災害金魚の死んだ日に その④
吹雪が吹き荒れ、数秒をボーっと立っているだけで体に雪が積もるように荒れた天候であるドラコル王国の最高峰、無限山の頂にて茉裕が勝負を挑むのは、『死に損ないの7人』の1人に数え上げられる王国屈指の実力者───『魔帝』とその10人の弟子であった。
茉裕は、目の前にいる11人に圧勝したと思ったが、それら全てが『魔帝』の見せていた幻覚で、全員生きているようだった。
幻覚は生死だけだと思っていたから、まさか自分が襲撃した建物さえも幻覚だとは思わなかった。
一体、自分はいつから幻覚の中に囚われていたのか。今見えているこの風景さえも幻覚ではないのかと様々な疑問が頭に浮かぶけれども、それらの答えを知る由はない。
「───幻覚だろうと現実だろうと、確実に奪り取る」
積もりに積もった雪の上を歩き、茉裕は雪の影響を受けていない11人の傑物との戦闘を開始する。
「〈映写機に映る反転世界〉」
「───ッ!」
11人の有象無象の中の誰かが魔法を使用し、茉裕の動きを一瞬止める。
それは、行動し始めた茉裕の出鼻を挫き、味方の攻撃の起点となるのには最適なもので。
「───〈貫穿する暴風斬〉!」
「───〈紅焔神の涙〉!」
「───〈森羅万象を破壊する重力〉!」
一瞬、その足を止めた茉裕に襲い掛かるのは3つの魔法。
1つ1つが茉裕の生命を根こそぎ奪り取ろうとする危険なものであり、茉裕はそれらの回避をせざるを得ない。
「───っと。随分と本気じゃない」
「当ったり前だろ!さっきの幻覚の中でお前は俺達のことをぶっ殺した!容赦はしねぇ!」
「ヨルアさん、うるさい」
「あぁ!?兄弟子に向かってなんだその態度ォ!」
「ケンカしないでください、〈雪ぐ禊の白い搦め手〉!」
「───ッ!」
2人のケンカを仲裁しながらも、茉裕に攻撃を仕掛けてくる。
立っている雪が、植物の蔓のように動き、茉裕のことを拘束しようと試みる。
茉裕は、それを避けるために鎌を振るい雪を斬り飛ばすけれども、相手は無生物だし、周囲には無限にある。
立っている地面そのものが相手となると、非常に太刀が悪い。
「───最初に殺すなら、この魔法を使ってるアイツ...」
茉裕の目に攻撃の対象として含まれるのは、『魔帝』の10番弟子の『鳴動する神の意志』タルカス・クローバー。
「やってやるわ」
既に、『魔帝』に心酔している彼らを自分に好意を持たせて操り人形にするのは不可能だろう。
わかっているから、その手段は実行しない。
確実に、的確に命を奪う。行うべきはそれだけだ。
茉裕は、自分を捕らえようと迫り来る雪を薙ぎ、11人の方へと動き出す。
全員、一列に並び魔法杖を握り動かないままで、その接近を許す───
───わけがない。
「〈絶対神の憤慨〉」
「〈大胆不敵な雷神の罠〉」
幾重もの閃光と轟音が鳴り響いたその時、茉裕の足元に産まれるのは灼熱地獄を彷彿とさせるマグマのような炎の溜まり場。不定形なはずの炎が、明確に形を持ち、そこに落ちただけで人間の肉体は一瞬で焼失することが理解でき、茉裕は咄嗟に後方に飛び、その穴に落ちることを回避する。
「───ッチ、落ちなかったか」
茉裕を地獄に堕とすことには失敗したが、接近は阻むことができた。
幻覚とは言え、自分達を殺した相手だ。接近を阻んだとは言って、まだ油断することはできない。
茉裕は、地獄の広がる大穴を迂回して、11人の方へ接近してくるのだ。
「ちょこまかと逃げやがって。面倒な奴だ」
「大丈夫。俺に任せて」
そう口にして、魔法杖を握るのは、『魔帝』の一番弟子の『彗星』ペイシス・ペテルギウス。
「───〈流星群〉」
その刹那、雪を降らせている雲を穿つようにして、落下してくるのは何個かの巨大な隕石。
「───嘘」
回避不能の〈流星群〉も信じられないが、隕石を降らせるような強力な魔法を放って尚、魔力切れを起こさずして立っている一番弟子も信じられない。
流石の茉裕も、天体を前にしては無力だ。このまま、死亡する───そう思われたが。
「仕方ない、来てッ!」
隕石が、茉裕を押しつぶさんとする刹那、茉裕を助け出したのは、1匹の怪鳥。
燃え滾るその翼を動かし、鋭い嘴より上がナイトキャップで隠れているその巨大な鳥が、茉裕を救い出した。
それを見て、11人は一斉に驚きの声を上げる。
「───どうして、龍種の鳳凰が助けに!」
どんな魔法を使用しても飼いならすことのできない怪物を飼いならしている茉裕に対して、驚きが隠せない11人。
そのまま、鳳凰は茉裕を『魔帝』達の方へと運ぶ。
〈雪ぐ禊の白い搦め手〉で操られた雪が鳳凰を追うけれども、そのスピードには追い付けていないし、壁を作っても、翼の熱で溶かされてしまって意味がない。
「───クソッ!避けるしか!」
そう口にして、初めて横一列に並んだ状態から離散する11人。だったが───
「残念、逃げられると思わないで」
一瞬。
茉裕が鳳凰の嘴から解放されて、そのまま鎌を振るう。
それだけで、数個の首が吹き飛び、純白の雪を赤黒く染める。
「本当は鳳凰はパットゥに行くために仲間にしたんだけど、仕方ないわね。こんなところで死んでも馬鹿馬鹿しいから、使えるものは使っていくわよ」
───茉裕のそんな言葉で、鳳凰が茉裕の仲間入りを果たす。
龍種である鳳凰の相手に手間取り、茉裕の対策をできなかったため、『魔帝』とその弟子たちは全員、茉裕の手によって葬られたのだった。
そして、第13代『魔帝』の称号が、『魔帝』を倒した茉裕に継承されることとなる。
第12代『魔帝』グエス・シャガール レベル85
↓
↓継承
↓
第13代『魔帝』園田茉裕 レベル90
どうせ茉裕が勝つことはわかってるし、絶妙に強い弟子達なので合計7話とかかかりそうだったので、最後の方は雑に殺しちゃいました(笑)
鳳凰は、心酔させたのではなく既に茉裕の操り人形になっている『古龍の王』鼬ヶ丘百鬼夜行による命令で動かさせた感じです。