勇魔決戦 その㉖
良い話と、悪い話。どちらから聞きたいですか?
──いや、ごめんなさい。一度言って見たかったんです。
やっぱ、養護教諭ってお医者さんみたいじゃないですか。私もデスゲームに協力するために、医師免許を取ったんです。まぁ別に、デスゲームに参加する前からも医者になりたいとは思ってたんですけどね。
今やってるのは、どうしてか医者じゃなくて養護教諭です。別に不満には思ってませんよ、こうして旦那と一緒にデスゲームを運営している毎日は充実してますから。
ごめんなさい、話が逸れてしまいましたね。
アナタには今から、2つの話をします。ポジティブな話題とネガティブな話題が1つずつだから、良い話と悪い話のどっちからがいいかって訊いたわけです。
──では、悪い話から。
第5回デスゲーム生徒会メンバーの園田茉裕が死亡しました。
これまで5回デスゲームをやってますが、過去にデスゲームの途中で生徒会メンバーが死ぬのは初めて──いや、厳密にはこれで2回目ですね。私が参加した代でも1人。まぁ、彼女は自分が死ぬことも作戦の一つに入れていたから、実質的に私達の勝ちなんですけど。
だから、今回のような完全敗北は初めてです。茉裕ちゃん、筋は良かったんですけどね。やっぱり、それ以上のイレギュラーが多い第5回デスゲームじゃ生き残るのは難しかったですね。もしアナタと同じ第3回デスゲームに参加していたら、きっと生き残っていた。逆に、アナタが第5回デスゲームに参加していたら死んでいたでしょうね。多分、その場合はそもそも生徒会メンバーになっていないし初日で狂い死んでいるはず。新生活って辛いものですからね。
──やだなぁ、冗談じゃないですか。
アナタの特殊体質?審美眼?を理解してるだけ凄いと思ってくださいよ。社会ならそれは立派な中二病に診断されますよ?手術成功率0%で自然治癒力でしか治すことができない病気。でもまぁ、ほとんど中二病の世界ですけどね。「七つの大罪」とか──。
──はいはい、ごめんごめん。それじゃ、良い話をします。
村田智恵が、「七つの大罪」を暴走させました。それもかなり、末期みたいですよ。
***
七つの大罪。
それは、人間が背負うにはあまりにも重すぎる業の名前だ。
──「七つの大罪」はその名の通り、7つある。
7つあるだけで、全ての人間が7つ持っているわけではない。
前にも出した例をあげるのであれば、人の中には傲慢な人間も、それとは逆に謙虚な人間もいるということだ。謙虚な人間を指差し「お前は傲慢だ」などと言い張る方がよっぽど傲慢だろう。
──と、先程は「全ての人間が7つ持っているわけではない」と述べたが、それは逆説的に「7つ持っている人間がいる」ことの証明でもある。
実際、「七つの大罪」を全て持っている人間は存在する。それが、村田智恵だ。
「七つの大罪」を全て保有し、尚且つその総量も人と比べて異常なまでに多い。
そんな彼女は現在、「七つの大罪」の1つ──強欲を暴走させて、『七つの大罪 第伍冠 強欲者』となっていた。
暴走させたことにより、智恵の脳内には彼女が心の底から欲する最愛の人──池本栄が幻覚として存在している。
そして、その幻想の池本栄──通称、イマジナリー栄は智恵の肉体を乗っ取ろうとしている。
実体のない幻想は、幻想を見る実体の乗っ取りを画策し、現在それはほとんど成功していた。
だからイマジナリー栄と智恵の発言が被るし、栄のために生み出した必殺技を茉裕に向けて放った。
──このまま、智恵の自我は消滅して完全に栄に乗っ取られてしまう。
そうなれば、智恵の体の主導権を得たイマジナリー栄は本物の栄を殺そうと画策する。
そして、その殺人計画はゲームの世界において実行することなど簡単だろう。
栄が殺されたのなら、第8ゲームのクリア条件が達成されることは無くなり、デスゲーム参加者は永遠にゲームの世界から抜け出すことができなくなる。
即ち、智恵の自我が完全に消滅した時こそ、デスゲーム参加者の命日と言っていい。
しかし、智恵は自分がそんな重荷を背負っているどころか、イマジナリー栄に自我が乗っ取られていることにさえ気付かず、抵抗の1つもしないで自我を消滅させようとしていた──。
***
園田茉裕。
第5回デスゲーム生徒会メンバーの紅一点にして、自分に好意を持った人を操ることができる特殊体質を持つその悪女の首が、胴体と泣き別れになる。
もう既に彼女の喉は形を成していない。だから、現状を覆すような魔法が使われることもない。
その表情は恐怖で歪んでおり、彼女が持っていた美貌は崩れている。
園田茉裕を殺した。
その事実を知ったら、一体どれだけの命が智恵のことを狙うだろうか。彼女に心酔し、操り人形も同然になっていた人は報復しにくるだろうか。
もし鈴華が生きていたなら、真っ先に飛んできて茉裕の弔い合戦を行っていただろう。
「──倒した……」
肩で息をしながら、俺はそう口にする。
どれだけ集中していたのだろうか、呼吸まで忘れていたような気がする。肺の中が空っぽだった。
智恵は俺がいないと生きていけない。呼吸の仕方まで、全部俺が教えてあげる。だから全部、俺に任せて──。
「──智恵」
俺の後ろで、智恵の名前を呼ぶのは共に戦った一人の少女──秋元梨花であった。
「──何?」
「行って」
主語が無いそんな命令の意図を、俺は理解できかねる──私は、栄を助けに行かなくちゃ!
「──わかった、ありがとう!」
そう口にして、私は走り出す。イマジナリー栄も力を貸してくれた、なんとか茉裕を倒せた。
次は私が力を貸して、栄を助ける番。
だから、栄がいるところまで急がなくちゃ!
──心の中でそう思い、城内都市パットゥの第五層の最奥へ走り出した智恵は、自我を取り戻す。
彼女の栄を思う強い心は、イマジナリー栄の乗っ取りを綺麗に跳ね除けたのであった。





