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『森羅最強』森宮皇斗 その①

 

 茉裕の魔法で生まれた一つの黒影。

 黒子のように全身を黒に染めマネキンのようにのっぺらぼうの人型であったが、その上背な体躯と筋肉質な体から誰かはすぐに想像ができた。


「──これは、余か」

 皇斗は黒づくめの人型を見ながらそう口にする。

 鏡でしか見たことのないその輪郭であったが、だからこそ即座に見極めることができた。


 ──と、即座に皇斗は視線を人型の母親である茉裕の方へと向ける。

 茉裕は空を浮遊したまま、皇斗達の前を離れようとしているのだ。3人──特に、皇斗を殺すには『魔帝』の力があってさえも実力不足だから出直してこよう、茉裕にしては珍しく聞き分けよく諦めたのだ。

 諦めの判断ができるということは、茉裕に何か策があるということで──。


「──逃がすか」

 皇斗は、標的を茉裕に絞る。

 〈月光に揺れる亡人の影(ドッペルゲンガー)〉を使用した茉裕を殺せば、〈月光に揺れる亡人の影(ドッペルゲンガー)〉が消える可能性は大きい。

 その為にも、他に犠牲者を出さないためにも茉裕を逃がすわけには──


「──ッ!」

 空中に飛びあがった皇斗は、咄嗟に胸の前で腕をクロスする。

 刹那、〈月光に揺れる亡人の影(ドッペルゲンガー)〉で生み出された黒づくめの皇斗──長いから、今後はブラック皇斗と呼ぶことにしよう──が、本物の皇斗に向けて蹴りを放つ。


「──やはりか」

 茉裕は、この場をブラック皇斗に任せたようだった。

 確かに、茉裕が皇斗の相手をするよりブラック皇斗が皇斗の相手をする方が勝ち目はありそうだった。


 これは自惚れかもしれないが、茉裕では殺せない相手もブラック皇斗なら殺せる──そうも思ってしまった。


「余の相手をできるのは余だけ──か」

 実力も思考も拮抗する相手に、どう勝てばいいのか。皇斗は思案する。


 ──いや、相手も思案してるのなら当然帰着する場所も一緒だ。


「ならば、考えるだけ無駄」

 地面に着地したのと同刻、皇斗とブラック皇斗は接近する。そして──


「「──〈龍をも殺す光輝(ドラゴン・グロウ)〉」」

 両者同時に、背中から弓矢を取り出し光速で矢を放つ。近接の速射。両者、避けることはできない──


「──わけがない」

 眼前まで光速で迫る矢も、そこには存在する。皇斗は、顔と矢の間に剣を挟みそれを弾く。

 どうやらブラック皇斗も同じようなことをしているようで、2本の矢が空中に高く弾かれる。


 ──相互に行動を読めているのは、やりやすいのかやりにくいのかわからない。

 そんなことを思いながら、皇斗は矢を弾いた後の剣を即座に振るい技を放つ。


「「──〈絶断〉」」

 2つの声と同時、剣と剣がぶつかり空気を揺らす。

 一瞬遅れて、金属がぶつかり合う甲高い音が部屋の中に鳴り響く。2つの剣を中心に、対称の体勢をしている皇斗とブラック皇斗。

 ブラック皇斗が本当に自分を完全に模倣した存在であることを理解しながら、視線を弾いた弓矢の方に向ける。


 ──そのどちらもが、ブラック皇斗の頭上から降り注ぐ形になっている。

 皇斗は、弾いた弓矢の着地点までもを計算していたのだ。ブラック皇斗はそこまで考えなかったのだろう。

 だから、2本の矢がブラック皇斗の頭を穿ち──


「──違う」

 皇斗は咄嗟に後ろに大きく跳んで、頭に過った危険を回避する。


 もし、ブラック皇斗は初めから皇斗自身が矢を弾く位置を調整することを考慮したうえで作戦立てていたら──。


 刹那、降り注ぐ弓矢が剣で弾かれ先程まで皇斗が立っていた場所に2本に突き刺さる。

 もしあのまま文字通り一矢──いや、文字通りなら二矢報いることを確信していたら今頃二死報いられたところだった。


「──自分が相手だと、随分やりづらいな」

 裏をかけば相手は裏の裏をかいてくる。だから、こちらとしては裏の裏の裏をかく必要があるのだが、そうなると今度は裏の裏の裏の裏をかいてくる可能性がある。かと言って裏の裏の裏の裏の裏をかくくらいなら、裏もかかずに動いた方が結果的には良い未来になりそうだ。


「余の弱点はなんだろうか……」

 皇斗は、ブラック皇斗を倒すために自分の弱点を自問自答する。だが、出てくるのは自画自賛に捉えられてしまうような事実だけだ。


「欠点がないことが欠点だとはな」

 そんなことを口にしながら、皇斗は苦笑する。

 先程まで茉裕がいた空中を見るが、もうそこに茉裕の姿はない。早く追いかけなければいけないのに、目の前の最強の矛であり最強の盾が倒せない。


 最強の矛であり最強の盾である皇斗には、最強の矛であり最強の盾であるブラック皇斗を倒せない。

 一体、どうすれば──


「──茉裕、覚悟はできているのだろうな!」

 その時、茉裕のSランク魔法──〈大胆不敵な雷神の罠(トール・トリガー)〉の中から這い上がって来たのは愛香であった。


「──って、茉裕がいない。まさか、尻尾まいて逃げたのか?それとも──」

 そう口にして、大部屋を見渡す愛香と皇斗の目が合う。そして、皇斗は作戦を思いつき、こう口にする──。


「愛香。余を殺したくはないか?」

「──殺したい殺したくないで言うのなら、殺して()()()が回答だ」

「奇遇だな、余と一緒だ」

「──で、そこにいる貴様に似たクロンボは何だ?」

「余のドッペルゲンガーだ」

「成程。茉裕に生み出された奴隷ということだな」

「そういうことだ」


 ──そんなこんなで、第5回デスゲームのツートップの共闘が始まる。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
おお、これは熱い展開。 最強ツートップでドッペルゲンガーとバトル。 字面的にも燃える展開ですな。
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