33-1
タイトルの読み方は「なんでや『剣聖』関係ないやろ」です
剣が、剣が、剣がぶつかる。
城内都市パットゥの第五層にて、『魔帝』の使用した〈幻想蘇生〉により復活した歴代『剣聖』33人と、当代『剣聖』が衝突し、剣を交えていた。
交錯する視線と熱意が、目の前の傑人の首を斬らんと殺意と策謀を生み出し、凶器がその具現となってお互いに迫る。
当代『剣聖』は1本の腕と1本の剣しか持たないが、敵──歴代『剣聖』が持つのはは66本の腕と33本の剣だ。
次から次へと迫り来る一級の剣を、たった1本しかない剣で受け止め、打ち上げ、弾き返し、押し流し、振り降ろし、突き合い、薙ぎ払う。しかも怒涛の勢いで迫り来るそれらを、どう防御し、できれば攻撃にまで転じさせる必要がある。
体だけでなく頭もフル回転させる必要のある多勢に無勢のこの戦場は、孤軍奮闘している当代『剣聖』の圧倒的不利は間違いないのだが──、
「──良い!そう来るのかぁ!僕だったら普通に斜めに切りかかってたなぁ、流石は超絶技巧派として知られているだけの『剣聖』ではありますね!やっぱり、『千手王』との戦いの経験が生かされてたりするのかな?きっと、『千手王』との戦いは今僕が置かれている状況より大変だったんだろうなぁ……」
その戦場の過酷さを全く感じさせず、羨望の眼差しを歴代の『剣聖』に向けるのは当代『剣聖』マルクス・シュライデン。
生粋の猛者オタクである彼にとって、歴代『剣聖』のことは、得意としている技から成した偉業、死んだ理由と場所に加えて、『剣聖』になる前の二つ名やその家系や出身などもすべて把握している。
目の前にいるのは憧れの存在であり、彼が師である先代『剣聖』──カルマ・グルーゲルに弟子入りした時には既に死んでいた32人が勢揃いしているのは興奮が隠せないだろう。
だから彼は、一瞬でも判断が遅れ一つでも決断を誤れば死亡するこの現状でも嬉々として剣を振るっている。
第19代『剣聖』アルバ・グレゴロと〈機械仕掛けの暗黒世界〉を衝突させ、空気を大きく震撼させるところから始まった戦いは、既に数えきれないほどにマルクスの剣と歴代『剣聖』の剣が衝突している。
きっと、この1つ1つの斬撃を覚えているのは対峙している当代『剣聖』マルクス・シュライデンだけだろう。
──と、マルクスが第18代『剣聖』イアリス・ランティスの剣を弾いたその時、マルクスを囲って四方八方からその命を狙っていた『剣聖』達が後方へと一気に下がっていく。
「──!」
「〈剣狼の拇印〉」
マルクスの上空から降り注ぐその攻撃を、彼は知っている。
だからこそ彼は、その体を他の歴代『剣聖』達と同じように攻撃範囲から逃げ出すように動きを見せる。
その場から逃げるため大きく飛んだマルクスの後方に飛来したのは、一つの隕石。
──否、1人の『剣聖』だ。
周囲に散らばる砂埃を手で払い、マルクスは目を輝かせたその技を放った筋骨隆々とした男の方を見る。
「すごい!まさか第7代『剣聖』シュレンダー・チェルノンゼンさんの必殺技である〈剣狼の拇印〉をこの目で直に見ることができるとは!その技をもって、霊亀の甲羅にヒビを入れた話は今でも語り継がれていますよ!そんな霊亀も今は討伐されて、シュレンダーさんやピャーリルさんの仇はキチンと取られてますのでご安心を!」
一瞬で迫ってくるシュレンダー・チェルノンゼンの攻撃を剣で受け止めながら、そう口を動かすマルクス。シュレンダー一人による猛攻を剣一つで捌きながら彼はその攻撃に耐え──、
「──ッ!また」
マルクスの剣が空を切ると同時、彼はそこから上空を見上げる。再度、空中に移動して同じく〈剣狼の拇印〉の使用を試みるシュレンダー・チェルノンゼンの姿がそこにはあった。
『剣聖』は、ニッと笑って彼を追うように空中に移動する。そして──
「〈剣狼の拇──」
「〈絡繰仕掛けの白銀世界〉」
空中から落下して〈剣狼の拇印〉を披露しようとしていたシュレンダー・チェルノンゼンの体を、〈絡繰仕掛けの白銀世界〉で一刀両断する。
彼の体が右半身と左半身に分かれて虚しく落下していくのを見下ろしながら、彼は更に空中までその体を持っていく。
──そう、彼の狙いは〈剣狼の拇印〉が行われるより先に〈絡繰仕掛けの白銀世界〉で攻撃することだけではなかった。
「資料などは色々と読み漁ってその動きとかは大体把握してたんですけど、実際にどう広範囲に攻撃してるのかわからなかったんですよね。ですが、今こうやって見せてくれたことで理解できました」
そう口にして、マルクスはニッと笑う。
──本来であれば、〈剣狼の拇印〉から逃げ延びれる冒険者の方が少ないし、もし逃げ延びることができたとしても、『剣聖』が十八番にするような技だ。一回見ただけで使用することなどできないだろう。
だがしかし、猛者オタクであるマルクスは別だ。ドラコル王国内外に散らばった資料を読み漁り、『剣聖』一人一人の英雄譚を知っている彼は、その技をある程度理解しているため、一目見たと言う1ピースだけで、技を完成させることができる──。
「それじゃ、僕も使わせていただきます。〈剣狼の拇印〉」
重力に身を任せ、剣を振るいながらマルクスは床に落下していく。
──この戦場で、最も楽しそうに剣を振るっているのは当代『剣聖』マルクス・シュライデンで間違いなかった。
過去の『剣聖』も、他のキャラと同じかそれ以上にまとめられてます。
『剣聖』一人につき2万文字は書ける。