なんでも弾けて田口真紀の話した謎の言語をすぐに解読し、同じであろう言語で返答することができる森宮皇斗。


 ならば、生まれも素晴らしいのではないか。生まれたときから、才能に恵まれていたのではないかなどと考える。


「では、自分語りも終わったところで情報⑤を!」

 マスコット先生が情報⑤を言い始める。


「情報⑤これまでズルをしている」


「ズ、ズルやと?」

「ズルなんてしてるピョン?!」

「どうだろうな」


 ざわめき。傍観者達が、ざわめき立っていた。


 このゲームに出ていたのもズルだとしたなら。もしかしたら、今話した過去は全て作り話だったのなら。

 このデスゲームの攻略法を、全て教えてもらえていたのなら。


「お前ら、鎮まれ!投票で決めればいいだろう?」


「これまでズルをしている」という本来ならば驚くべき情報によりざわめいていた傍観者達が、森愛香の一声によって静寂に変わった。


 もし、「これまでズルをしている」というのが本当なら。


 俺の思考が逡巡する。どれが真実でどれが嘘か。


 森宮皇斗の情報

 ①8分ほどなら息を止められる

 ②過去にもデスゲームに参加したことがある

 ③生徒会に所属している

 ④精神病院に通っていたことがある

 ⑤これまでズルをしている


 自分なりに解釈した結果、②はきっと嘘であろう。マスコット先生はこの前「今回のデスゲームに、前のデスゲームの生き残りの子供が参加しているか?」という質問に「はい」と答えた。



 ───いや、待てよ。


 この「今回のデスゲームに、前のデスゲームの生き残りの子供が参加しているか?」は俺がした質問だ。

 生き残りの子供が参加しているのが「はい」なのであって、過去に参加した人も「はい」とも「いいえ」とも言ったわけではない。


 ならば、森宮皇斗は前回のデスゲームにも参加している可能性がある。



 ───いや、待てよ。


 その直前にマスコット先生がした例えは、「王になる」という話だ。


 ───では、一度王選を乗り越えて王になった者が、もう一度王選に参加することはあるのだろうか。


 答えは否。


 一度、王になった者は王戦には参加せずに王戦の運営側になる。




 ───ならば、情報②は(ブラフ)と考えられる。


「では、投票に移りましょう。5人は目の前にあるタブレットで投票してください。もちろん、どれにいれるか話し合ってもらってもいいですよ!」


「───どれに投票するピョン?」

「妾は自らが真と信じるものに入れる!」

「真偽がわかった方がいい情報は...生徒会か?」

「そ、そうやな!この情報が真実ならとっとと殺すんや!」


 投票で、錯乱しているのは津田信夫だけだ。森宮皇斗には全く焦るべき要素はない。


「栄はどうするの?」

 智恵が、俺の耳のすぐ隣で囁く。


「俺は、4に入れようと思ってる」

「私は...何に入れたらいいかな?」

「正しいかはわからないけど、俺は皇斗の話してくれた過去の話を信じようと思う。智恵も、智恵が本当だと思った情報に入れればいいと思うよ」

「あ...わかった...」


「ボクはどれに入れようか迷うピョン...」

 各々が投票を終える。そして───



 森宮皇斗の情報

 ①0票

 ②0票

 ③2票

 ④2票

 ⑤1票


 情報③「生徒会に所属している」と情報④「精神病院に通っていたことがある」が同率で並んだ。


 きっと、情報が公開されるのならば情報③がいいだろう。


「では、情報③と情報④のどちらの真偽を発表するか、ルーレットで決定します!」


 白板に、webルーレットが映される。そして、「情報③」と「情報④」の2択でルーレットは回りだす。




 結果は───

なーんか、納得いかないような...


『スクールダウト』

情報の公開される順番 津田信夫・森宮皇斗・宇佐見蒼・森愛香・池本栄・村田智恵

現在 森宮皇斗 情報の公開

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬぬぬっ。 情報が公開されていくにつれて、 どれが嘘か、本当か分からなくなる。 でも皇斗でこれだからなあ。 栄や智恵の時はもっと荒れそう。
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