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4月7日 その⑨

 

「───は?」

 マスコット先生の言葉に、疑いを感じてしまった。マスコット先生は、デスゲームの運営の側であり性格がねじ曲がっているのはわかっていた。


「それは、情報操作じゃないのかよ!俺だけに情報を伝えて不平等だとは思わないのか?」

「思いません。だって、池本栄君が口頭で皆さんに伝えてくれれば問題無いのですから!」


「でも、先生が言うのと俺が言うのでは全然違うだろう!」

「どうした、栄?文句でもあるのか?」

 教室の窓の縁に座って、外を見ているのは森愛香だった。彼女も、最初からこの部屋にいた。


「そうだ、森さんが言ってくれよ!皆に!」

「貴様、妾に命令するのか?なんたる傲慢。先程、妾に腹を蹴られた事をお忘れか?さては貴様、3歩歩くと忘れる(チキン)だな?腰抜け(チキン)でありマヌケ(チキン)だとは、笑わせてくれるな!」

 森愛香がそう言って大笑する。制服の内ポケットから取り出した金色の扇子で自らを仰いでいる。


「妾は、貴様の味方をするつもりはない。いや、妾は妾だ。誰の味方もせぬ!貴様が下僕になりたいとでも言うのならば、拒む理由は今のところ無いが...どうだ?妾の下僕となりはしないか?」

「ならないよ、今はそんな話をしている時間はないんだ」


「えぇ、そうですね。早く、色んな人の誤解を解かないと。大変ですねぇ?」

 マスコット先生はそう言って被り物の口角を上げる。仕組みは一週間経ってもわからない。


「───それで、何が望みなんだよ。マスコット先生は」

「望み?それはもちろん、真の天才を作り上げることですよ。最初にそう言ったでは無いですか!」


「違う、俺が疑われているのを見るのが楽しいって理由だけなのかよ?」

 俺は、先生に詮索する。俺はこの1週間で気付いていた。先生は、聞かれなければ答えないが聞いてきた質問には正直に答える。


 やはり、そういう所は「先生」なのだ。生徒の自立性だのなんだので、こちら側から詳しく質問しない限りは答えはしないが、質問した内容については嘘なくきっちり答えてくれる。


「はい、そうです!」

「───ッ!」


 予想が外れる。何か理由があった訳でもない。ただの、マスコット先生の趣味嗜好であった。俺が疑われているのを見て、楽しんでいるだけだったのだ。


「───そこまで、クズなのかよ!俺の気持ちなんて考えず、自分が楽しめればそれでいいのかよ!」

 怒りが湧き上がる。裕翔に煽られ、殺人犯という嘘の肩書きを付けられて、先生には煽られる。溜まっていた怒りが、今噴火する。


「いえ、違いますよ」

「何が違うんだよ!」

 言葉が荒れる。先生にとる態度では無いことはわかっている。


「可愛い子には旅をさせよって言うでしょう?それですよ」

「───は?」


 怒りを通り越し、やってくるのは呆れ。


「可愛い子には旅をさせよ?」

「あ、意味がわからないんですか?」

「違う、そうじゃない。その言葉は、デスゲームの主催者が言うものでも、教師が言うもんでもないだろ?」

「そうですか?別に私は言ってもいいと思うのですが」

「なんでだよ...」


「そりゃあ、もちろん生徒一人一人が私にとっての小さな小さな可愛い子供だからじゃないですか!」

 嘘くさい慈愛。


 聖母マリアがマスコット先生を見たらきっと悲しむだろう。


「───なら...どうして、デスゲームなんかするんだよ...」

「言ってるじゃないですか。真の天才を作るって」

「違う!可愛い子供だと思うのなら、どうしてデスゲームなんかさせるんだ!」


「池本栄君。君は一つ勘違いをしていますね?」

「───は?」


「先生から池本栄君へのスペシャルな講義です。この講義を聞けるのは池本栄君、ただ一人───いや、森愛香さんもいましたね。でも、ごく限られたメンバーであることは確かですので」

