閑話 智恵の届かぬ愛
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───とある暗室。
ここは、村田智恵───私の個室であった。部屋には、私のすすり泣く声だけが響いている。
と言うのも、栄───君が細田歌穂さんと付き合っていることを知ってしまったのだ。
密かに───と言うより、課題を行うためにハグをしに家まで訪ねてしまったし、今朝も栄君と話をしていたので、想いを寄せていたつもりだった。
───だが、想いを寄せていたのはフリーな男の人だけだ。
彼女を持っている人に想いを寄せるのはあまりにも不躾だった。私は、涙を流す。
あぁ、やはり恋なんてしなければよかった。
私は後悔に身を埋める。後悔はしているし、失恋により涙が流れるが、絶望はしていない。
───最初から、希望などなかったからだ。
希望がなければ絶望などしない。私が、この学校に来たのは確実に留年せずに大学にまで行けるから───であった。
私は、皆より1年年上なのだ。高校3年生を留年し、もう一度やり直す必要があるのはもう昨年の9月には確定していた。あまりにも成績が悪かったのだ。
留年するのは確定していた。留年した場合、他の高校に転校する事が多いのだが私もそれに値した。
11月に、高校3年生と言う連絡が来たのだ。留年が確定していたから、私は2年連続で留年しないようにそれに応募をした。
3年間を共に過ごしたクラスメートや部活の後輩に、「留年したんだ」と嘲笑されるよりも転校した方がマシだった。
「はぁ...やっぱり、最初から希望はなかったんだ...」
現実から逃げるかのように、私はこの学校にやってきた。
───だが、逃げた場所に幸せが待ち望んでいる訳などなかった。
私が通うこととなった高校は、実はデスゲームの会場だった。そして、よくわからないままクラスメートが死んだ。逃げることは許されなかったし、逃げることはできなかった。
「───でも、私にはここしかない...」
故郷に戻れば、私は嘲笑される。だから、ここにいるしかないのだ。
「はは...バカみたいだよね、本当」
不幸中の幸いで、栄君と出会えたと思ったところで、彼女持ちと発覚だ。
───やはり、私には色恋沙汰は似合わないようだった。
「もう...嫌だよ...いっそのこと───」
───死んでしまおうか。
そう、考えてしまった。無価値な私は、死んでしまったほうがいいのではないか。
「───って、死ぬ勇気があったらとっくのとうにこの世とはおさらばしているよ」
私は、そう言って自虐的に笑った。祈っても助けてもらえず、死にたくたって死ぬこともできない私は、本当に無力だった。
───そして、それが「当たり前」になって絶望できない自分が大嫌いだった。
「栄君...なら、どうするかな...」
思いを寄せる人の名前を呟く。思いが届かないのは、わかりきったことだった。
───私は愛されない。これまでの人生経験で、そう理解していた。
「栄君...私に───」
そう言って、言葉を止めた。きっと、栄君はそんな事をしてくれない。正義感の強い彼なら、断固として否定するだろう。だから、言葉を途中で切り上げた。きっと、栄君じゃなければ言葉を切り上げず、こう言い放っていただろう。
───「私に死ねと命令して」と。
俺はきっと好きな子いじめちゃうタイプ。
ごめんね、智恵。救いはもう少し待ってね。





