4月7日 その⑥
死。死。死。
目の前で、突如として小寺真由美が血を吐いて倒れ込んだ。確認してみれば、脈はなかった。
「───な...」
わからない。わからない、わからない。何故?何故?何故?謎が生まれる。
「───死んだのか?」
森愛香が眉を顰める。小寺真由美を追っていたのは彼女であった。
死んだ場所は、A棟とB棟を繋ぐ、上空から見れば正方形の形となっているこの連絡通路。その最上階───4階で小寺真由美は死亡した。
「───嘘、どういうこと?」
この現状を理解できていないのは、俺以外にも紬。紬がいた。
「なんで急に───!」
紬が、何かに気付いたような顔をする。
「禁止行為?」
「そのようだな。何かしらの禁止行為に引っかかったのだろう?」
「お前...死んでるんだぞ?なんで、そんな平然としていられるんだよ!」
「───デスゲームにおいて人が死ぬのが何かおかしいか?」
「───ッ!」
森愛香は、何も悪びれた様子もない。実際、彼女が小寺真由美を刺殺した───と言ったわけでもない。小寺真由美は、森愛香に追われて何らかの禁止行為を犯してしまい死んでしまったのだ。
「何にも利用されない空間で人が死んだ。文字通りデッドスペースとなったのだな!」
間接的には森愛香が殺したと言ってもいいのだろうが、直接殺したわけではないので罪には問われない。
それに、禁止行為などわからないから尚更だ。急に死んだのだ。
森愛香だって、殺そうと思って殺したわけではないのだ。
「でも───」
───罪悪感を全く持たないというものとは全く別の話だ。
「死んだんだ!少しは罪悪感を持てよ!」
「こんな下賤な付子、死んだところで誰一人として悲しまん」
「───ッ!」
この怒り。人として終わっている森愛香に怒りが生まれる。
「お前...謝れ!」
「はぁ?」
「死んだ小寺真由美さんに謝れ!」
「ちょ、ちょっと栄!」
俺が怒鳴ると、紬がなだめようとしてくる。俺は、それを振り払った。
「謝らないのなら、殴る!」
「───ほう、面白い。貴様を助ける偽善者はいないぞ?」
「お前!」
人を殴る事を良しとしない俺が、2度拳を振るうことを決意した。
───昨日行われた殴り合いも友達を救うためだったし、今回は小寺真由美の名誉を守るためであった。
結局のところ、俺は誰かのために拳を振るっていたのだ。そこに、自分可愛さはない。
「くらえ───」
俺の拳が、森愛香の天突───鎖骨と鎖骨の間よりちょっと上らへんを向かって進む。が───
「貴様、妾に触れていいとでも思っているのか?」
「───ッ!」
”ドガンッ”
俺の鳩尾に森愛香のつま先が激突する。
「───かは」
俺は、その場に転げる。
「栄!」
「ふん、口ほどにもない」
俺が、想像以上の痛みに藻掻いているとそこに数人の全身を防護服で包んだ人物がやってくる。
「死体処理班か!回収してくれ!そこの2つを!」
森愛香は、小寺真由美と俺のことを指差す。死体処理班は何も返事をせず、小寺真由美の死体だけを回収していった。俺は放置だった。
「無能が。木偶坊は死体と一緒だろう。燃やして燃料にしたほうが、余程得だ!」
森愛香はそんな事を言っている。そして、どこかに歩いていってしまった。
「栄!大丈夫?」
紬は心配そうな声を出す。そして、森愛香が行った方を睨んでいる。
「栄は正しいのに、どうして?殺したのは森愛香ちゃんじゃない!」
紬はそんな事を言って怒っている。俺の代わりに怒ってくれるのは嬉しかった。
「紬...やり返すなんて考えるなよ?」
「───」
俺の言葉に、紬はなにか言いたげな顔をする。
「俺は、傷つく皆が見たくないから立ち向かうんだ...俺のために傷ついちゃ...本末転倒だろう?」
「───でも」
「皆に小寺真由美の死を伝えることが最優先だ。頼めるか?」
紬は静かにうなずく。そして、森愛香とは逆方向───A棟の方に走っていった。きっと、紬が向かっていったのは皆のいる教室だろう。
「どうして...死んじまったんだよ...」
俺の目の前には、小寺真由美が吐いた血痕が残っている。これも、掃除されるのだろうか。
「───俺も...行動しないと...」
俺は、蹴られた腹を擦る。腹を見ると、シックスパックの1つから擦り傷として血が流れていた。
「傷ついたか...しょうがない...」
俺も、紬を追うように教室に移動する。
───俺は忘れていた。この学校で俺の印象が変わるのはいつだって『3ーΑ』の教室であった事を。
***
「ついに2人目の犠牲者が出ましたか...」
「そうみたいね。生徒の皆には説明しなくていいの?」
生徒会室。先程までは、紬だけしかいなかったこの空間にいるのはマスコット先生と松阪真凛であった。
「そうだ、私にくらい小寺真由美さんの禁止行為を教えてくれてもいいんじゃない?」
「別に、もう既に死んでしまった人の禁止行為なんて隠したりはしませんよ」
マスコット先生はそう呟く。
「小寺真由美さんの禁止行為。それは───」
「おい、マスコット。貴様、ここで何をしている?」
部屋に入ってきたのは、森愛香。森愛香の双眸に映るのは、マスコット先生ただ一人であった。





