勇魔決戦 その㉕
「──〈変容する魂の片鱗〉!」
地面に落ちてきた茉裕の首を狙い、私が空中で手放した剣を梨花が振るう。
梨花の愛剣は、現在天井に突き刺さっている状態だから使うことはできない。
「──ッチ!〈森羅万象を破壊する重力〉!」
茉裕は舌打ちをして、即座に梨花に対して重力魔法をかける。梨花の振るう私の剣は、茉裕の首には届かず腹部を斜めに斬り伏せる。
攻撃は通ったけれども、致命傷ではない。
「──〈超──〈スーパー・ヒール〉」
『途中で詠唱を変えた?』
ってことはやっぱり、茉裕にMPの余裕がないということだ。
最初に詠唱していた〈超回復〉はSランクの回復魔法だけど、Aランクの魔法に格下げしたということはMPを節約しようとしていることが見て取れる。
「く、重……」
〈森羅万象を破壊する重力〉により、増幅した重力に押しつぶされそうになっている梨花が腹から空気を漏らすようにそう口にする。
『梨花を助けないと……」
私と栄の声が重なったような気がする。同じことを考えているみたいだった。
私は梨花の方へと駆け出し、回復魔法でみるみるうちに傷が癒えていく茉裕が梨花に攻撃する前になんとか剣を受け取る。そして──
「──〈陽光斬り〉!」
私が技名を口にすると同時、茉裕は後ろに大きく退く。茉裕の体に刃が届くことはなかったが、梨花と距離を取らせることには成功した。
『このまま攻め続ける!」
また、私と栄の声が重なる。以心伝心の一心同体になったみたいで、なんだか嬉しい。
私は剣を振るい、茉裕を攻め続ける。魔法杖しか持っていない彼女は、接近戦に弱いはずだ。
「──しつこいわねッ!」
私の剣筋がまだ足りないのか、茉裕は私の剣を回避する。
『もしかしたら、魔法で動体視力を上げているのかもしれない』
私の頭の中で考えていたことを、栄が代弁してくれる。
私一人じゃ不安だけど、栄もそう推測するなら正解に近そうだ。
動体視力が上がっているのならどうしよう。
『やっぱり見極められない速さが重要かも?』
フェイントを混ぜてみても良さそう。
『それとも茉裕が観たことのない技ならいけるかも』
あ、いいこと思いついた。魔法を付与して剣の先を伸ばすってのは?
『いいかもしれない。実践してみよう』
脳内で栄と作戦会議する私は、茉裕を倒す方針を決める。
「──〈焔天の月〉!」
「またこの技──ッ!」
茉裕が炎を纏った私の愛剣トリカブトを避けようとするが、ライトセーバーのような形で炎で刀身が加算されることは想像だにしてなかったのか、避け切れずにその体に炎の刃が通る。
苦し紛れに声をあげる茉裕が、さっきと同じように回復魔法を使おうと魔法杖を握る。
『そんなこと、させるかッ!」
私と栄の声がまた被った。なんだか、イマジナリー栄と私の動きもシンクロしているみたい。
さっきから栄の姿が見えないけど、栄を纏っているような感覚がする。栄が私の一番近い所にいる──そんな気がする。
『〈表裏一閃〉!」
私の剣が上から下に振り降ろされて、茉裕の魔法杖を持つ右腕を斬り落とす。
風の刃に殺傷力があるのなら、炎の刃にだって人の腕くらい斬れるのだ。
「──ッ!腕が」
茉裕が驚くような声を出す。だけど、魔法杖は斬り落とした右手の中にあったから回復魔法を使うことはできない。
──今が、チャンスだ。
俺は、即座に右足で足元に転がった茉裕の右足を蹴り飛ばす。茉裕とはここで決着をつける。
ここで一人、生徒会を潰す。
「──誰か助けて!」
茉裕が情けない声を出す。助けを求めても、誰も来ない。私の俺の剣からは、逃れられない。
──その時、後ろから声が聴こえる。
「──智恵、気を付けて!茉裕はナレーターを操ってる!だから──」
「──だから?」
栄がそう口にしたと思ったはずなのに、いつの間にか私はそんなことを口にしていた。
そのまま栄に身を任せてみてもいいな、と思った。
「俺の人生にナレーターなんかいない。俺の人生の主人公は、俺だ!」
俺はそう口にして、強く剣を握る。そして、必殺の構えを取る。
──これは、私しか知らない必殺技。
──これは、私が「栄ならこうするかな」って妄想していた必殺技。
──これは、俺の必殺技。
「──〈業火の英雄〉」
円を描くように、炎の残像が宙に残る。俺自身がその場で一回転して、剣を振るったのだ。
俺の全体重を乗せられるこの技は、智恵の体であるとはいえ強力な一撃となる。
「──かはっ」
喉を搔っ切られた茉裕は、肺から喘鳴を出している。
魔法杖の弱点は、魔法杖を取られることだけではない。魔法を詠唱できなければ使えないのだから、喉を切られても終わりだ。
「──残りの生徒会は誰か訊こうと思ったが、喉を切っちゃったらもう話せないな」
茉裕は痛みに耐えかねて顔をゆがめている。智恵と比べれば劣るけれど、それなりに可愛い顔をしている方だろうがそれも台無しだ。
きっと、これまでその体質でチヤホヤされ続けてきたのだろう。そして、第8ゲームに入ってからも魔法に頼りきりでほとんど怪我をしてこなかったのかもしれない。
「俺だって鬼じゃない。苦しめて殺そうだなんて思ってない」
俺はそう口にして、剣を構える。そして、一太刀──。
茉裕の首が、弧を描くようにして宙を舞う。
──生徒会の一端である園田茉裕。
──その命の灯火は、智恵という業火に飲み込まれて消えていった。





