主役の少女と端役の少女
タイトルの読み方は「ハルシネイトとシンデレラ」です
栄を救出するという目的のために走り出した智恵の後ろ姿を見て、梨花は小さく息を吐く。
──もう、拓人はいない。
首が無くなった茉裕の死体を見下ろしながら、拓人を失った悲しみを思い出す。
拓人殺害の実行犯は、茉裕ではなく鈴華だ。
だが、その鈴華を操っていたのは茉裕。だから、仇の首魁をこれで潰したことになる。
終わった、終わったのだ。
梨花の復讐の矛先は、向ける方向が完全に無くなった。
──だというのに、心が晴れない。
「おかしい、なぁ……」
茉裕の死体を前にしながら、顔をくしゃくしゃに歪める梨花。その目からは、大粒の涙が堰を切ったようにあふれてくる。だが、堰を切っても一人。
梨花に寄り添ってくれる人など、どこにもいない。茉裕は、梨花から美沙までもを奪ったのだから。
親友と恋人。
その2人を直接的及び間接的に殺した人の死体を前にしても、気持ちは晴れるどころか澱んでいく一方だった。
「復讐って、もっとスカッとするものじゃなかったの?」
右手首で涙を拭いながら、梨花はそんな言葉をこぼす。
茉裕は死んだ。
目の前に倒れている首無き胴と、少し遠くに転がっている胴無き首がその証左だ。
仇は死んだ。
復讐したい相手は死んだ。
これで、これで、よかった。これでよかったはずなのに。
「苦しい、苦しいよぉ」
拭けども拭けどもあふれてくる涙の処置の仕方を、梨花は知らない。
そして、涙の処置に困る梨花に手を差し伸べてくれるような恋人や親友ももういない。どこにも、だ。
「もう嫌だよ、アタシ」
そんなことを口にする梨花は、生きる目標を無くしてしまった。
デスゲームが始まる前は、まだよかった。生きる目標なんか無く漫然と生きていけるだけのモチベーションがあった。
デスゲームが始まってからも、拓人と付き合いたい──だったり、絶対生き延びてみせるというやる気があった。
拓人と付き合ってからは、このまま2人で生き延びることを誓い合った。
そして、拓人が死んでからは茉裕に対する復讐を胸に宿した。
だって、拓人殺害の実行犯である鈴華は死んでしまったから。栄が、鈴華を殺したから。
茉裕はどうだろうか。茉裕こそは自分の手で殺してやる。それを目標に今日まで頑張ってきたはずなのに、目の前で智恵にその特権を奪われた。
栄と智恵のカップルに、敵討ちの権利さえ持って行かれてしまったのだ。
無論、梨花はこれが不当な逆恨みであることを理解している。立場としては、「鈴華と茉裕の2人を殺してくれてありがとう、これで拓人も美沙も救われた」などと感謝を口にしなければ相手だ。
そして、苛烈な戦闘の中で「トドメは自分が刺したい」だなんて我儘を言える状況ではなかったしハイエナ行為に近い割り込みを自分がしなかったことも承知だ。
きっと智恵はハイエナ行為を許してくれただろうが、その時は自分で自分を許せなかったような気がした。
──結局、タラレバ論だ。
梨花は涙の処置を諦め、丸腰で泣き続けながらそんなことを思う。
ハイエナ行為をしても満足いかないし、目の前で綺麗に仇が討たれたとしても納得しない。
努力を重ねて復讐の鬼となることは拓人が望むこととは思えない。
「──アタシはどうすればいいの?もう、もう嫌だ」
天井に剣が刺さった彼女は、茉裕の死体を傷付けることさえできない。茉裕の死体を前にして、ただ拓人と美沙の2人を想い続けるのだった。
──彼女を救う白馬の王子様はもういない。
──彼女を助ける魔法使いだってもういない。
シンデレラは、いつまでも煌びやかな舞踏会を憧れ続けるのだった。
***
『魔帝』の死亡により、また『死に損ないの6人』は半分にまで数を減らす。
残っているのは『剣聖』と『古龍の王』、そして『羅刹女』の3人だ。
現在、『剣聖』は健吾と純介・紬の3人で『魔帝』探しと栄探しを同時並行で行っており、『古龍の王』は栄救出を阻むラスボスとして稜と梨央、美緒に立ちはだかっている。『羅刹女』は未だ消息不明だが、王国戦争に参加することだけは判明している状況だ。
『死に損ないの6人』と龍種、そして『親の七陰り』やドラコル教。
多くの人がドラコル王国に反逆を示した王国戦争も、終わりが近付いている。
残っている敵は、未だに正体を現さない『羅刹女』を除けばラスボスである『古龍の王』のみ。
その『古龍の王』との戦いは、ラスボス部屋である城内都市パットゥの第五層にて既に開幕しており──、
「──〈星月夜〉!」
「〈衝撃吸収〉!」
美緒が弓矢で攻撃し、稜が盾で『古龍の王』鼬ヶ丘百鬼夜行の攻撃を受け止める。
「実そ
力の
を程
つ度
けじ
たゃ
な俺
。を
し倒
かせ
しな
、い」
常人であれば両手でも持ち上げることの出来なさそうな大剣を両腕に1本ずつ持っている百鬼夜行。
『古龍の王』なのに武器は剣を使うのか──とツッコミをいれたくなるが、百鬼夜行曰く「『古龍の王』に相応しい龍の姿をしていたのはゲーム版のラスボス」らしい。
先代の『古龍の王』は、魔法で龍に変えられてしまったという逸話があり、それは本来ゲームの本編で語られるものだが、『古龍の王』が先代から百鬼夜行へ代替わりしたこともあって語られることはなかった。
ここまで先代『古龍の王』は登場していないし、ラスボスという立場を百鬼夜行に奪われた以上不必要な話だっただろう。現在、地下牢に幽閉されているのだって先代『古龍の王』が死亡したらイベントが進んでしまうからに過ぎない。
──先代『古龍の王』の話はここまでにして、当代『古龍の王』と勇者一行の戦いの話をしよう。
これは、努力と友情を結実させ勝利を掴もうと奮戦する勇者一行の物語──。





