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閑話 パーノルド・ステューシーの過去

 

 ──パーノルド・ステューシーは、移動型サーカス団『CRISIS CIRCUS』の劇団員という異色の経歴を持つ。


 と言うのも彼の両親も劇団員であり、移動型サーカス団としてドラコル王国内外を練り歩き、その神業を披露していた。

 そんな両親に触発されて──というより、子育ての一環としてパーノルドにはサーカスでも使えるような技が仕込まれて、子供の持つ柔軟さを利用した芸でサーカスに出演するなどしていた。


 それが、サーカス団である『CRISIS CIRCUS』に在籍する親の元に生まれた子の責務であり、同時に幸せでもあった。

 パーノルドは、両親や『CRISIS CIRCUS』の団員によってたくさんの愛情を受けながら育ち、スクスク成長して大人になってくる。


 パーノルドが20になる頃には、彼もナイフを使用したジャグリングや魔獣に指示を出す──と言った、様々な芸当を会得しており、ピエロとした顔を白塗りにしながら実際にサーカスでも披露していた。

 そんな彼の運命が変わるのは、今から10年程前の21歳の時に行ったプージョンでの公演。


 そこで、彼がいつものように仕事を終えて歓声を浴びながら楽屋に帰り、その汗と白塗りのメイクを拭っていると彼の元に客人がやってきた。


「──はい」

「失礼するよ。今日の演目、見せてもらったよ。実に素晴らしかった。意のままに魔獣を操る姿や、両手を使っても数えきれないようなナイフでジャグリングをするその技術に僕は深く惚れ込んだ。だから、僕は君のことを是非とも『親の七陰り(ワーストヒストリー)』に勧誘したい。よろしいかい?」


 楽屋に入ってくると同時、パーノルドに対してまくしたてるようにして話すのは銀髪の青年であった。

 その後ろには、困ったような顔をした筋骨隆々とした橙色をした髪を持つ男と、燃えるように赤い髪を持つ剣士の女。そして、見た目や体格が瓜二つの青髪の男が2人──合計、5人がパーノルドの元にやってきていた。


「よろしいかい?って言われましても……」

 パーノルドは、状況が飲み込めない中で『親の七陰り(ワーストヒストリー)』に勧誘されて困惑しながらも、それの対処を試みる。


「あぁ、すまない。名乗るのが遅れたね。僕は、『神速』の一番弟子であり『親の七陰り(ワーストヒストリー)』のリーダーを務めているアレン・ノブレス・ヴィンセントと言う。世界各地を旅してるらしいなら、『閃光』の二つ名を聴いたことはないかい?」

「『閃光』……」

 ドラコル王国中を旅しているパーノルドであったが、当時の『親の七陰り(ワーストヒストリー)』は無名だ。『閃光』と呼ばれてもパーノルドにはわからない。


「──知らないか。まぁ、いい。一緒に旅をするつもりはないかな?」

「それは……」

「ピエロの兄ちゃん、あんま『閃光』さんを怒らせないでくれよぉ?」

「「そうだ──おっと、すまん」」

 瓜二つの男達2人は、話すタイミングも完全一致しているのか2人共喋り出しては2人共謝罪し、2人共譲り合っている。

 そんな姿を見ながらパーノルドは、『親の七陰り(ワーストヒストリー)』への参加を拒否する。


「申し訳ないですけど、私は『CRISIS CIRCUS』に身を置いています。感動してくださったのは嬉しいのですが、一緒に旅をすることはできません」

「──そう」

 アレンは、声色を少しだって変えずにそう返事をする。パーノルドは「わかってくれたか」と胸を撫でおろしたけれども、実際はその逆。


「──それじゃ、『CRISIS CIRCUS』を僕達が壊滅させてあげる。それなら、仲間に入ってくれるよね?」

「──え」

 その言葉と同時、『親の七陰り(ワーストヒストリー)』の5人は動き出す。


 ──アレンが、自分が欲しいものの為にはなんだってするのは智恵の奪い合いを通して知っているだろう。

 だからアレンは、パーノルドを仲間にするために『CRISIS CIRCUS』を壊滅させ──


「わかりました!なります、仲間になって一緒に旅をします!だから皆には手を出さないでください!」

 パーノルドは、その脳裏に劇団員が虐殺される姿がハッキリと映し出されたので、その未来を避けるためにすぐにそんなことを叫ぶ。


 ──パーノルドにとって『CRISIS CIRCUS』は家族同然である。だから、殺されるのは嫌だ。


 パーノルドがそう叫んだのを聴くと、アレンはニヤリと下衆な笑みを浮かべてパーノルドの方へと近付く。


「ありがとう、僕は嬉しいよ。僕と一緒に冒険をしたくなったんだよね?」

 その言葉に、パーノルドは必至に首を縦に振った。相手を刺激するのは危険だ。家族同然の『CRISIS CIRCUS』が殺されてしまうかもしれない。


「──と、言うわけだ。座長が何方かは知らないけど、この人はこの人の意思で僕たちと共に旅をすることに決めた。だから、僕たちの邪魔はしないで欲しい。それとも君達は、大切なな仲間の決定を自分の利益のために否定するのかい?」


 そんなことを口にして、アレンはパーノルドの手を引いてサーカス団の楽屋のあるテントを出て行く。

 そして、どこかの宿に向かっている最中にパーノルドはアレンに質問される。


「さっき白塗りはしてたけど、大体どのくらい時間かかってるの?」

「ま、まぁ1時間くらいですかね」

「白塗りだけで?時間がもったいない。明日からは眼のふちを緑色に塗りなよ」

「は、はぁ……」


「『閃光』さんよぉ?それで本当にいいのか?ピエロなのが気にいったんだろ?」

「あ、そうだ。ならば語尾をパスにすればいいんじゃないか?」

「なぜ?」

「だってほら、ピエロってサイコパスっぽいだろう?」

「偏見だし安直だし、ひっちゃかめっちゃかだ!」

 パーノルドは、思わず紅一点の提案にツッコミを入れてしまうけれど、当のアレンは──


「いいね、それ。採用だ」

「はい!?」

「今から語尾をパスにしなよ。似合ってる」

「似合ってるって、えぇ……」

 アレンの無茶ぶりに納得いかないパーノルドであったが、それに従わないと自分と仲間たちの命が危うい。


「ほら、つけてくれよ」

「わ、わかったパス……」

 不本意ながらに、パーノルドはアレンの命令に従わざるを得なくなった。


「──うん。僕の見立て通りだ、似合ってる。笑い方も普通のからパスパスに変えよう」

 色々と言いたいことがあったけれど、パーノルドは反論しない。いわば自分は捕虜なのだ。

 助けが絶対にやってこない捕虜──、


「──と、君の名前をまだ聞いてなかったね。君の名前はなんて言うんだい?」

「……パーノルド・ステューシー」

「パーノルド・ステューシー。うん、いい名前だ」


 アレンは、パーノルドから名前を聴きだすと小さく頷く。そして──


「よろしく頼むよ、パーノルド。君は今日から、僕達の仲間だ」

 アレンの残酷さには似合わない爽やかな笑顔で、パーノルドは『親の七陰り(ワーストヒストリー)』に仲間入りを果たしたのだった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
歌穂、えげつないバトルでしたが、 これで彼女もまた一皮剥けましたね。 パーノルドの過去話も良かったです。 こういうキャラの掘り下げ話は個人的に好きです。
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