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共工強行共同戦線 その④

 

 稜の一撃が決まり、腕を1本失った共工は取り乱すことなく残る7本の足で蜘蛛の糸を昇り稜の攻撃の届かないところまで移動していく。


「──このままヒットアンドアウェイ戦法で戦われても埒が明かない」

 幸いにも、先程の一撃で梨央が毒に侵された様子はないけれども、一度の怪我に付きHP回復用ポーションを2本も使わされているようじゃ、いつか枯渇してしまう。


「腕を全部切り落とすにしても残り7回。全部が全部上手くいかない気がするし、今の共工は顔を隠してない──即ち、既に暴走状態にあるってことだ」

 暴走する以前の共工に出会ったことがないため、通常の共工にどんな能力がプラスされて今になっているかは稜にはわからないけれども、目の前の怪物が厄介なことに間違いはなかった。


「──今のままじゃ駄目だ。なんとか一発逆転の策を考えないと」

 蜘蛛の糸。鋭い足。何もかもを融解する体液。生み落とされる無数の子蜘蛛。


 1つ1つが、稜と梨央の命をじわじわと蝕んできていることを感じる。


「ごめん、稜。ありがとう」

「ううん。背中、大丈夫?」

 HP回復用ポーションを摂取することで共工に付けられた背中の傷をなんとか完治させた梨央は、自分の武器である魔法杖を握る。


「うん。背中は大丈夫だよ。傷跡が残っっちゃってるかもだけど」

 そう口にして、梨央は稜に背中を見せる。服がパックリと割れていて白い背中が露になっているけれどこれといった傷跡は見られない。


「傷跡、残ってないみたいだよ。回復が間に合ったみたい」

「よかった。回復魔法との併用でなんとかなった」

 梨央の背中が寒そうだったから、稜は自分が着ている白い──と言っても、これまでの戦闘で少し汚れてしまっているのだが、それをかけてあげる。


「──ありがとう。でも稜は大丈夫なの?」

「うん。俺には盾があるからさ」

 そう口にして、稜が左手に持たれている鋼鉄の盾を見せると同時──



「──ッ!〈衝撃吸収〉!」

 天井から迫ってくる殺気。その巨体で稜と梨央の2人を押し潰そうと試みた共工が重力に従って落下してきたのだ。咄嗟、稜は梨央を右手で抱き寄せて左手に持たれた盾を掲げることで重力を伴ったプレス攻撃の防御に成功するけれども、その盾に全体重をかけてきた共工の重みに耐えきれず、そのまま滑り落ちるように共工は盾から落ちていく。


「──ックソ!」

 左腕がぶらんと垂れさがっているが、稜と梨央の2人がペチャンコに潰れていないだけまだマシだろう。

 相手が巨体すぎるがあまりバランスが保てていなくて助かった。


 ──などと思うのはまだ早い。


 稜は、左腕が使い物にならない状況でも勇ましく一歩前に踏み出し、地面に降りて来ていた共工に攻撃を仕掛ける。共工は稜と梨央の2人をお尻を向けており、虫特有の振動としてその体を忙しなく動かしていた。そのところを稜は、梨央に回していた右手を離した後に、左腰に携えているその剣を握って、真一文字に再度振るい──


「──違う!」

 神話時代から生き延びてきた共工が敵対する人物にお尻を向ける。

 意味もなく、そんな行動を取る馬鹿はこの世にどこにもいないのだ。ましてや、「最強格」として恐れられている龍種なら尚更。


「盾を──」

 そう口にして、無理して左腕を動かそうと試みる稜だったけれど、だらんと垂れ下がってそれっきりの腕はピクリともしない。やはり、回復魔法がなければ動かすことは難しい。

 稜は攻撃することを中断し、防御することさえもままなら状況下、回避する時間も無くした稜は、共工の初めて見せる攻撃に襲われる。


 お尻を向けて一見攻撃チャンスかと思わせるが、その尻にある噴出口から大量の蜘蛛の糸を放出する共工のカウンター技は、稜の体を蜘蛛の糸で束縛して──


「──〈神出鬼没の花吹雪(フラワー・アイボリー)〉!」

「──ッ!」


 吹くのは神風。

 稜の後方から力強く吹き荒れる色とりどりの花弁を混ぜたそれは、勢いよく噴出された蜘蛛の糸の勢いを相殺し、噴出された蜘蛛の糸が稜の前に大量に落下していく。半透明の糸が山積みになり、もしその糸に体をグルグル巻きにされていたら剣を持つ稜でさえも逃げ出すことはできなかっただろう──などと想像を膨らませる。


「──と、助かった」

 稜は、すぐにそんな想像を頭の中から棄てて我に返り、すぐに共工から距離を取るようにして離れた。

 共工の糸の噴出が終わったころに花吹雪も止み、共工は蜘蛛の糸を器用に上って上空に移動していった。

 残された大量の半透明の強靭な糸だけが目の前に残っており──


「──そうだ。これを使えば!」

 稜の頭の中には、一つの作戦が思いつく。

 ピンと張られた蜘蛛の糸は、少し触れるだけでも人の肉を切り裂こうとするほどに危険なものだけれども、こうして張られずに排出されただけの糸なら触れることもできるだろう。


 そう思った稜は、その糸を手に取り強度を確認する。ピアノ線のように強度もしっかりしており、ピンと張られている状況でないと剣で切ることは難しいだろう。そして、思いのほか粘り気はない。


「──稜?何をしてるの?」

「梨央。この糸を使って少し実験だ。協力してくれるか?」

「うん」


 梨央は、稜の言葉に素直に頷く。

 そして、共工が上空で睨んでいる中で、2人は共工に勝つための作戦会議を再度開始したのだった。

HP回復魔法(MP消費)ばかり使われておりますが、一応MP回復(HP消費)もあります。

体内のものを無理矢理燃焼させてMPに変換してるのですが、普通に体に不調を来たすから基本はしません。

この設定を作中で使うこともありません。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
苦戦が続くなかでの稜の閃き。 これは勝利の方程式が導き出せそうですね。 しかしたった二人でよく戦ってる。 このまま何とか勝利を掴んで欲しい!
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