勇魔決戦 その③
作戦の伝達。
健吾が行おうとしているそれは、茉裕の放つ数々の魔法を避けながら行う必要のあるものだった。
「協力を仰ぐなら、一番に必要なのは美沙の魔法だ」
そう判断した健吾は、魔法で魔法を打ち消すことでなんとか対応している美沙の方へと回避をしながら近付いて行く。
「梨花も来てくれ!作戦会議!」
「わかった!」
魔法が着弾する轟音が響き渡る中で、2人はなんとか言葉のキャッチボールを行う。
健吾と梨花の2人は、美沙のいるところへと移動する。
「美沙はそのまま魔法の防御に集中して欲しい」
「わ、わかった」
震える手で美沙は魔法杖を握り、茉裕の攻撃を防御し続ける。
健吾は、それに命を委ねながら梨花との作戦会議を開始する。
「このまま茉裕に魔法を放たれ続けても俺達に勝ち目はない」
防戦を強いられている現状、健吾達が負けるのは時間の問題だ。体力もしくはMPが尽きたものから順番に死んでいくだろう。
「でも、だからってどうするの?茉裕に攻撃できるなら勝ててるのよ」
茉裕に勝つためには攻撃する必要があるが、その攻撃ができていたら茉裕には勝てている。そんなジレンマに陥っている現状、3人に勝ち目はない。
「──俺達がすべきなのは、茉裕への攻撃じゃない。魔法杖を奪うんだ」
「どうやって?」
「──美沙の魔法を使って茉裕のところまで打ち上げてもらう」
「無防備よ?」
「なんのためにオレ達がここに3人いるんだよ、オレと梨花の2人を打ち上げてもらって、オレが梨花の護衛に回る。梨花は魔法杖を奪い取ってくれ」
「──成程。アリね」
「で、でも何の魔法を使えばいいの?羽を生やす魔法なんかミサ、使えないよ!」
王国戦争の最中に行われた愛香と三苗との戦いで、愛香が蓮也に「腕を生やす魔法をかけろ」と無茶ぶりをして、新たな土魔法〈ウデヲツクール〉で蜘蛛の足のような義手を作らせていたが、それと翼を生やす魔法を考えるのとでは訳が違う。
前者は土魔法の応用でいけたが、翼を生やすのは何を応用したらいいのかわからないだろう。
「土魔法で空中に足場を作りながら風魔法で縦移動しやすく──とかはどうだ?」
「──できるかわからない」
「けど、やってみる価値はありそうね。ここでチャレンジしなくちゃどっちみち負けるわよ」
「──そうだね」
3人がそんな作戦会議をしていると、強力な魔法を発動し続けている茉裕が声をかけて来た。
「作戦会議なんかしてるけど、私に勝てる未来でも見えた?まだ私に傷一つ付けられてないっていうのに」
「そっちだってオレ達のことをまだ殺せてないじゃねぇか。当たらない攻撃はないのと一緒だぜ?」
空中で、ヘラヘラと笑う茉裕を相手に、そう軽口を返す健吾。
「──へぇ。じゃあ、大怪我させてあげる」
そう口にして、茉裕は魔法杖を強く握って天高くそれを掲げる。
──その時だった。
「なんだッ!」
唐突に3人の立つ地面が割れる。そして、鋼鉄でできた物体が飛び出して来た。
「これは……」
「下の階でも誰かが魔法で戦ってるみたいだ。そっちにも注意を払う必要がありそうだな」
健吾はそう冷静に分析する。
健吾は、『鋼鉄の魔女』を知っているので、メイと誰かが戦っていることを察した。
「──くらえ、〈凍てつく氷の死化粧〉!」
そう口にすると同時、健吾達の周囲に塵のように細かい透明な氷が無数に生み出される。
「何を──ッ!」
健吾がそう口にして剣を構えようとしたその時、健吾の口の中に入り込み肺を傷付ける微細な氷の粒。
健吾は咳きこみ、肺に入り込んだ氷を取り除こうとするけれども上手く行かない。
それを見た梨花と美沙は、すぐに服の裾で口を覆って吸い込むことを防ぐ。
「美沙、回復魔法をかけてあげて!」
「回復魔法でも体の中に取り込んだものは除去できないよ!炎魔法で溶かすことならできるかもだけど!」
「なら、それをやって!折角作戦は建てられたのにこのままじゃ健吾が!」
「わかった、〈鬼火〉!」
「バーカ」
美沙がCランク魔法である〈鬼火〉を使用して健吾を助けようとしたのと同時に、茉裕がそう口にする。
一番弱いはずのCランク魔法なのに、周囲にできた微細な氷に引火するようにして一瞬にして大きな炎となって3人を飲み込む。
「〈凍てつく氷の死化粧〉は、空気中の水蒸気を引火性を持つ微細な氷に変える魔法なの。馬鹿ね。氷魔法に火魔法だなんて安直な解決策、取らせるわけないじゃない」
茉裕が使用した〈凍てつく氷の死化粧〉は、Sランクの氷魔法だ。
だが、火魔法で対処できるわけではない。風魔法で吹き飛ばしたり水魔法で流したりすることはできるけれど、火魔法は引火して大爆発を起こす。その初見殺しも、Sランクである所以の一つだ。
瞬くよりも先に広まった炎と共に生み出された黒煙が、部屋の中に立ち込める。
茉裕は、その煙の方を見ながらこんなことを口にする。
「なぁんか、呆気なかったなぁ。次は愛香と皇斗、どっちを殺そう……」
「──舐めん、なよっ!」
──刹那、煙が割れてそこから2つの影が飛び出してくる。
「まだ負けないんだからぁ!」
煙の中にいたのは、大きな火傷を負った梨花と健吾の2人。
──2人にとって、爆発して勝利を確信し、慢心している今こそ最大のチャンスだった。
2人が走っていると、あちこちの床が突き破られ、第四層から鋼鉄の腕の上部が生えてくる。
2人はその上を駆け抜けて高く跳び、美沙の用意した土魔法の足場にそれぞれ移動し始める。
──勇者一行の反撃が今、始まる。





