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砂海の因縁 その④

 

「──〈森梟の(ペンタプリズム・)慧眼(プロヴィデンス)〉!」

 槍を自由自在に動かし、三苗の攻撃の間隙を縫ってその鎧に傷を増やしていく。

 だが、傷つけられているのは鎧だけで三苗には目立ったダメージは入っていない。


 三苗を討伐したことのある人は、この世界にはこの時代にも神話の時代にも誰一人として存在していないけれども、三苗の討伐を企んだ猛者達はこう考えただろう。

 三苗を倒すためには、その鎧を剥がして直接肉体を攻撃するか、大型の技や魔法を使用して鎧も肉体もまとめて攻撃するかの二択がずっと考えられていた。


 実際、二者択一を迫られる三苗戦で三択目を用意することは難しい。

 三苗は人の姿をしているが、龍種の1体であり、『砂漠の亡霊』として、砂漠を進む冒険者の1番の憂慮として君臨している。

 現在は出張地縛霊として周囲を雪で覆われた城内都市パットゥにて、こうして戦っているけれども、堅実な三苗を倒すのに地形は然程重要ではない。

 もう少し地形が入り組んでいればまた変わったかもしれないが、ここはパットゥの一室で、四方を壁で包まれていることを除けば、平面だ。


 三苗は砂漠の砂を扱う魔法の行使者ではない一介の剣客なので城内都市パットゥで戦うことで戦闘の幅を狭めているわけでもない。ほとんど砂漠にしか姿を現さないが、どこで戦っても同様の強さを持っているのも「龍種の中で最も堅実」だと評される理由の1つだろう。


 さて、話が横道に逸れてしまったような気もするので閑話休題。

 三苗を討伐する為には、鎧を剥がすか、超強力な攻撃で鎧ごと倒すかの二択が迫られている。

 鎧を剥がしてしまうと同時に、甲冑の兜が外れたしまうと、三苗はたちまち暴走状態に陥ってしまう為、できれば鎧を着たままで三苗を仕留めたい。


「──今だ、蓮也!」

「──〈崩落する信念の岩(ハイプレッシャーガン)〉!」


 果敢に攻め込む愛香が距離を取り、愛香の指示に従って蓮也が魔法を放つ。既にこのサイクルを3回は繰り返しており、蓮也の方も掛け声に応じて魔法を放てるようになってきていた。

 愛香と蓮也の2人の中でも、三苗を暴走させる可能性を犯さない方がいい──という見解にまとまっており、それに従うように蓮也は魔法を放っている。


 彼の放った〈崩落する信念の岩(ハイプレッシャーガン)〉は、多くの岩をぶつけるAランクの魔法だ。

 本来であれば剣で斬ることができないような巨大な岩を三苗の方へと飛ばしているのだが、やはり流石は龍種と言うべきだろうか、三苗はその岩を簡単に斬り伏せてしまう。


「──やっぱり駄目か……」

 既に風の刃で攻撃していたり巨大な炎を放っていたりと、三苗にダメージを加える方法を模索している状態だ。だけど、風の刃は受け流されてしまったし、巨大な炎は今回の岩塊のように斬られてしまっている。

 炎は硬くないから、岩ならばどうだ──と思い、初めてAランクの土魔法である〈崩落する信念の岩(ハイプレッシャーガン)〉を使用したけれど、炎が斬れる剣客に岩が斬れない訳がない。


「──クソ、今回も駄目か!」

 一度下がっていた愛香が、いとも簡単に岩を斬った三苗を見て、どこか悔しそうにそんなことを口にする。そして、真っ二つになった岩が霧消していくのを横目に捉えながら、その槍を忙しなく振るう。


 受け、払い、躱し、弾き、突き、引き、抑え、避け、薙ぎ、止め、屈み、捌き、飛び、凌ぎ、振るう。


 迫り来る攻撃を適切に対処し、三苗に対して攻撃を与えようと試行錯誤する愛香であったが、その効果は薄い。やはり、生半可な攻撃じゃ三苗を殺すことはできないだろう。ならば、必要なのはやはり──。


「──あの技、か」

 愛香の槍と三苗の刀が拮抗した状態で、愛香はそう呟く。

 愛香の言う「あの技」と言うのは、彼女に過去2度使用し、どちらも決戦の終止符となった技だ。


 1度目は暴走して海と一体化した驩兜の心臓を穿ち、2度目はいともたやすく『総主教』の操るゴーレムを粉砕した全てを終わらせる愛香の必殺技──〈神をも殺す(スクリュー)橘色の真槍(・ドライバー)〉でしか、三苗を倒すことはできないだろう。


 だが、〈神をも殺す(スクリュー)橘色の真槍(・ドライバー)〉を放つには10秒以上のチャージ時間を要する。そのチャージ時間を編み出すために必要なのは──


「蓮也!大技を放つ!時間を稼げ!」

「──わかった!〈世界氷結(アブソリュート・)の理(コンプライアンス)〉!」

 愛香の指示を受けた蓮也が、即座に氷魔法を使用する。


 この技は、蓮也にとって思い入れが深い。砂漠での戦いで三苗の足止めをしたのもこの技だし、驩兜との戦いで足場を作ったのだってこの技だ。縁の下の力持ちとして、何度だって活躍してきたこの技を、蓮也は気に入っている。


「またその技か。芸がないな」

 愛香は槍を回転させてパワーをチャージしながらそんなことを口にする。そう評されても蓮也は全く気にならない。

 何が何でも、〈世界氷結(アブソリュート・)の理(コンプライアンス)〉で10秒の時間を稼がせていただく。



 ──そう意気込んだのだが、蓮也の放った〈世界氷結(アブソリュート・)の理(コンプライアンス)〉は、先程のように簡単に斬られてしまう。


 愛香が技に放てるようになるまで残り5秒。三苗が愛香の元まで攻め込む時間は、ダジャレではないが3秒程だろうか。


「──次はこうだ!〈氷塊〉!」

 蓮也は、真っ二つにされた巨大な氷を〈氷塊〉で操り、三苗の方へとぶつけることを試みる。もちろん、本命の攻撃は愛香の大技だ。必要なのは殺傷能力ではなく、時間稼ぎの厄介さだ。三苗は、何も口にせずにただ刀を振るい三苗を狙って放たれた氷を弾き、斬り落としていく。

 そんなことをしている間に、愛香が大技を放つのに必要な時間稼ぎは終わり──、




「貴様もまた強敵(とも)であった。永遠に眠れ。〈神をも殺す(スクリュー)橘色の真槍(・ドライバー)〉」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
貴様もまた強敵であった。永遠に眠れ。 古いジャンプ漫画のような台詞だけど、 こういう台詞を書きたい気持ちはよく分かります。 古典かつ王道展開は書いてて楽しいですよね!
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