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ウェヌス・クラバス・ホーキンス その①

 

『水晶』と『総主教』の話をする前に。

 少し、話が一歩後ろに戻ってしまうけれども、ここで一つ違った視点が描かれる。


 ゲームであれば描かれないシーンであるが、その理由としては『魔帝』が殺されず、『魔帝』とその弟子が王国戦争に参加して、プレイヤーの操作する勇者たちに襲い掛かってくるためであるが、茉裕が『魔帝』になったことにより、そのシーンが急遽追加されることになったのだ。


 茉裕は、『魔帝』とその弟子達を殺戮したことで、勇者一行の敵として立ちはだかる人物を減らしたと言ってもいい。


 ───いや、茉裕のことだから『魔帝』の弟子よりも悪辣で厄介な相手を用意する手立てはできているのだろう。


 と、そんなことはおいておいて。

『魔帝』という称号は本来弟子にしか継ぐことが出来ないという理由から、茉裕が実質的に第12代目『魔帝』の12人目の弟子となり、そのまま第13代『魔帝』になった報告を聴いたのは、茉裕の実質的な姉弟子になるであろう存在。

 破門になり、現在は別のところで行動していた一人の少女───第12代目『魔帝』の9番弟子の『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデンは、その殺戮を聴いて悲しみ交じりの罵倒を口にした。


「本当にくだらない。私でさえ麒麟討伐に加わって結果的に討伐できたってのに。無名の少女なんかに負けるとか本当に恥ずかしい。それで本当に私の師匠だったの?信じられない。破門されて世界だったわ」


 悪口を重ねに重ねているその姿は、アレン率いる『親の七陰り(ワーストヒストリー)』に属する魔導士であるアイアン・メイデンにおいて大変珍しいものだった。


「メイ。随分と、苛立ってるね」

 アレンが、仲間の心配をもとにそう声をかける。

 彼は、欲しいもの───要するに、智恵が関わってくると暴走するけれども、そうじゃなければ至って普通なのだ。


 アイアン・メイデン───チーム内の愛称で呼ぶとメイは、本来であれば一言で暴言を終わらせるタイプだ。

 そんな彼女が、こうして言葉を連ねて貧弱な悪口を口にしているということは、冷静さを保てていない証拠。


「───当たり前じゃない。師匠が、兄弟子達が殺されたのよッ!私よりも才能がある奴らが、それ以上に才能がある奴らに殺されたのッ!憎い憎い憎い!」

 メイは、茉裕を憎む。彼女が、『魔帝』の弟子として破門になったのは、彼女が大虐殺を引き起こした大罪人だからだ。彼女のその行動原理は、凡人に囲まれた『親の七陰り(ワーストヒストリー)』では抑えられているが、王国戦争で発揮される可能性は十分にある。


 ───今、彼ら彼女らは『古龍の王』がいて、王国戦争の舞台となるパットゥへと、『神速』と一緒に向かっているのだ。


 そこでは、茉裕がメイの見方として、共に勇者にたちむかうことになるだろう。

 もし、茉裕とメイが顔を合わせていたら、王国戦争はまた変わった結果になっていたかもしれない。


 ───が、茉裕とメイは王国戦争が突入し、それらが終了しても顔を合わせることはない。


 同じ殺人鬼として、忌み嫌い合うこともないのである。

 メイの心に宿された恨みは、解消されぬまま物語は進み終わっていくのであった───。


 ***


 ───さて、話を『水晶』と『総主教』の元へ戻そう。


『水晶』は『総主教』を殺害した。

 それは、プログラムされた大きな事実に変わりない。


 ───が、どんなプログラムにだって動機や理由付けはあるのだ。

 それこそ、『水晶』と『総主教』の2人の運命は、2人が生まれたその時と同時に、始まっていたりして。



「───さて、今日はどんなお客が来るかしら」

 現在、レベル86である『水晶』は殺害されるその日だって、いつものように占い業を営んでいたのである。


 彼女が見ることができるのは、数多くある未来への道筋だ。

 それを変えたければ、別の未来へ行くために必要な分岐の方法を教えるし、その未来を確実に手に入れたければ、その未来への道をより強固にする方法をアドバイスする。

 彼女は、それでこれまでお金を稼いできていた。


 ───が、彼女の占い方法については、多くの疑問が隠されていた。


 その占い方法は、タロットでも手相でもない。

 彼女の唯一の仕事道具であり、二つ名である水晶だけ。

 だが、その水晶だって至って普通の水晶であり、他の人が覗き込もうとも何も見えないし、『水晶』自身が手を当てようとも、何かを念じようとも、うんともすんとも言いはしない。


 だが、彼女の口にする占いは100%の必中だ。

 それならば、きっと水晶以外───いわば、『水晶』自身に占いを100%にする理由が含まれているとしか言いようがないだろう。


 ───と、そんなこんなを話している間に、『水晶』の仕事場のベルが鳴る。


「お入りください」

『水晶』───今もまだ、本名が明かされていない『水晶』がそう声をかけると同時に、その小さな扉が開く。

 そこに立っていたのは───


「───ウェヌス」

 白い祭服に身を包んだ、誰が見ても権力者であることがわかる姿をした女性───『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンスの姿がそこにはあった。


『水晶』が『総主教』の登場に驚きが隠せないでいるのは、彼女が権力者だからだろうか。


 ───否、それは不正解だ。


 答え合わせと言わんばかりに、『総主教』は口を開く。彼女が告げるのは、残酷な真実。


「今日はお話があってここに参りました『水晶』さん。 ───いや、昔のようにこう呼んだ方がいいですかね。アポロ・クラバス・ホーキンス。私の、この世でたった1人の、お姉ちゃん」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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