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『剣聖』の称号

 

 ──第34代『剣聖』マルクス・シュライデンと第13代『魔帝』園田茉裕による、剣と魔法の白熱した戦いが繰り広げられる──と思ったら。


 餅は餅屋、目には目を歯には歯を──などと言わんばかりに、悪辣な『魔帝』が〈幻想蘇生(ゾンビランド)〉で蘇生させたのは総勢33体の歴代『剣聖』であった。

 Sランクの中でも使用するのが特に難しいとされている死者を蘇生する〈幻想蘇生(ゾンビランド)〉を、いとも簡単に行使する『魔帝』。同時に蘇生できるのは多くても3人──とされていた〈幻想蘇生(ゾンビランド)〉の常識を一気に覆す茉裕に驚きを隠せない第34代『剣聖』であったけれども、彼の心はそんな規格外の茉裕には向けられていない。何故なら──


「──師匠!」

 蘇生された歴代『剣聖』の中には、第34代『剣聖』──マルクスの師匠である第33代『剣聖』カルマ・グルーゲルももちろん存在している。マルクスが第34代『剣聖』を襲名した時以来の師弟対決が行われる──と思われたのだが。


「──グ……ガガ……」

 最初から自我なんてまるでないと言わんばかりに、『剣聖』は獣のような低い声をあげる。


 ──〈幻想蘇生(ゾンビランド)〉だって万能な魔法ではない。

 ただ死者を復活させることができるだけ。「死人に口なし」という言葉は、ドラコル王国にも健在だ。

 〈幻想蘇生(ゾンビランド)〉で復活させられた人物は、自らを復活させた人物の命令にその肉体が滅びるまで従うだけ。そこに理性も人間らしさも存在しない、ただ生前に持っていた本能と能力だけを

 頼りに動き出すのだ。


 そのことを知っている『剣聖』──この場には初代から34代までの歴代剣聖がプリキュアの映画のように勢揃いしているため、勇者一行の味方をしている現在の第34代『剣聖』のことは本名であるマルクスと呼ぶことにする。

 そのことを知っているマルクスは驚かず、自らの死を愚弄する『魔帝』に怒りを募らせる。


 今すぐにでも『魔帝』を斬り殺したいけれども、そうなると目の前にいる歴代『剣聖』は誰が相手にするのか。同じ部屋にいる健吾や梨花・美沙の3人では相手にならないだろう。だから──


「3人共、『魔帝』は任せた!」

 マルクスはそう叫び、他の皆に『魔帝』の相手を任せる。3人は『魔帝』と関わりがあったようだし、もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない。そんな一縷の望みを胸に宿すけれども、『剣聖』を勢揃いさせて殺しに来ているようじゃ、健吾達でも話にならないかもしれない。


 だから、マルクスは目の前の33名を早く倒して健吾達を助けに行かなければならないのだが──


「操り人形とは言え、全員が『剣聖』。一筋縄ではいかないな」

 マルクスは、そう口にしてつばを飲み込む。

『剣聖』は、継承試験で先代『剣聖』に勝利した者が受け継ぐことのできる二つ名であり、それが初代から脈々と継がれている。だから、初代よりも2代が、2代よりも3代が、3代よりも4代が──と続き、33代よりも34代が、と言う風になるので理論上ではマルクスが現状の『剣聖』の中では最強になるのだが、継承試験では一騎討ちであった。


 だが、今回は1vs33という、超ハンデ戦。「個」としてもその時代の中で最強と称される『剣聖』が、一堂に会する状態で、マルクスは勝てるのか。


 ──ハッキリ言えば、勝算は薄い。もっと言えば、0に限りなく近い。

 相手は全員、神話に名を連ねるような猛者だ。一瞬でも対等な勝負をできるだけでも、評価されるだろう。相手にしようとした勇気だけでも十分に評価され、逸話として残るだろう。


 戦う前から敗色濃厚であるマルクスの顔に貼り付けられていたのは──笑顔。

 キラキラと輝かせた宝石のような瞳に、口角が上がりきってしまって、なかなか下がらない頬。

 第34代『剣聖』として──ではなく、1人の猛者オタクとして、目の前にゾロリと並ぶ『剣聖』の存在に、マルクスは興奮していた。


「会いたかった歴代『剣聖』がこんなに!1人について語るだけでも1日じゃ足らないっていうのに、これじゃあ一カ月以上掛かっちゃうよ」

 そう口にするマルクスは、口から垂れそうになる涎を右手で拭った後に、腰にある鞘に手を伸ばす。


 ──マルクスのその動きを、歴代『剣聖』が見逃すはずもなく、他の『剣聖』も一斉に鞘へと剣を伸ばし、動き出す。


 先陣を切って動き出したのは、第19代『剣聖』アルバ・グレゴロであった。

 それに続いて、他の『剣聖』もマルクスの方へと迫ってくる。


「先陣を切ったのはやはり第19代『剣聖』アルバ・グレゴロさんですか!流石は、『剣聖』を継ぐ前には『魁』と呼ばれていただけある行動力です!決して感情的に見を任せて動いているわけではなく、頭の中では複雑な作戦を必ず用意していて、有名どころだと『無際限』のガルナ・エドワードとの戦いの泣いた赤鬼作戦とかでしょうか!?」

 理性を失っているとは言え、本物の『剣聖』を前にしているマルクスは敬語ながらにペラペラと早口でオタクである一面を見せつけながら、鞘から居合を披露する。


「「──〈機械仕掛けの暗黒世界〉」」

 マルクスの放った居合に合わせるように、その剣を振るった人こそ最前線を走る第19代『剣聖』アルバ・グレゴロであった。


 ──当代『剣聖』vs歴代『剣聖』の勝負は、こうして開始したのだった。

幻想蘇生(ゾンビランド)〉・・・死者をそのままの容姿・能力で復活させることができるが、理性は残っていない。魔法の行使者の命令に背くことはせず、出された命令に従って動き、命令を達成した後は、行使者の元へ戻って次の命令を待つ。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
〈幻想蘇生〉。 地味にエグい技ですね。 なんかジョジョ初期の吸血鬼が作るゾンビに似てる気が……。 しかし茉裕も容赦しねえなあ。 彼女のクソ悪女ムーブは止まりそうにないな。
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