Psychopath その①
少し、城内都市パットゥの構造の話をしておこう。
城内都市パットゥは、第1層から第5層、そして地下層の6つに分けられている。
第1層には城内都市の名に相応しい都市が広がっており、現在も3万人を超える人物が主に自給自足をしながら生活を営んでいた。
そして、第2層から第4層まではお城のような多くの部屋が用意されていた。かと言っても、そこに本当の王族が住んでいるわけでもないし、『古龍の王』は宝物の収集癖も無かったため、その部屋のほとんどは使用されていない。
1層から2層までは巨大な螺旋階段で繋がれているが、2層より上は通常の階段で事足りる。
なにせ、2層から4層は通常の人間サイズの建物なのだから。
───と、この書き方だと鋭い方は5層は人間サイズではないことを察する方もいるだろう。
実際、それは正しく5層は1層と同じようにかなり高さのある階層となっている。それは、『古龍の王』が戦闘をするために用意した空間で、ここで戦闘を行うことも可能であるし、実際にこの第5層の一室では現在、『魔帝』園田茉裕と勇者一行が対峙している。
地下層も用意されてはいるが、そこにあるのは大罪人を捕らえるための牢屋でしかないし、しかも栄はそこにはいない。足を運ぶ必要はないので、仔細を語る必要はない。
そんな、城内都市パットゥのあちこちで王国戦争の火種が生まれていく。
『剣聖』や『魔帝』などのこの国のツートップの争いは後回しにして、先に別の戦局を見届けよう。
──例えば、サイコパス同士の殺し合いなどを。
***
──他方、こちらは城内都市パットゥの内部に〈離散〉した1人の白髪。
外で降っている雪のように白い髪と白い肌を持つ彼女は、現在囚われの主人公である池本栄の師匠的立ち位置を確立した存在──『無事故無違反サイコパス』細田歌穂であった。
「どこよ、ここ……」
自称サイコパスである彼女は、色々なことが相俟ってこのデスゲームで一度も人を殺したことがなかった。
マスコット先生や園田茉裕などといった悪人と、これまで幾度も拳を交えたことがあるのにも関わらず、殺害に成功したことは皆無であることから『無事故無違反サイコパス』と呼ばれている。
大罪人度で言うと、栄は鈴華を直接的に殺害しているから歌穂と比べても栄の方に軍配が上がる。
「──とりあえず、『剣聖』は上に向かえって言ってたわね」
城内都市パットゥの内部、黒を基調とした荘厳で妖艶な雰囲気を醸し出すその廊下のような空間を歩く。
壁や天井の黒とは変わって、鮮やかな紅色のカーペットが敷かれているその廊下を道標に城の中を彷徨う歌穂。
目指しているのは上階へと向かう階段だが、いくら歩いてみても見つかる気配はない。
「床も壁も全部似たような感じで、迷子になりそうだわ──ってか、絶賛迷子中なんだけど」
そう口にして、斧を担ぎながらその白髪は迷宮の中を闊歩する。すると──
「パースパスパス、見覚えのある白髪じゃないパスか」
「──その気持ち悪い語尾は」
「カホさんパスね」
「パーノルド・ステューシー!」
2人が、お互いの名前を呼ぶ。
歌穂の目の前に現れたのは、目の周囲を緑色に塗っている黒髪の痩せ細った男性。
彼は、歌穂を見つけると頬舐めずりをして口角を上げた。
「どうして、アンタがここにいるの!」
歌穂は、目の前にパーノルドがいる理由を問う。
───歌穂とパーノルドの2人は、『神速』の家に寝泊まりした時に一度会っていた。
その時に、2人は「サイコパスのキャラ被り」という議題で激戦を繰り広げ、それと同時に蓮也のサイコパス診断の内容と答えを覚えているという下手したら一番のサイコパスかもしれないことが判明し、2人は蓮也の出すサイコパス診断で勝負をし、結果だけを述べると引き分けに終わったという因縁がある。
「どうして私がここにいるのか──パスか。実に簡単な答えパス」
「──また会えるから?」
サイコパス診断の代名詞のような答えを提案するパーノルドだが、小さく首を振る。
「勇者一行を殺すため──パス」
笑みを絶やさない彼は、そう口にして懐からナイフを取り出す。
「そっちがその気なら、アタシだって相手をしてあげるわ」
そう口にして、歌穂は背負っていた斧を持ち上げてパーノルドの方へと向ける。そして──
「〈震撼核〉!」
歌穂は、自分の足元に〈震撼核〉を放ち、その振動でパーノルドの足止めを画策する。
その衝撃で床が抜けないか心配だったが、その心配は杞憂で、損傷はすれど貫通はしないような状態で、衝撃が地面を伝わり、パーノルドの身動きを奪う──
「──残念パス」
「──ッ!」
その言葉と同時に、歌穂の方に迫ってくるのは2本のナイフ。
地面が揺れ動き、身軽なパーノルドでも行動が難しい状況下だが、即座にナイフを投擲して歌穂の方へ攻撃を行ったのだ。
歌穂は、すぐにその場に屈んだことで辛うじてナイフの回避に成功するけれども、パーノルドのナイフの第二陣は今にも飛んできそうだった。
「──遠距離攻撃か、相性悪いわね……」
──こうして、『無事故無違反サイコパス』細田歌穂vs『失敗作』パーノルド・ステューシーによる、サイコパス決定戦が開幕した。