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災害金魚の死んだ日に その③

 

「───私をか弱い女性と勘違いしたこと。それがアナタの、唯一の失態です」


 その言葉と同時に、茉裕の握る鎌が動き、第12代『魔帝』の7番弟子である『落雷の鉄槌』カール・トーマスの首は、宙へ弾け飛ぶ。


 魔法使いに魔法を放たせず、雪を朱く染めることだけを許した茉裕は、名も知らぬその優男の死体の方を見向きもせず、灯りのついている体育館のような修行場を目指す。


「外に人がいなかったのが幸いね。同情不要の道場破りのように振舞えばいいんだもの」

 そんなことを口にながら、茉裕は鎌を握って、その建物に正面突破する。


「頼もう」

 魔法杖の代わりに、細い鎌を握った茉裕は、悪役に相応しい妖艶な笑みを浮かべながら、その建物の中に入っていく。


 中にいたのは、合計で10人の老若男女。

 老いも若きも男も女も関係なしに、その部屋に存在していた。


「カール───じゃないな」

「私達の修行場に何者よ!」

「『魔帝』というのは、どなた?」


「師匠になんの用だ。仕事の依頼なら、オレが伝言しておくが?」

「いえ。仕事の依頼じゃございません。ただ、『魔帝』の二つ名が欲しいな、と」

「小娘。それは、俺達と師匠の師弟関係を馬鹿にしてるってことでいいか?あぁ!?」


 そう口にして、魔法杖を持ちながら怒鳴り声をあげて茉裕の方へと近づく橙色の髪を持つ男───4番弟子の『(デストロイ)』ヨルア・ガリレオであった。


「よせ。弟子入りの客人だぞ」

「うっせぇ!弟子入りするってんなら俺を倒してみろやぁ!」


 そんな言葉と同時に、茉裕に向けられる魔法杖。そして放たれるのはSランクの超強力魔法。


「〈崩壊する獄(ジ・エン)───」

「弟子入りじゃない、道場破り」


 慈悲の欠片もない茉裕の鎌が、ヨルアの首に吸い込まれるように一閃を放ち、胴体と首が2つに分かれる。

 それを見ていた9人全員と、当事者であるヨルアも驚きが隠せず、何がされたかもわからないうちに茉裕によって殺される。


「───ヨルアさん!」

 死んだヨルアの名を呼ぶ妹弟子のような人物。


「気を付けろ、皆!コイツは危険だ!」

『魔帝』の弟子たちがざわめく中で、茉裕は部屋にいる9人の生きた人を見極めて、すぐに部屋の一番奥にご老人が『魔帝』であることに気が付く。


「『魔帝』って、アナタのことですか?」

「やめろ、師匠に近付くな!」


『魔帝』の方へと歩いていく茉裕を見て、それを止めようとした10番弟子の『鳴動する(プロヴィデンス・)神の意志(グラディエーター)』タルカス・クローバーが斬り伏せられ、進路に立っていた2番弟子の『青焔』アンヘラ・グレイトスが何もできずに薙ぎ殺される。


「師匠、逃げてください!奴は危険です!私達で止めるので───」

 そう口にして、弟子が殺されるのを見ているだけの師匠『魔帝』グエス・シャガールに逃げるように説得する8番弟子の『真実の口』マリアス・ベリーの頭蓋を鎌で取り出す。


「───『魔帝』の称号ください」

 そう口にして、『魔帝』の弟子に囲まれながらも『魔帝』の目の前に到着した茉裕は『魔帝』を脅す。


「───今じゃ」

 たった一言。『魔帝』が口を開くと、残っている5人の弟子が同時に魔法を放つ。


 茉裕が立っている足元に鋭利な氷が飛び出て、逃げ延びようと飛んだ後方に逃げられない風の牢を作り、それを覆うがごとく巨大な炎が茉裕の体を飲み込まんとし、仲間が殺された怒りを魔力にぶつけて、茉裕を同じようにその首を刈り取ろうとしたダイヤモンドより硬い氷が襲い、その体の一欠片だって残さないように透明な質量で押しつぶそうとする。が───


