『剣聖』たる所以 その③
本日でこの作品も3周年です。
1年以上ゲームの世界にいるだなんて思いもしなかった!
でも、終わる目処は見えてきてるのでお許しを……
当代──第34代『剣聖』マルクス・シュライデンは、爽やかな性格の裏で大きな過去を背負っている。
というのも、彼の出自も血族も何一つとして判明していない。
そんな、表現の仕方によっては「悲惨」と評することも可能な過去をマルクスが背負っている理由を付けるのなら、王国戦争の最終決戦を覗き見た神が『羅刹女』の敗北を悟って、それを防ぐために運命を操ったことに起因する。
『無敗列伝』が数多の不運に襲われることになる無運と同様のことが、当代『剣聖』の身を襲ったのだ。
──少し、当代『剣聖』の昔話をしよう。
当代『剣聖』は、ある農村で生まれた──と、される。
というのも、彼の育ての親は当代『剣聖』──当時は『剣聖』ではなかったからただのマルクス坊やを商業都市アールの子売店で購入したのだ。
子売店というのは、経済的な理由で子供を育てることのできない人が子供を売り、身体的な理由で子供を作ることができない人が子供を買う場だ。
奴隷よりも高値で取引され、かつ商品としての子供は丁重に扱われることになり、正式に籍をいれることもできる。
きっと、子供を経済的に育てることのできない農村に住む貧乏ドン百姓が、子売店で売った子供がマルクスだ──そう、されている。
そんなマルクスのことを、マルクスの育ての親は一目惚れして購入し、そのまますくすくと育てた。
何不自由な3人の生活の中で、甘やかすようにして大量の童話を読み聞かせたことが問題だっただろうか、少年マルクスは強者に憧れるようになってしまう。
中でも、童話の中によく登場する『剣聖』には強く興味を惹かれたようで、彼はことあるごとに「剣聖ならきっとこうした」と口にする、正義感の強い子供になった。
──そんな純粋な正義を持つマルクスの人生が大きく変わったのは、13歳のある暑い夏の日だ。
詳細は避けるが、彼はいつものように正義を語って人攫いと対立してしまう。そして、攫われそうになって颯爽と駆けつけた先代『剣聖』カルマ・グルーゲルによって救われ、弟子入りを志願する。
最初は断られた青少年マルクスであったが、何度も執拗にお願いし『剣聖』についての想いを熱く語ることで、弟子入りを認められた。
育ての親は、そんな彼の後先考えない行動に対して特に大きな反発をすることなく、見送ったのだからできた親だと言えるだろう。
剣の振り方を知らないのに剣士には詳しくて、魔法を一切扱えないのに魔法使いには詳しい青少年マルクスのことを、当時の『剣聖』であるカルマ・グルーゲルは気に入って、剣の握り方から教えた。
そうすると、知識だけしか持ち合わせていなかった青少年マルクスは、すくすくと実力と技量を身につけていく。
そして、カルマ・グルーゲルが死亡すると、青年マルクスはオタクのまま『剣聖』となった。
──だから、カルマ・グルーゲルとマルクス・シュライデンは直接対決を稽古以外でしたことがない。
きっと、ドラコル王国を生きる人にとってはカルマ・グルーゲルとマルクス・シュライデンはどっちが強いのか知らないだろう。だから──
「──残るは師匠、アナタだけですよ」
茉裕の魔法によって生み出された偽物の先代『剣聖』の方へ屈託のない笑みを向けるのは、当代『剣聖』。偽物とわかっていながら──いや、偽物とわかっているからこそ遠慮も罪悪感も無く殺し合えるのが嬉しいのか、先程から当代『剣聖』の顔には笑みが貼り付いているばかりだ。
師匠であり、愛する『剣聖』を勝手に復活させゾンビのように操った怒りは、茉裕に直接ぶつければいい。ただ、今は先代『剣聖』との戦いに興じるだけ。
「──」
沈黙。
偽物の先代『剣聖』は、当代『剣聖』と語り明かす喉はない。
ただ研鑽に研鑽を重ねた技の名を口にするだけで、会話というものは一つだってできない──否。
「──わかってますよ、師匠。僕たちの会話はこれで、でしょう」
口がなかろうとこの蛮族達は一本の魂で共鳴し、会話──もとい対話をすることができる。
そして、たとえ『剣聖』レベルの実力を持つとしても聖徳太子ではないから、相手が何人もいると対話は難しくなる。
だから、あえて当代は先代を最後の一人に選んで──。
強く地面を踏み込み、当代が動く。その踏み込みだけで、パットゥが傾いたのではないかと誤認するほどの力強さで、当代のパワーが確認できる。
それに応えるように、先代も同じく地面を蹴り上げて弟子の傾けたパットゥを戻すようにしながら進んでいく。
2人の呼吸が重なる、2人の構えが一致する。
そして、先代が考えていることが自分と一緒であることを、当代は理解する。
先代にのみ師事し、先代の手で鍛え上げられたのだから、先代と似たり寄ったりの考えになるのは当たり前だと言えるけれども、それでも当代からすれば師匠の選んだ最適解が一緒であるのが無性に嬉しくなる。
──これは、第34代まで脈々と受け継がれた世界で唯一『剣聖』だけが使える大技。
使用すれば意識を失う程強く刀を真一文字に振るうその技は、デメリットが多かろうがそれを覆すほどの威力を誇る。
走馬灯が──否、思い出が当代の頭を駆け巡る。
師匠との思い出が、巡る、巡る、巡る──。
時は満ちた。
「「──〈剣の王〉」」





