勇魔決戦 その㉑
勇魔決戦。
第二次王国戦争の中で行われた『魔帝』と勇者一行の戦いの総称が呼ばれており、現状は大きく分けて3つに分類される。
──第一幕。
『魔帝』の相手として選ばれたのは、梨花と健吾に美沙、そして『剣聖』の4人。
城内都市パットゥの第五層にて行われたその戦闘はまず、〈幻想蘇生〉で歴代『剣聖』を召喚することで面倒な相手である当代『剣聖』を『魔帝』の前から弾くことに成功し、そのまま『魔帝』は美沙を殺害した。
一方で、『魔帝』は魔法杖を梨花に破壊されてそのまま彼女と共に城内都市パットゥの第一層まで落下した。
──第二幕。
空中で梨花となんとか離れた彼女が次に接敵したのは、純介と紬。そして、『鋼鉄の魔女』。
当代『魔帝』と先代『魔帝』の弟子という因縁のある対決が行われ、『魔帝』のサブウェポンである鎌を破壊し丸腰にすることに成功するけれども、第一層から屋上に移った『魔帝』と『鋼鉄の魔女』の一騎討ちで『鋼鉄の魔女』が敗北したため、再度『魔帝』の手に魔法杖が渡ってしまった。
──第三幕。
魔法杖を再度手に入れた『魔帝』が向かったのは、最強が集う城内都市パットゥの第五層。
『森羅最強』森宮皇斗と『高慢姫』森愛香、そして成瀬蓮也がいる戦場に降り立った彼女だったが、皇斗を前に惨敗。
この戦闘で手持ちのポーションと魔力のほとんどをつぎ込んだ彼女は、この戦場から逃亡するために〈月光に揺れる亡人の影〉で皇斗の偽物を作り出した。
──そして、これから始まるのは第四幕。
彼女が逃げ出した城内都市パットゥ第五層の廊下にて、階段を昇って来た一人の少女と鉢合わせる──。
***
「どこにいるんだろう、栄……」
『閃光』アレンとの戦闘を経て、私は城内都市パットゥの第五層に到着する。
突然、天井が崩れてきた時はどうしようかと思ったが、なんとかイマジナリー栄が指示を出してくれたことで事なきを得た。
──と、今の智恵の頭の中には、イマジナリー栄と呼ばれる智恵が作り出した栄がいる。
これは智恵の持つ『七つの大罪 第伍冠 強欲者』が暴走したことで起こったもので、智恵の思い描く栄が脳裡に映って励ましの声をかけてくれていた。
『どこにいるのかは俺もわかんないな』
「同じ栄同士、感じる者とかはないの?」
『すまん、何もわからない』
幻覚だからか、少し色素の薄くなったイマジナリー栄は申し訳なさそうに眉を下げた。困ったような表情も愛おしい。
「でも、こういうのって大体一番上の一番奥にいるよね?」
『まぁ、そうだな。行って見る価値はありそうだ』
イマジナリー栄の合意も取れたところで、私は奥の方を目指して歩き始める。すると──
「──智恵」
上空から聞き覚えのある声で私の名前が呼ばれて、少し身震いをする。
この第五層は、三層や四層と比べてもかなり天井が高い。首が痛くなるほど見上げて、初めて私の名前を呼んだその少女の姿が見えてくる。そして、私は目を見開き──
「──茉裕ッ!」
『まさか今会っちゃうとはな』
早く栄のところに行きたいのに、生徒会の茉裕に出会ってしまった。
栄のところに急ぐか、茉裕の相手をするかの二者択一を迫られる。
「栄はどうしたらいいと思う?」
『──そうだな。茉裕がここにいるってことは、このまま俺の方へ向かったら百鬼夜行がいる可能性は大きい。茉裕と百鬼夜行の2人を同時に相手にするのはかなり面倒だと思う』
私が焦っていても、イマジナリー栄は冷静に分析してくれるから心強い。
イマジナリー栄の言う通り、栄を連れ去った第二回生徒会メンバーの百鬼夜行が本物の栄の傍にいると考えても良さそうだ。百鬼夜行は茉裕に操られているから、茉裕との連携も凄そうだしそもそも過去の生徒会メンバーは軒並み強い。
第三回デスゲーム参加者の廣井兄弟は、皆で力を合わせてやっと倒したし、同じく第三回生徒会メンバーの靫蔓は大怪我をした上で栄や誠と対等以上に戦ったらしい。
第三回でもそんなに強いのなら、それより上の第二回生徒会メンバーは仙人レベルだろう。
『魔帝』となった茉裕と、『古龍の王』である百鬼夜行を同時に相手にすることは私にはできなさそうだった。
「──茉裕は生徒会だし、ここで倒した方がいい……かな」
きっと、栄ならそうするはずだ。私は、一刻も早く本物の栄に会いたいのを我慢して目の前──いや、目の上の茉裕の相手をすることを選択する。
『智恵、無理はすんなよ?』
「わかってる。やるだけやってみるだけ」
心配そうに声をかけてくれるイマジナリー栄にそう返事をして、私は剣を抜く。
そして、どうすれば高所にいる茉裕に攻撃を届けることができるか考える。
「──まさか智恵とバッタリ出会うとはね。運がいいのか悪いのか」
茉裕はそんなことを口にして、彼女の右手の中にある魔法杖を振るう。そして──
「まぁ、とりあえず様子見かな。〈貫穿する暴風斬〉」
風魔法の刃が弧を描きながら私の方へと迫ってくる。
──勇魔決戦の第四幕。
『魔帝』と『焦恋魔』の戦いは、こうして火蓋を切ったのだった。