「すごーい。死んでしまうかと思った」

「───んなッ!」

「なにを───」

「ぐわぁ!」

「くっ!」

「きゃあああ!」


 体を八つ裂きにされて一瞬で命を落とすのは、生き残っていた5人の『魔帝』の弟子。


 1番弟子の『彗星』ペイシス・ペテルギウスだけでなく、3番弟子の『簒奪する高潔な魂』クルセイド・ブルゴーニュや5番弟子『天性の(ナチュラルニ)才覚(ュートラル)』カイバー・フィリップ、6番弟子の『狂行突破』ヴァスロ・バルバロイに11番弟子の『十字架背負い(ハングドマン)』ティア・グーテンベラまでもが死亡していたのだ。


「───さて、これで弟子は全員殺しましたけど、私に『魔帝』の二つ名を譲る気になってはくれました?」

「───」


 弟子を全員殺して尚、『魔帝』は座したまま何も口にしない。


「返事してくれないと。死にたくないとか、譲るから殺さないでとか。言ってもらえないと困るじゃないですか」

 茉裕の言葉に一切の反応を見せない『魔帝』。


 こうして、死体の山が積み上げられた修行場に沈黙が生まれると、それを破るように『魔帝』が口を開き───


「おお、すまん。そこらの魔獣だと思ったら人間じゃったか。話が通じない劣等生物かと思っておったわ」

「っち」


 その言葉と同時、茉裕は『魔帝』の首をバッサリと鎌で簡単に切り落とす。

『魔帝』の首が空を飛ぶと同時───




 ───世界が割れた。


「───ッ!」

「〈常識外れの(イッツアスモ)小さな世界(ールワールド)〉。お前さんのこれまでの行動は全て幻覚じゃよ」


 茉裕の足元には雪があり、顔面には降り注いでいた雪が少し積もっていた。

 それを、左手で拭った後に、茉裕は目の前に先程自分が殺したはずの11人の老若男女の姿を見る。


 その後ろには、小さなみすぼらしい小屋だけが立っており、先程の体育館のような修行場さえも幻覚であることを茉裕は悟った。


「───先程のは全て師匠の作り出した幻覚。私達があれほど弱いわけがないじゃないですか」

 そう口にするのは、茉裕が最初に殺した7番弟子の『落雷の鉄槌』カール・トーマスであった。


「───どうやら一筋縄じゃ行かないようね。いいわ、全員殺してあげる」

 茉裕は、そう口にして鎌を握る。


 ───『魔帝』一派と茉裕の戦いが今、開始する。

グエス・シャガール 第12代『魔帝』

ペイシス・ペテルギウス 1番弟子 『彗星』 男

アンヘラ・グレイトス 2番弟子 『青焔』 男

クルセイド・ブルゴーニュ 3番弟子 『簒奪する高潔な魂』 女

ヨルア・ガリレオ 4番弟子 『(デストロイ)』 男

カイバー・フィリップ 5番弟子 『天性の(ナチュラルニ)才覚(ュートラル)』 男

ヴァスロ・バルバロイ 6番弟子 『狂行突破』 男

カール・トーマス 7番弟子 『落雷の鉄槌』 男

マリアス・ベリー 8番弟子 『真実の口』 女

タルカス・クローバー 10番弟子 『鳴動する(プロヴィデンス・)神の意志(グラディエーター)』 男

ティア・グーテンベラ 11番弟子 『十字架背負い(ハングドマン)』 女

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
流石、茉裕。 と思いきや幻影でしたか。 この世界でも彼女の魅了は有効なんでしょうか? にしてもこれだけの数の相手は、 通常なら苦戦しそうだが、魅了ありきなら話が変わりますな。
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