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共工強行共同戦線 その⑥

 

 水。

 古代ギリシアの哲学者であるタレスは万物の根源を水と考え、エジプト神話では無秩序が形状のない無限の水の広がりとして世界を超えて存在しており神ヌンとして擬人化──もとい擬神化されている。


 地球各地でも万物の根源と考えられている水は、ドラコル王国でも最も偉大なものの一つと考えてもよく、実際水属性は基本五属性の1つに数えられている。


 ──そんな水が、城内都市パットゥの最上階の一部屋を満たしていた。

 残された酸素は上空に十数センチあるばかりで、水族館の水槽のようにそれ以外は水で埋められている。


 その水面には大きな水泡がボコボコと現れるばかりで、誰かが浮上してくることはない。

 この巨大な質量の中には、勇者一行の良心である稜と梨央の2人と、龍種の一体であり『狂気の主』などと恐れられている共工が沈んでいる。


 誰か一人でも浮上してきていいのだが──などと噂をしていると、水上に小さな顔が2つ飛び出す。

 稜と、稜に抱かれながら水上に上がってきた梨央の2人だった。


「はぁ……はぁ……なんとかなった……」

 大きく息を吸いながら、立ち泳ぎで2人は顔を出す。天井に捕まれるものがあったらよかったのだが、あるのは蜘蛛の巣と天井の接着点だけだ。

 こうして、兎にも角にも2人は浮上したけれども、彼らとは敵対関係にある共工は一向に上がってこない。


 ──と言うのも、共工は自分自身で作り出した蜘蛛の巣に捕らえられて身動きが取れなくなってしまったのだ。


 自分が用意した罠のせいで自分自身が動けなくなり逃げ遅れて死亡する──というのはなんとも皮肉な話だが、これまで大量の人を殺して来た共工には相応しい最期だろう。


「──と、そんなことよりこの水からどう抜け出すか、だ」

 そう口にする稜。梨央を抱きながら立ち泳ぎをしてなんとか生き永らえている彼は、この水をどう処理するか考える。


「この魔法、消せないの?」

「ううん、難しいかも。全部沸騰させて水蒸気にしちゃえばいいかもだけど、そうしたら……」

「俺達も釜茹でってことか」

 そう口にして、稜は濡れた顔に乾いた笑みを浮かべる。この部屋の水を全て無くすのは難しいだろう。


「このまま壁に穴を開けてどこに繋がるか……」

 水を消せない以上、どこかに排出するしかないと考えた稜は、この部屋の四方を覆う壁を見る。もし、この壁の奥に別の部屋があるのなら、そっちに水が流れて、水位が今の半分になる代わりに浸水した部屋は2つになるだけで問題が解決したわけではない。

 廊下に繋がっていたら、この部屋だけでなく廊下までもが浸水して道を塞ぐのは間違いないだろう。


「一番嬉しいのは外に続いていた時だけど、そしたらパットゥの第1層は床上浸水しちゃうだろうし……」

 稜は、パットゥに住んでいる一般人に被害を出すことを恐れるし、自分たちが帰るときに通る道であることを知っている。雪が降り続ける外に水なんか放出すれば、すぐに凍って巨大な氷の層ができることは間違いないだろう。


「そうなると、この部屋に水を残したまま俺達だけこの部屋を出たいんだけど……」

 水没している扉が使い物になるわけがない。水圧で開かないだろうし、開いたとしてもそこから水が流れ出て大事故だ。というか、今この状態で水が外に漏れ出てないことが奇跡と言ってもいい。


「天井に穴を開けて隣に移動するのは?」

「名案かも」

 梨央の意見に耳を貸した稜は、即断即決でそれに賛成する。確かに、天井に穴を開けてしまえばそこから2人だけで脱出することができる。


「それじゃ、そうしようか」

 稜は、梨央を自分の右半身側に寄せて剣を取り出し、それで天井をつつく。何度か天井を攻撃すると亀裂が入り、人が通れそうな穴ができた。


「よし、これで問題なさそうだ」

 天井に穴を開けた稜は、先に梨央を天井に昇らせた後に、自分も上層──天井裏と呼ばれる空間を進む。

 人が入ることが想定されていないようで、そこには荘厳さの欠片も無い舞台裏だったのだが、稜達はそれを気にせず進み、ある程度進んだところに天井に穴を開けて、その下に水が広がっていないことを確認した。


「──よし、ここで降りれば良さそうだな」

 稜と梨央の2人は風魔法を使用して、最上階である地下第5層の廊下に辿り着く。


 ──脱出成功だ。


 2人は、Dランクの風魔法と炎魔法を駆使してドライヤーのようにし、前身を乾かす。

 この付近の扉を開くと一気に水が漏れ出る可能性があったから、稜と梨央の2人はそのまま廊下を進んでいったのだった。


「さ、早く栄を見つけよう」

「うん。バラバラになった皆とも合流したいね」


 ──共工との戦いは、稜と梨央の完全勝利で幕を閉じる。


 ***


「──匂いがする。こっちだ。こっちにいる」


 ここは、城内都市パットゥの第三層。

 焦点の定まらない目で目的の方へ一心不乱に走るのは1人の男性。


 彼の走る先にいたのは──


「──会いたかったよ!僕の可愛い可愛いチエ!」

「──アレン!?どうしてここに!」


 ──『閃光』アレン・ノブレス・ヴィンセントvs『焦恋魔』村田智恵のエゴとエゴのぶつかり合いが、開始する。

共工に勝てたの、室内ってのも大きいですね。

攻め切れなかった共工にも問題はありそうですが……

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
稜と梨央の呼吸がバッチリですね。 良いパートナーだ。 そして現れるアレン。 でもアレンのキャラも嫌いじゃないです。
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