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共工強行共同戦線 その①

 

 ──どこの戦場を切り取り映し出すにしても、やはり始まりは茉裕の披露した魔法である〈離散(ディアスポラ)〉の影響で辿り着いた先となる。


「ここは……」

 視界のほとんどを白で覆われていたパットゥの正面玄関から、突如としてパットゥの室内に移動させられた稜と梨央の2名は、その寒暖差に体を驚かせながらも周囲を確認する。


 ──そこに広がっていたのは、横にも縦にも広い半分室外のような空間だった。


 と言うのも、2人が立っている足場は栄養の無さそうな灰色の痩せた地面なのだ。

 雪が積もっていたパットゥのエントランスとは違い、ここは土が剝き出しになっているのを不思議に思った2人が、雪の降り注ぐ上を見ると、そこには天井があった。


 天井には巨大なシャンデリアが飾られており、炎魔法が使われているのか橙色の炎が部屋全体を照らしていた。

 天井があるけど床は地面だ。となると、ここはビニールシートの中のような感じなのだろうか──と考えるけれどそれは不正解だ。


 だってここは、城内都市パットゥの最上階である第5層なのだ。

 風魔法で空を飛んだりしない限り屋上に足を運ぶことができないパットゥでの実質的な最上階に位置するこの部屋は、何のために作られたのだろうか──。


 そんなことを思いながらも、稜と梨央の2人は顔を見合わせる。

 2人は、応龍の翼が生み出す風に巻き込まれながらも、空中で手を繋ぎ合っていたのだ。

 だからこそこうして同じところにワープしたのだが、それが幸か不幸かはわからない。だってそこは──。


「「蜘蛛の巣がたくさんあるね」」

 その広い部屋を見回した2人の意見が一致する。


 部屋のあちこちの空間が、キラキラと光を反射して輝いているが、それはシャンデリアの光を何かが反射している証拠だった。その1つ1つをよくよく凝視してみると、その目に映るのは何本もの細い線。


 この部屋のあちこちに、大量の蜘蛛の巣が張り巡らされていたのだ。

 シャンデリアは魔法で光っているからこの部屋が古び廃れた印象を受けないだけで、どうやらこの部屋はかなりの年代使われていないらしい。だからこんなに、蜘蛛が巣を作ってしまっている。


「とりあえず、この部屋にいてもいいことはなさそうだし早くここを出ようか」

「うん」

 稜がそう口にして地べたに座り込んでいた梨央の方へ手を伸ばすと、梨央はいっしゅんキョトンとしたような顔を浮かべた後に、稜の手を右手で掴んで立ち上がる。


「それにしても、蜘蛛の糸が邪魔だね。どうしよう」

「俺の剣で少しずつ斬って進もう」

「でも、剣に引っ付いちゃわない?ワタシの魔法で燃やせるかもだよ?」

「蜘蛛の糸って燃えるの?」

「わからない」

「まぁ、試しにやってみよう」

「わかった。〈鬼火〉」


 蜘蛛の巣に触れないようにその場で立ち話をする稜と梨央の2人だが、知らず知らずの内に手を握り続けていた。2人は、いわゆる両片想いの状態で意外にも進展がないのだけれど、手をつなぎ続けていることを考えても告白すれば成功するのは確実だろう。


 ──閑話休題。

 梨央は、Cランク魔法である〈鬼火〉を使用し、バスケットボール大の炎の球を生み出し、それを蜘蛛の糸にぶつけてみるものの、その糸に燃え移りその細い線を伝って広がっていくだけで、燃え尽きるような様子はない。


「──蜘蛛の糸って火に強いのかな?」

「そうかもしれないね」

 炎で燃やす作戦は上手くいかないことで早々に見切りをつけて、仕方がないから剣を使って蜘蛛の糸を退かすことにした。


 稜が梨央から手を離し、鞘から剣を引き抜いてそれ大きく振るい、蜘蛛の巣を斬っていく。

 剣にベッタリと蜘蛛の糸が付着するけど、その剣で空を切ることで地面にパラパラと細雪のようにゆっくりと宙を舞って落ちていく。


「これなら進めそう!」

「そうだね。出口は、えぇと……」

 稜が梨央の言葉に頷き、この古びた部屋から出る扉を探して左右を見回してみる。と、その時──


「「──ッ!」」

 2人は、自分のすぐ後ろから何者かに睨まれているような感覚を覚えて体を震わせる。梨央が咄嗟に稜の方に手を伸ばし、稜が咄嗟にその手を握る。

 あまり手に力の入らない梨央ではあるが、彼女は強く稜の手を握りそれに縋るように体を震わせる。


 ──すぐ後ろに巨大な何かいる。


 振り向かずとも、その事実はすぐに理解できた。先程まではいなかったはずの巨大な怪物がすぐ後ろに迫っていた。耳を澄ませても音はしないし、何か不快な匂いがするわけでもない。

 ただ、そのピリピリと体中が痺れるような威圧感と存在感を背中で感じ取ったのだ。


「──稜」

 今にも消えてしまいそうな細い声で梨央が体を震わせながら稜の名前を呼ぶ。稜は、梨央のその恐怖を繋がっている手から感じ取ることができたし、自分だって恐怖は止まらない。


「──梨央、大丈夫。俺に任せて」

 根拠もなく稜がそう口にすると、手を離してグルリからだを半回転させて後方にいる怪物に向けて下から上へ剣を振り上げる──


「──あれ?」

 振り返って剣を振るっても、そこに広がっているのは虚空だけ。ただ広いだけの使われていない空間がそこには広がって──


「稜、上!」

 梨央の言葉に釣られて稜は天井の方を見上げる。そこにいたのは──



「──蜘蛛!」

 そこにいたのは、1匹の巨大な蜘蛛であった。禍々しい色をしたその蜘蛛は天井にひっくり返って引っ付いていた。

 その存在感から、稜と梨央の2人はすぐに龍種の中の1匹であることを理解する。


 確か、『剣聖』が言っていたその蜘蛛の姿をした怪物の名前は──


「「──共工」」

 稜と梨央の声が重なる。



 ──共工の巣に転移してしまった稜と梨央がここから逃げ出すためには、共工を討伐しなければならない。


 2人と1匹の戦いが、開幕したのだった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
蜘蛛の巣があれば、当然蜘蛛も居る。 しかし蜘蛛とは戦いにくいですな。 日本では蜘蛛を殺すなという格言あるけど、 状況が状況だから戦うしかないけど、 あんまり戦いたい敵ではないですよね。
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