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4月1日 その⑤

 

 教室に、滞る沈黙。目の前で、人が死に、デスゲームだと強制的に納得させられたのだから当然だ。


 そして、これが単なる事故死だと片付けられない理由だってあった。

 それは、死体回収班の仕事の速さだ。死んだ瞬間。そう、1分もなかった。


 それなのに、死体を回収したのだ。事故死なら、もっと時間がかかるだろう。


 死ぬことがわかっていたのか、それとも先生の仲間が殺したのか。


「もう、みんな固いんだからぁ。緊張してるんでしょ?入学初日で話す友達もいなくて、緊張してるんでしょ?わかるよ。わかる。私も席替えとか嫌いだったもん」

 マスコット先生はそんな事を言っている。先程までは敬語だったはずなのに、その敬語も無くなり友達のような距離感で皆に話し始める。


「───なぁ、マスコット先生。一つ、質問いいか───いや、いいですか?」

「おぉ、敬語が使えるんですね。で、なんですか?」

 一人の少年が質問する。彼は、窓側から3番目の最前列に座っていた少年だ。


「目的...は、なんですか?」

「目的、ですか。うんうん、それは大事。ものすごく大事ですもんね。何を理由に殺されるのかも知らずに死ぬのは漢としてダサいですものね。冥途の土産程度にでも教えてあげましょう。私の───いや、私達の目標は、真の天才を育むんです!」


「真の天才?」

「はい。何だそれって、疑問に思いましたよね。何か知りたいですよね。でも、教えられないんですよぉ。残念、残念。残念です」

「───ッ!」


「どうしましたか?えっと...中村康太(なかむらこうた)さん」

 質問をした少年は、中村康太と呼ばれる。


「いえ、なんでもないです」

「そうですか。では、デスゲームの説明も終わりましたし入学式でもしましょうか」


 ”パチンッ”


 そう言うと、マスコット先生は指パッチンを鳴らす。


 ”ビンッ”


 白板に、映像が映し出された。

 「デスゲーム」だと聞かされて、その状況を完璧に理解できていない俺達を待たずにその映像は再生される。


『皆の者、聞こえるか?』


 映像に写っていたのは、スーツ姿の人間が一人。声は───少し編集されているが男のようだ。顔は───隠されている。得られる情報を探すために背景を見るも真っ暗だ。深淵の闇のようにドス黒い。人間の心のように漆黒の色をしていた。


『先に、この映像は録画であることを断っておく。故に、「お前らなんか、ぶっ殺してやんよ!」なんていう宣戦布告も意味はない。内申点が下がる程度だろう』


 その男は、そう前置きを置いた。


『この私は誰かをまずは明かさねば。私は、このデスゲームの運営のトップとも言えるGM(ゲームマスター)だ。そこにいるマスコット先生の上司とも言えるな』


 マスコット先生は、皆の方へ向けて手を振る。自らをアピールしているようだ。


『このデスゲームを、皆で協力して乗り越えてもらいたい。最善を尽くせば、誰も死なないでクリアすることだって可能だ』


 GMは、そんなことを言う。もう、金髪の少女は死んでしまったと言うのに。


『え、もう一人脱落したって?ははは、面白い冗談だな。そんなわけないだろう?だって───』


 ”ガサガサガサ”


 唐突に、大音量で物音が流れる。「だって」の後は聞き取ることができなかった。


「撮影ミスじゃないですかぁ...GM、ちゃんとしてほしいですねぇ...」


『私からの話は以上だ。幸運を祈っているぞ、天才達』


 皆、静かに映像を見ていた。一言一句、聞き逃さなかった。


 協力しろ?デスゲームなのに、協力するのか?殺し合わなくて、いいのか?


「はい、GMからのありがたいお言葉でした。入学式は、これにて以上でーす!」


「なんか...適当じゃない?」

「それなー」

 斜め前───出席番号9番の女子と、その左隣の女子生徒がそんなひそひそ話をしていた。


「入学式も終えたところだし、続いては自己紹介の時間にします?それとも、その前にアイスブレイクの時間にします?」


 皆、返事をしない。ここで、無遠慮な返事をしたら他の誰かを死に晒すことになるからだ。


「むぅ、返事がないですね...では、ルーレットで決めましょう!」


 ”パチンッ”


 マスコット先生が指パッチンを叩くと、webルーレットが表示された。


「では、アイスブレイクと...自己紹介...と」

 マスコット先生は、手元のPCでそれを入力した。


「あ、これもいいかも」

「なぁっ!」


 選択肢として、追加されたのは「ランダムで3人死亡」だ。


「こっちの方が、デスゲーム感があってよくないですか?」

「よ...よよ、よくないですよ!」


「そうだ、そうだ!」

「そうよ!」

 皆からの、反対の声が聞こえる。


「むぅ...では、一人減らしますね」

「「「そうじゃない!」」」


 人数の問題ではない。死ぬという選択肢を作ること自体、ダメなのだ。


「まぁ、四の五の言わずにルーレットレッツゴー!」

「あぁ!」

 マスコット先生は、「ランダムで2人死亡」に変更した後、ルーレットを回した。


 1/3で誰かが死亡する。


「さぁて、ワクワクルーレット!何がでるかな?何がでるかな?」

「お願い、死亡だけはやめて!」


 ”ジャンッ”


 選ばれたのは、「自己紹介」だった。


「よかった...」

 そっと胸を撫で下ろす自分がいた。誰も死なずによかった、と。


「では、自己紹介にしましょう。出席番号1番からでいいですか?」

「アタシからですか?」


「えぇ、お願いします」

「わかりました...」


 こうして、自己紹介が始まった。禁止行為がわからない今、自己紹介にも必要以上の緊迫がある。


 ───これが、デスゲームか。


 俺達には内容がわからない「禁止行為」と呼ばれるたった一つの地雷を踏み当てず、「1年間の学校生活」という砂漠を踏破する究極のデスゲームが今、始まった───。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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[一言] “だって”の先が気になります。
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