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砂海の因縁 その⑨

 

 爆発。

 炎を伴わないそれをそう呼称するかどうかについては意見が分かれるかもしれないが、きっとそんな議論をするのは、実際にこの戦いの結末を見ていない歴史家だけだ。


 この戦いの結末を、光栄にも見届けることができた蓮也は、三苗の刀光剣影(トウコウケンエイ)と愛香の義手と槍の衝突を紛れもない「爆発」だと表現し、それが間違いないことを心の底から確信した。


 それは、炎を伴わない爆発。

 ただ、炎が無くとも振るわれた熱気は空間中に広がるし、2人の剣圧は激しくぶつかり合い、それが見えない質量となって、遠くで見ていた蓮也をも吹き飛ばすほどの威力を持つ。

 爆風に似た風が生まれる。それが剣圧の一部なのか、爆風──ならぬ剣風と呼ぶべき風なのかはわからない。


 義手と刀がぶつかり、火花が散る。爆発するのと同等の轟音が響くが、それはこれまで熱い戦いを繰り広げていた2人に対する万雷の拍手だ。

 白熱する体が燃えたのかと錯覚し、刀と義手の勢いで、汗が蒸発する。


 そんな、爆発のような衝突。

 だが、三苗の放った居合も、愛香の義手も、正真正銘1発限りのものだった。

 まるで、先程の一瞬で生まれた熱気は、轟音は、剣圧は、全て噓だったとかと言わんばかりに静まり返り、三苗と愛香の動きが止まる。


 ──お互い、これが最後の一撃となることは予感していた。

 ならば、この攻撃に耐え抜いたものが真の勝者となる──。


「──かは」

 愛香の背中から生えていた土魔法でできた義手が、見ると無惨に砕け去り、愛香の体に4筋の裂傷が浮かび上がる。


 その裂傷から血が吹き出て、それが三苗にかかる。

 その返り血が勝者の証。三苗は、自らの体にかかった返り血を見るために視線を落とし──


「──ッ!」

 その体──もっと詳しく言うなら胸に深々と突き刺さっておりその刃が三苗の心臓にまで達していたのは、愛香の槍だった。


 愛香は、三苗の強力な居合の中で、攻撃を企みそれを実行したのだ。

 確かに、居合を放つとはその場に立ち止まり刀を振るう。だけど、超強力な居合であることはわかっているのだから、普通であれば全ての腕を受け止めるのに使用するはずだろう。

 それなのに、愛香は槍を突き刺し、確実に倒すために防御を捨てたのだ。


「妾が、貴様の攻撃を防御するだけで満足すると思っているのか?」

 口の端を血で汚しながら、体に付けられた何本もの巨大な裂傷で衣服を濡らしながら、愛香は勝ち誇ったような顔でそう口にする。


 ──実際、愛香は勝っていた。

 全身がボロボロになろうとも、どれだけの致命傷に身を教われようとも、三苗の心臓を突き刺したのだ。

 もう既に、三苗の心臓は止まっており、これから霧消しようと言うところ。


 三苗の心臓に槍が突き刺さったまま、背中から生えた土魔法の義手がボロボロに崩れ去ったまま──要するに愛香の手元には何も武器が残らないままで、愛香は三苗の前で勝利を宣言する。


 ──と、その時。

 三苗が最後の力を振り絞り右半身にある腕を1本高く挙げる。その腕にはまだ、しっかりと刀が握られていた。


 ──これが振り降ろされれば愛香は死ぬ。


 今だって、立っているだけでもやっとな状態だ。その場から動けば、出血多量で意識を手放すのは間違いないだろうし、武器を持っていないから受け止めることもできない。


 そのまま、愛香に向けて刀が振るわれて──


 愛香のことを真っ二つにする寸前で止まった。愛香の方も、当たらぬことを予感していたのかそれに驚く様子は見せなかった。

 姫の血で汚れながらも美しい面差と、鬼の蒼白い恐ろしい形相が交わり、初めてその口が動かされる。


愛香(アイカ)戦友(トモ)(ミト)メヨウ……」


 低い声が愛香の耳に届いたと同時、砂漠の砂が風で舞うかのように、三苗の肉体が霧消していく。

 そして愛香は、目の前にいる戦友(とも)が、『砂漠の亡霊』と呼ばれる存在であったことを思いだした。

 愛香は、小さく息を吐き、凛々しい瞳にその戦友(とも)の姿を映し──


「やっと口を利いてくれたか。最初は、貴様のことをつまらん男と言ったことを訂正する。楽しかったぞ、三苗」

 そう口にして、愛香は破顔する。それはまるで、砂漠に咲き誇る一輪の花。

 鬼の形相が風の中に溶け、その体を消していき──。


「──経験値」

 蓮也がそう口にする。心の奥底が満たされるような感覚があって、三苗に勝利したことを確信する。

 蓮也のレベルは、53から59にまで上がっていた。それにより、色々と使用できる魔法の数も増えた。


「──勝った、勝ったんだ……」

 蓮也は、三苗になど到底勝てないと思っていた。


 甲冑を付けていた通常の状態でさえそう思っていたのだから、甲冑が外れて鬼の形相が露呈した暴走状態は尚更だ。

 実際、最後の一撃──刀光剣影(トウコウケンエイ)は、受け止めきれずに愛香が死ぬと考えてしまっていた。

 だけど愛香は、見事三苗の心臓を槍で穿ち、己の体に深手を負いながらも勝利を掴むことに成功したのだった。


「──と、愛香さんを」

 蓮也はそう口にして立ち上がり、その場から動かない愛香の方へと駆け出す。

 蓮也の小さな手の中には、落とさぬようにしっかりと魔法杖が握られていた。


 その後すぐに、応龍の討伐を終了した皇斗が三苗との戦いが行われた空間に入ってきて合流し、蓮也は愛香に回復魔法をかけて復活させる。



 ──勇者一行が来る前は8体いた龍種も、今は残る1体にまで減っていた。

 その一体も、王国戦争の重要な戦力として、現在も勇者一行と熱戦を繰り広げていることだろう。


 最終的に勝利を掴むのは、勇者陣営か『古龍の王』陣営か。

 勝利の女神は今も尚、どちらに微笑むかはわからない──。

【お知らせ】

誠に勝手ながら、私花浅葱が受験勉強に専念するため、しばらくの間休載とさせていただきます。

続きの掲載予定はまだ未定ですが、できるだけ早くお届けできるように尽力いたしますので、しおりを挟んで待っていただけると幸いです。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
「愛香ヲ戦友ト認メヨウ……」。 王道だけど熱い台詞ですね! 後、何気にレベルが爆上げの蓮也。 それと受験勉強頑張ってください。 気長に更新待たせてもらいます♪
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