「別に、マスコットの話に耳を傾ける義理などないわ。妾は眠るから騒ぐなよ」


 そう言うと、彼女は窓際で目を瞑り始めた。窓の外に転落する可能性だってあるのに、あの状態でよく眠れると少し感心してしまう。


「───それで、スペシャルな講義って?」

「では、池本栄君に質問します。王になるには?」


「───王に?」

「はい、王になる方法です」


「国民からの支持を集めて、皆のリーダーになって───」

「では、今いる王はどうするんですか?」


「───どうするって...死ぬのを待つしか...」

「ノンノン。ナンセンスですね、池本栄君。答えはこうです。王になりたければ、現国王を殺す」


「───それは...謀反にならないか?」

「王になれば、無問題(モーマンタイ)です!」

 俺は、マスコット先生の言いたいことがよくわからない。


「それでは、王子から国王になる場合はどうでしょう?あ、兄弟がいることとします。そして、年功序列などではなく、純粋な政治力だけを判断されるとしたら栄君はどうします?もちろん、他の兄弟に国王の身分を譲るなどは無しですよ?」


「きっと、マスコット先生は兄弟を全員を殺すって言う意見を求めているんだろうけど、俺はそんな事をしない。俺は、国民からも他の兄弟からも支持を集める!」


「───そうですか...随分と、平和ボケした教育を浩一はしてきたようだな」

「───ッ!」


 マスコット先生の口から出てくるのは、俺を育ててくれた義父である浩一おじさんの名前だった。


「池本栄君、わかってるじゃないですか。私を求めている答えは『兄弟を全員を殺す』ですよ!一番合理的でありスピーディーなんです!現国王も、それを乗り越えて今の位に立っている!ならば、何もおかしくはない!息子に自分と同じ試練を与えども何ら問題はないのです!」


「じゃあ...最初に国王になった人はどうなんだよ?どうして、子孫をたくさん残した癖に殺し合いなんてさせたんだよ...」

「見てて楽しいから...ですかね?ついでに、一番優れた王を選別するため」


「───ッ!」

 結論が、返ってくる。


 王の素質は、統率力と残酷さであった。何かに執着せず、すぐに取捨選択ができるような人間が最適だったのだ。故に、仲良くしていた兄弟を自らの手で殺し自分の立場を手に入れる。全ては、理にかなっている。その理屈がどれだけ血塗られていても───。


「結局の所、人は自分ためにしか生きれないんですよ。わかりましたか?それでは、質問ターイム!」


マスコット先生の講義で伝えたいことがわかった。それは───


「先生は、こう言いたいんだろ?」


 ───自分の利益の為なら人が不幸になることも厭わないし、その争い自体を作った人も自分の利益の為だ、と。


 ───要するに、人間は皆「利益」の為に動いているのだ。


 ───俺は、思案する。マスコット先生にとっての、デスゲームを行う為の利益とはなんだ。「真の天才」を作り上げる利益はなんだ。


 ───親から子に。子から孫に。何かが引き継がれていく。殺し合いを見る愉悦の他に、何らかの利益がある。


 現国王は、息子に同じ試練を与えることで、殺し合いを安全なところを見る愉悦と共に、次の王を決める事ができる。デスゲームならば、運営が生徒に試練を与えることでデスゲームを見る愉悦と共に───、


 ───あ。


「質問タイムなんだろ?3つ質問...してもいいか?」

「はい、もちろん。何でもお答えしますよ?その代わり、数を自分で制限したのでそれ以上は答えませんが」






「───デスゲーム、今回が初めてじゃないだろ?」




「はい、そうです。今回で5回目です」







「───今回のデスゲームに、前のデスゲームの生き残りの子供が参加しているか?」








「はい、そうです」




















「───それは、俺か?」




「違います」

納得した終わりができないまま、ズルズルと長引いていき、ここまで伸びてしまった...


でも、まだ納得していないんだよなぁ...

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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