勇魔決戦 その④
少し昔話をしよう。誰のでもない、魔法の話を。
〈凍てつく氷の死化粧〉の話を──。
『技術的特異点』。
そう呼ばれる怪物がいた。空を泳ぎ、プクプクと鳴く災害金魚は、何気なく放った魚雷1つで、当時ドラコル王国第四の都市であった学園都市イレンドゥを壊滅させて、一夜よりも信号が青になるよりも早く、広大な砂漠を創り上げた。
それゆえに、災害金魚──鯀は、『技術的特異点』と呼ばれ、龍種音中で最も破壊力を持つとされることになった。
『技術的特異点』。
そう呼ばれる魔法がある。水蒸気を凍らせ、引火性を持つ氷に変える災害級のSランク魔法は、高尚な魔法使いが本気を出せば、ドラコル王国に夜が明けるよりも信号が赤になるよりも早く、広大な砂漠を創り上げることができるとされている。
それゆえに、災害魔法──〈凍てつく氷の死化粧〉は『技術的特異点』と呼ばれることになった。
──鯀の魚雷で都市一つが砂漠になったことを理由に、当時の『魔帝』 の一番弟子『不謹慎』が創った魔法が、第13代『魔帝』の手により勇者殲滅のために放たれる。
が、その攻撃が致命傷になることはなく、慢心を生む契機として利用されてしまった。
「──ッ!厄介な……」
美沙の行使する土魔法を足場にし、かつ足に風魔法をまとうことでより高い跳躍を可能にし、『魔帝』の方へと接近する健吾と梨花。
「ただじゃ死なねぇよ、茉裕。お前のことはオレ達が殺す」
「そうよ。拓人を殺したのは、アンタみたいなもの!絶対に赦さないから」
そう口にしながら、空中にいる茉裕の方へと接近する2人に対し、茉裕は歪んだ笑顔を見せて──
「あ、そう。魔法を使って接近しようって考えたのは褒めてあげる。だけど、私がそれを抵抗しないわけないよね?〈邪竜天睛〉」
茉裕がそう魔法を詠唱すると、彼女の後ろから飛び出てきたのは金色に光る竜。
宙を泳ぐその竜は、遠くからでもバチバチと聞こえるほど大きな音を出しながら、2人の方へと迫る。
「触れたら一発で感電死!私はね、アンタ達に容赦なんかしないの。勝手に死んで!」
「梨花、急げ!」
「わかった!」
梨花は茉裕の方へ、健吾は〈邪竜天睛〉の方へとそれぞれ動き出す。
床を埋めていた煙が晴れて来て、美沙が必死に2人のことを追うように足場となる地面を空中に生み出している。
「好き勝手動かないで、足場が間に合わない!」
「美沙、悪い!でも、〈邪竜天睛〉はオレが止めないと!」
相手は魔法だ。時間経過で消えるだろうが、それでも梨花の妨害をするのには変わりない。
作戦に則って、健吾が〈邪竜天睛〉の相手をする。
「〈星屑斬り〉──ッ!」
健吾の剣が〈邪竜天睛〉の体を斬ると同時、電気が剣の方へと伝っていく。
手に痺れるような感じを覚えると同時、本能的に剣から手を離してしまい、そのまま床の方へと剣が落ちていく。
「マズい、剣が!」
〈邪竜天睛〉が迫っている今、健吾は逃げることしかできない。
──が、美沙の補助で足場があるとはいえ、ここは空中だ。
左右に避けることはできないし、元来た道を戻ろうにも空中に点在している足場へ戻るのは至難の業だった。
──と、判断を迷っている一瞬で、健吾の目の前に〈邪竜天睛〉が迫る。
死を覚悟した健吾であったが、彼が竜に触れるより先に健吾よりも上空から健吾の方へと落下してきて、そのまま健吾を床の方へと引きずり降ろしたのは、1人の女剣士。
「──梨花!」
「アタシを守ってくれるはずじゃなかったの?」
「悪い!助かった!」
2人は、床の方へと落下しながらそんな会話を交わし、梨花が剣を振るうことで着地の衝撃を軽減する。
健吾は、すぐに剣を拾った後「一回美沙の方へ逃げよう。もう一回責めても同じだ」と梨花に声をかける。
梨花は、上空で少しすまし顔をしている茉裕の方を一瞥した後で「わかったわ」とだけ口にして、美沙の方へと移動する。
健吾もその後についていき、美沙と3人で集まった。
「美沙、回復魔法をかけてくれ。流石にヒリヒリして耐えられない」
「アタシも。爆発してすぐに声かけて来たからビックリしちゃった」
「2人に回復魔法、かけるね。〈スーパー・ヒール〉」
健吾と梨花の2人は回復魔法をかけてもらって、先程の爆発による怪我を治す。
「健吾は、もう肺の方は大丈夫なの?」
「あぁ、さっきの大爆発で溶けたみたいだ」
「あ、そう。じゃあ、もう一回行けるわね」
「まぁ、先に俺達は〈邪竜天睛〉の相手をしなきゃいけないみたいだがな」
健吾がそう口にして、美沙に背中を向ける。
すると、金色に光る〈邪竜天睛〉と目が合い健吾を貫かんと言わんばかりにスピードで突進してくる。
「どう倒す?」
「そりゃ、感電死するより先に2人で合わせて真っ二つだろ」
「そんなことできるの?」
「やって見なきゃわからない」
「──はぁ。アンタと痺れて死ぬなんて勘弁なんだけど」
健吾と梨花はそんなことを話し合いながら、〈邪竜天睛〉と相対する。
「じゃあ、タイミング合わせてくれ」
「わかったわよ。何もしなかったら死んじゃうんだから」
勇者2人はそう口にして、迫り来る〈邪竜天睛〉の方へ飛び切りの一撃を与えるために構える。
「「──〈絶断〉!」」
2人が同時に放った一閃は、茉裕の〈邪竜天睛〉に触れて感電死するよりも先に、竜に届き真っ二つにしたのだった。
〈邪竜天睛〉・・・雷で構成された竜を生み出すSランク魔法。時間が経てば経つほど、触れた時に伝う電気の威力は落ちる。





