勇魔決戦 その㉓
前回の話で800話突破していたらしい。
──『魔帝』と『焦恋魔』の戦場に姿を現したのは、茉裕に間接的に恋人を殺され、直接親友を殺された秋元梨花だった。
恋人と親友。
デスゲームに参加してからケンカをしながらも間違いなく心の支えになってくれていた2人を殺された彼女は、復讐を挑んでいた。
──王国戦争の最中に行われた勇魔決戦の第一幕。
彼女は前述の通り、親友を殺されながらも彼女をあと一歩のところまで追いつめた。彼女の手の中にあった魔法杖を破壊し、落下死させることを試みた。
だが、それは失敗に終わり茉裕とははぐれてしまった。
茉裕を探すために城内都市パットゥの第一層を奔走する梨花であったが、跋扈する巨人兵の姿を見て茉裕がそこにいることを確信。
そして上層へ弾き飛ばされる人影が見えたから、一縷の望みに賭けて再度第五層の方へと階段を駆けて行ったのだが──、
***
「──まさか、本当に出会えるなんてね」
「梨花!」
「智恵、茉裕を倒すのに協力して。アイツは、拓人だけじゃなく美沙まで殺したの!」
「──え……」
唐突に告げられた美沙の死に、私は少なからず動揺してしまう。
美沙は、昔の私と似ていた。私も昔のことを思い出すのは嫌だったから深く関わろうとはしなかったけれど、何か助けに慣れるようなことができたのかもしれない。私が何かできていれば──、
『──智恵。落ち着け』
私の思考の合間を縫って、声をかけてくるのは栄。
いつの間にか私の肩を抱くようにして立っていた幻想の彼は、私の呼吸が整うのを待ってくれている。
『智恵が思い詰める必要はない。これはデスゲームだ。誰かが死ぬのは嫌だけど、俺達の手はこんなに小さくて短いんだ。どうしても、届かない範囲はある』
「──そんなの」
『悔しい。俺だって悔しいよ。智恵の頭の中でしか生きられないことも悔しいし、きっと本物の俺が美沙の死を知ったら檻の中にいただけで何もできなかったって悔しがるはずだ』
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら、栄はそんなことを口にする。私の中の栄も、私と同じように悔しらしい。
『美沙の死を悲しむのも悔しがるのも大切だけど、今じゃない。まずは茉裕を倒す。優先順位はそれが一番だ』
「──うん」
私と栄の密談そう結論付いて一度終わりになる。美沙のことは悔しいけれど、茉裕との戦いに集中するために私は両手で大きく自分の両頬を叩いた。
「──智恵?」
頭の中の密談を知らない梨花は、びっくりしたような顔で私の方を見る。
きっと、急に自分の顔を叩いたことにビックリしたのだろう。
「今、美沙のことで覚悟を決めたの。梨花、一緒に茉裕を倒そう」
私は、梨花の方へ真剣な眼差しを向ける。そして、お互いに頷きあうと──。
「なんか智恵、栄に似て来てる。洗脳でもされたの?」
上空にいる茉裕が口を挟んでくる。栄に似てる──そう言われると、ちょっと嬉しくなる。
けど、洗脳されてるわけじゃない。失礼だ。
『洗脳って……失礼だな』
栄は眉をひそめながら頭を掻いている。どうやら、私と同じことを思ってるらしい。
いや、私が栄と同じことを思っているのかもしれない。けど、どっちが先だなんてわからない。
『そうだな。卵が先か鶏が先か──みたいな言い争いになりそうだ』
私の言いたいことを感じ取ったのか、栄はそんなことを口にする。
「──で、バカップルのことはおいておいて。どうしてアンタは魔法杖を持ってるのよ。アタシが壊したはずでしょ」
「奪い取った。考えるまでも無い、簡単なことよ」
「──最低ね」
梨花や私の知らないところでも、誰かが殺されて魔法杖が奪われたのかもしれない。
梨央や紬も魔法を使っていた。もしかしたら2人の内どちらかが──、
「ま。先代『魔帝』の弟子を謳う割には色々物足りなかった感はなかったわね」
茉裕が魔法杖の持ち主を嘲笑うようにしてそう口にした時、その魔法杖の持ち主が梨央や紬ではないことに気が付く。
2人は先代『魔帝』に弟子入りしていないし、そもそも出会った事も無い。私の知らない誰かが犠牲になったのはわかるけど、それが私のクラスメイトじゃないことがわかって少し安心する。
「──智恵。茉裕は強力な魔法を大量に放ってくる。だから気を付けて」
魔法杖を持った梨花は、そうアドバイスをしてくれる。私も、それに「うん」と静かに頷いた。
「アタシ達が前に取った作戦は、土魔法で道を作って魔法杖を奪う。でも、今回は道を作れるほど強靭な魔法を使える人がいない。だから、その作戦を取るのは難しい」
「じゃあ、どうする?私達が思いついたのは、使える範囲の風魔法を重ね掛けして茉裕のところまで飛ぶ──って感じだったんだけど。私と梨花が力を合わせればさ、茉裕のいる高さまで飛べそうじゃない?」
「風魔法の重ね掛けか……やってみる価値はあるかも」
私と栄が立てた作戦に梨花も同意を示してくれた。2人でタイミングを合わせて風魔法を起こし、茉裕の元まで飛んでいけば──、
『──あ。思いついた』
栄がピンと来たように、追加で何かを思いついたようだった。
『今から言うことを、茉裕にバレないように梨花にも共有してくれ。いいか?』
幻覚の栄がそう口にして、私に笑いかけてくれる。その笑顔が暖かくて、なんだかとっても嬉しくなった。





