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Psychopath その④

 

 ──パーノルド・ステューシーは、その二つ名に相応しい『失敗作』である。


「どう?薬は成功した?」

「また失敗パス」

「センスがない。そろそろ諦めろ」


 これは、アレンが智恵に出会う数週間前に行われた会話だ。

 アレンがパーノルドの薬の開発に気にかけ、アイアン・メイデンが罵詈雑言を浴びせる。

 彼女の口が悪いのは日常茶飯事なので、パーノルドが気にすることはないけれど薬の開発の失敗は何度経験しても悔しいと思う気持ちがある。


 ──と、これはパーノルドがした直近の薬の開発の失敗であり、それ以前にも数えきれないほどの失敗を積み重ねていた。

 彼が薬の開発を開始したのは、アレンに『親の七陰り(ワーストヒストリー)』に入るよう誘われた数ヶ月後の流行り病にパーノルド以外が完成した時であったから、今から9年ほど前になるだろうか。それから今の今まで、失敗を重ねて来ていたのだ。


 そんな『失敗作』である彼であったが、その研究に自分を利用していたから自分は自分の作る毒──薬の失敗作に抗体ができてしまったし、その失敗した薬を開き直って毒として扱っている。


 ──と、賢い人は思うだろう。

 パーノルドが自らに注射し、上半身を肥大化させたあの薬は成功したのではないか、と。

 だが、あれは成功していない。致命的な欠点があるのだ。


 ──パーノルドが使用した薬には副作用があり、あれが前身に回った状態では数分もすれば体が破裂してしまうのだ。


 では、パーノルドは数分後には体が破裂して死んでしまう運命にあるのか。

 そう聞かれて、首を縦に振るのは半分不正解だ。


 確かに、このまま何も対処しなければその体は破裂して、パーノルドは死亡するだろう。

 だけど、パーノルドが用意しているまた別の薬の失敗作──筋肉を異常なまでに収縮させる水色の毒を使用すれば、その肥大化をキャンセルすることができる。

 今回、大切になるのは水色の毒が使用されるか否かだろう。全ては、その一本の注射器にかかっているのだ。



「──私の必殺技を前に、死んでくだサイコ」

 上半身が肥大化したパーノルドは、血管が浮き出た顔からそんな低い声を出す。先程までのような瘦せ細った男の姿は無くなっており、そこには筋肉の鎧に覆われた重装歩兵の姿があった。


「痛い……わね」

 その豪腕に顔面を殴られた歌穂は、自分の顔に触れる。手を離すと、ベッタリと自分の掌に血が付いていたので、眉をひそめた。


 ──決して、血が嫌だったのではない。それなりに整っていると自負している自分の可愛い顔を傷つけられたのが不愉快だったのだ。


「よくもやってくれたわね。アタシが不細工になったらどうするつもり?」

「安心するサイコ。顔がどこかもわからないくらいにグシャグシャにしてやるサイコ」

「……」

 語尾がパスからサイコに変わっているパーノルドであったが、それでもあまりハマっていないように見える。


 ──と、今はパーノルドのキャラが壊れていることを憂慮するよりも先に、斧を手放してしまったことを問題にするべきだ。


「──クソ、視界が揺れる」

 先程から毒に蝕まれている歌穂は、自由に体を動かすことも難しい。斧を取りにパーノルドの方へと走っていっても、返り討ちにされるのは目に見えている。


「──」

 歌穂は、眩む視界の中で上半身が肥大化したパーノルドを見る。筋肉の肥大化に伴って身長も増えているのか、先程よりも顔を見るためには見上げる必要ができてきた。2人の視線が交錯し──


「──このナイフで一突きして、ぶっ殺してやるサイコ!」

「やれるもんならやってみなさい!」

 そう口にして、歌穂は自らの方へと突っ込んでいくパーノルドに立ち向かう。


 流石に、丸太のように太くなった腕を受け止めることはできないだろう。ならば──


「足を狙えばいいじゃない!」

「──ッ!」

 歌穂は、その場で獣のようにしゃがみ、低い姿勢で回し蹴りをしてその巨体を支える細い足を引っかける。


 肥大化している筋肉は上半身だけだったので、通常と変わりない下半身は、少しの打撃で簡単に揺れ動いた。そのまま、パーノルドは大きく転び、歌穂は股の下を抜けてよろめきながらも斧の方へ走っていく。


「──そろそろ、毒の効果が」

 そう口にする歌穂は、自分の体に限界を来ていることを察する。毒に蝕まれた骨髄が悲鳴を上げて、視界が揺れ動く。回復するためには、パーノルドの血から血清を作る必要があるだろうが、それだって困難だろう。


「回復魔法も通用しない毒、本当に迷惑ね……」

「よ、よくもやってくれたサイコ……」

 斧を回収できた歌穂が愚痴を吐くと同時に、数メートル先で立ち上がったのは転んでいたパーノルド。


 その巨体を持ちあげて体を歌穂の方へ向けると、懐から大量のナイフを取り出す。


「──近付くのが危険なら、これでも喰らうサイコ!」

「また、投げナイフ──ッ!」


 歌穂は、投げナイフが飛んでくると思って斧を縦にガードを試みるけれども、上半身が肥大化したパーノルドの投擲は歌穂よりも何枚も上手だった。


 音速を超えるスピードで飛んでいくナイフは、歌穂の体を貫き───。



 呼吸困難、肉体壊死、老化促進、肉体麻痺、眠気増長、色覚異常、味覚障害。

 様々な効果を持つ毒が、歌穂の体を一気に襲ったのだった。

語尾が「サイコ」なの語呂が悪すぎて頭抱えてる

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
パーノルド、良い感じに壊れたキャラですね。 そして追い打ちをかけられる歌穂。 今の所、敗北フラグがガンガンたってますが、 このまま負ける歌穂とは思いたくないです!
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