災害金魚の死んだ日に その⑤
「───と。そんなこんなでソノダマヒロって人が、次なる『魔帝』になって、そのまま『死に損ないの7人』に続投になった」
「それってつまり...」
「そう。ソノダマヒロのレベルは90。現状、ドラコル王国内で『剣聖』である僕と正体不明の『羅刹女』に次いで3番目の高ランクになったってことさ。いや、『羅刹女』もレベル90だったはずだから2位タイかな」
健吾達20名の目の前にいる『剣聖』は、レベル99のドラコル王国内でも、それ以外の国を含めてもトップに立つキャラであるが、茉裕はその次まで追い付いていたのだ。
その怒涛の追い上げに驚きが隠せないが、『剣聖』の話によれば、魔女の弟子を多く倒したらしい。
それならば、納得がいくだろう。
「───それで。重大な事件は3つ起こったって言ったわよね。私達が鯀を討伐して、茉裕が『魔帝』を殺してその称号を奪い取った。3つ目は何なの?」
本日起こった三大事件の最後の1つを知ろうと、美緒が手を挙げて質問を投げかける。
「そうだね。あまりソノダマヒロの話に固執しすぎない方がいい。それこそ、3つ目はここにいる半分の人には関りがあったであろうニュースだからね」
「え...」
その話を聞いて、表情が変わるのは康太達南西進出組だ。
きっと、頭に浮かぶのは1人の男───『無敗列伝』だろう。
運が悪い───いや、「運が無い」と表現するのが相応しい彼の身に何があったのか。
いや、きっと彼のことだからそんな不運を押しのけて目的である『顕現する神の食指』こと、第62代『総主教』であるウェヌス・クラバス・ホーキンスの殺害に成功して、大犯罪者として名を連ねたのだろう。
───と、明かされる3つ目の内容を予想したが、その予想は外れる。
「───3つ目。それは、第62代『総主教』が、『死に損ないの7人』だった『水晶』を殺害して、『死に損ないの7人』は『死に損ないの6人』に数を減らしたんだ」
「───は?」
『総主教』による、『水晶』の殺害。
『総主教』は、康太達が面識のある人物だったし、愛香のことをしつこく仲間になるよう勧誘したのを覚えている。
そこで、神を侮辱したことにより『総主教』ウェヌスの怒りを買ったため、大聖堂から逃亡。
その道中で、『無敗列伝』と出会ってなんとか命辛辛逃亡し、そこで一度関係を断ったのを覚えている。
そして、『水晶』というのは『無敗列伝』が説明してくれた占い師だ。
『無敗列伝』は『水晶』に占ってもらい、「大きな戦いの前に『顕現する神の食指』を殺さないと死ぬ」と言う結果が出たのは散々聞かされた。
「どうして...『総主教』が『水晶』を殺したんですか!?」
『総主教』が『水晶』を殺した───と、報道されているということは、それは暗殺ではなく直接手を下したことになるだろう。
宗教のトップである『総主教』であれば、暗殺する方法だなんていくらでもあるはずなのに、どうして直接出向いたのか。
「それに関しては僕もわからない...でも、殺したのは確かだ」
世間を揺るがす大きなニュースであるが、まさか『総主教』が殺人犯になるとは思っていなかったから、驚きが隠せない勇者一行。
───その報告を経て、鯀を討伐した後の勇者たちのその日の大きな動きは終わり、個々の時間を過ごしたのだった。
***
「やっと着いた...」
2日間の船旅を終えて、『無敗列伝』アルグレイブ・トゥーロードは、宗教都市ムーヌへと到着した。
1日目は、商業都市アールから絶崖アイントゥへの移動と船の調達で時間を使い、2日で海を渡って自宅もある宗教都市ムーヌに帰還した『無敗列伝』の旅路は、珍しく順調だった。
不運が付きまとう彼の人生において、こんなに上手くいったのは3年ぶりくらいではあるが、それは嵐の前の静けさと呼ぶに相応しいものだった。
彼は、『総主教』であると同時に『顕現する神の食指』という二つ名を持つウェヌス・クラバス・ホーキンスのいるムーヌ大聖堂へと向かい、面会する算段だったが───。
「───すみません。本日、『総主教』様は席を外しております」
「───は?」
面会を試みるけれども、どこかに移動しているとだけ言われて追い返されてしまった『無敗列伝』。
先日出禁を食らったけれども、驩兜を討伐したことでその功績が認められて解除されたし、『無敗列伝』ほどの実力者が面会を求めれば、休みの日でも『総主教』が赴くのが礼儀と言うやつだ。
それだと言うのに、いない───そう口にされたのだ。
「クソ、上手く噛みあわねぇな...」
そう口にして、『無敗列伝』がムーヌ大聖堂の外に出た時。
「号外ー!号外ー!」
馬車に乗った青年が、そんなことを叫びながら四方八方にばら撒いている紙切れ。
ドラコル新聞の号外を広い、その記事を見て、『無敗列伝』は思わず目を見開いた。そこに書かれていたのは───
「───現『総主教』、『水晶』を殺害だと!?」
そのデカデカと書かれた速報を眺めた『無敗列伝』は、そのニュースで全てを把握して、
「クソ、最ッ高についてねぇ...」
彼らしい言葉で感想を口にして、手に取った新聞をクシャクシャにして地面に捨てたのだった。