4月7日 その⑧
「生徒会だって、俺を仕立て上げようとしている裕翔!お前の方が、俺には生徒会に見える!」
俺は、裕翔を指差す。
「───で?」
「───は?」
裕翔は、俺の言葉を唾を吐くように無視した。その態度が気に食わなかった。
「クエスチョンジェンガが行われたのは4月1日だから生徒会じゃない?スクールダウトは本戦に無理に残る必要もない?だから、どうした?」
「どうしたって...俺は生徒会じゃないって!」
「学校に入る前から、生徒会になる誓約だったらどうだ?ランダムを装って、最初から仕組まれていたとするのならばどうなんだ?」
「なっ、言ってることがさっきと違うだろ?」
「どれだけ否定したって、疑いは晴れない。無駄なんだよ、栄。実際、この教室の殆どがもう、お前を信じていない」
「───はぁ?」
俺は、クラスの皆を見回す。稜・健吾・純介・美緒・紬以外の教室にいる全員から向けられる目は、懐疑。
教室にいない智恵と梨央も、仲間になってくれるだろうか。梨央はきっと、なってくれるだろうが誤解されてしまっている状態の智恵は怪しい。
その目は、昨日と違った疑いの目が確実にあった。
「───なんで、皆...」
「これはデスゲームだ。誰かが死んだとなるならば、その疑いは顕著となる。残念だな、栄。もう、栄の信用は皆無だ。智恵にも逃げられて、今日は最難な日だな。あ、そうだ。信用度を確認するために殴り合いでもするか?」
裕翔は挑発的な態度を取る。
「今度は、賭けなんかなしに信用度を確認する殴り合いだ。殺人犯かもしれないやつの味方をする人はいるかな?」
裕翔は手をクイクイと動かし、殴りかかるよう挑発する。だが、俺はそんな喧嘩には乗らない。
「来ないのか?信用が無いって実感するのをビビってるのか?」
「───殴りにかかったら、建前だけ優しい心の奥では自分が生き残ることしか考えていない冷酷な男ってありもしない噂を流すのだろ?目に見えてんだよ。裕翔は俺のことが嫌いってことは。だから、その挑発には乗らねぇ!」
「へぇ、栄はへっぴり腰のチキン野郎なんだ!周囲の視線を気にしている八方美人なんだ!へぇ、つまらない人生だなぁ!」
裕翔に煽られても、怒らない。怒って殴ってしまえば、相手の思う壺だ。
「───面倒だ、どうにかならないのかな...」
教室を見回しても、誰も俺を擁護してくれる人はいない。だが、裕翔の意見を担ぐ人もいない。
皆、沈黙を貫いている。この場合、沈黙は金だ。俺と裕翔の小競り合いにに参加しない方が平和だとわかっているのだ。だから、先程まで俺と戦った紬も今は純介に諭されながら沈黙という選択を取っている。
稜は、唇を噛みつつも俺を擁護するような主張をしても、全く違う───要するに、人聞きの悪いような解釈がされてしまうので、何も発言はしない。
───言葉にはしていないだけで、俺の仲間は教室にいる。
その事実が、俺には嬉しかった。その決定的な事実があるだけで。数人の仲間がいるだけで、俺は戦える事ができた。
「───もう、面倒だ。殺人犯だ殺人犯だって言うなら、お前を殺すよ、裕翔」
「昨日は、一人じゃ勝てなかったお前が俺に勝つって言うのか?」
「殴り合い、誰も一人だなんて言ってないだろ?それに、賭けていないのなら尚更だ。信用度を試すんだろ?昨日と同じ結果になっているのは目に見えているはずだ。本当の、殴り合いをしようぜ?」
俺は、あえて挑発に乗る。どちらにせよ、殺人犯という肩書きが消せないと言うのならばいっそのこと裕翔を殴り殺してしまって問題はないと考えた。
「それとも、散々煽っておいていざ殴り合うとなると逃げるのか?裕翔、お前はへっぴり腰のチキン野郎なんだな」
裕翔が俺に向かって放った言葉を全く同じ言葉を返す。
「は?逃げる訳ねぇだろ?何人でもいいからかかってこいよ!生憎、昨日オレのことをボコボコにした皇斗は外でポイントを稼いでいる!だから、お前に───いや、お前らに負ける気はしねぇ!」
「んじゃ、双方の同意は取れた。いざ、勝負───」
”ガラガラガラ”
「池本栄君!ちょっと来てください!」
「───え?」
教室に入ってきたのは、マスコット先生だった。確かに、教室にはいなかった。俺は、呼び出されたのだ。
何故?なんのために?どうして?
「───ッチ。先生に呼ばれたらしょうがねぇな...」
裕翔はそんな事を言っている。
「行ってこいよ、殺人犯!先生に怒られてきな!」
「───ッチ!」
俺は、舌打ちだけして教室を出る。そして、俺は先生にB棟の4階───生徒会室にまで連れられた。
「どうしたんですか?先生」
生徒会室にいたのは、森愛香であった。
「遅いぞ、マスコット」
そんな事を言っている森愛香を無視して、教室と同じように並べられている座席の一つにマスコット先生は座る。俺は、その前の席に案内された。
「───それで、どうしたんですか?」
「小寺真由美さんの禁止行為は『時速40km以上で移動したら死亡』でした」
やはり、小寺真由美さんは禁止行為で死亡したのだ。俺は殺人犯なんかではない。
「───どうして、皆に言わないんですか?」
俺は先生に問う。先生は、表情を変えずに───被り物をしているのでほとんど表情が変わることはないのだが。先生は口を開きこう言い放った。
「どうしてって、そりゃあ池本栄君が皆から疑われているのを見るのが楽しいからに決まってるじゃないですか!」





