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災害金魚の死んだ日に その②

 

 ───園田茉裕。


 それは、主人公でありクラス会長である、現在ドラコル王国の最北にして極寒の地・パットゥにて『古龍の王』に捕らえられている池本栄の父親である池本朗が主催する通算5回目のデスゲームの参加者にして、その中でもデスゲーム運営の協力者として立ち振る舞う代わりに禁止行為の無効化が確約されている生徒会メンバーの紅一点の名前であった。


 生徒会メンバーである彼女も、その大本である池本朗も、行っている悪行は両手両足を使っても数えきれず、かつその全てが人間の所業とは思えない、忘れられないようなものなのだが、中には忘れてしまっている人もいるだろう。

 茉裕という悪女の存在を振り返りながら、彼女という敵の存在を思い出して頂こうと思う。


 茉裕が生徒会と判明したのは、5月28日。

 それが判明した理由は、杉田雷人と三橋明里の2人が失踪及び殺害されたからだ。

 2人の生徒を犠牲に判明した茉裕の生徒会疑惑は、同じく失踪していた沙紀が俺に襲い掛かってきたことで真実に変化する。


 茉裕は、生まれつき持っているある特異な権能があった。

 それは、自分に好意を持った人を心の底から心酔させて、なんでも命令を聴く操り人形にしてしまうことができるのだ。


 それにより、茉裕は先述した沙紀の他に、山本慶太や安土鈴華を操り人形としていた。

 山本慶太は、正体に気付いていた愛香に奇襲を行うも返り討ちに合い、綿野沙紀と安土鈴華の2人は第6ゲーム『件の爆弾』にて、オニとして立ちはだかったが、敗北してしまった。


 そして、今回の第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』においても彼女という存在が大きく関わっている。

 そう、第8ゲームのラスボスとして君臨している『古龍の王』の正体は、第2回デスゲーム生徒会メンバーであり、茉裕の操り人形である鼬ヶ丘(いたちがおか)百鬼夜行(ひゃっきやこう)だ。

『古龍の王』の正体が鼬ヶ丘(いたちがおか)百鬼夜行(ひゃっきやこう)であることは、もう既に第8ゲームが開始する前から判明していたことだが、過去の───それも、第2回デスゲームの生徒会メンバーが敵として正式に君臨するのは今回が初めてであったので、波紋を広げたのは印象に新しい。


 そんな第2回デスゲーム生徒会メンバーである鼬ヶ丘(いたちがおか)百鬼夜行(ひゃっきやこう)が、敵として名乗りを上げたのも全て茉裕に心酔しきって操られているからである。

 これらのことからもわかるように、茉裕の協力者が勇者の敵と存在しておるのに、どこに茉裕が勇者に協力する理由があるだろうか。

 茉裕が敵として現れるのは、火を見るよりも明らかなのだ。


 ───健吾達は、ここで茉裕を殺害し、生徒会メンバーを1人減らすことを目的としている。


 ここで、茉裕を殺せば次のデスゲームからはデスゲーム運営に協力する裏切者が1人減った状態で始まるのだ。もう既に、手先は破壊していた。

 もう、茉裕も操り人形とできるような人物はいないのである。第8ゲームで潰すのが吉だろう。


 ───勇者の敵として王国戦争に参加することが決定した茉裕には、それ相応の称号が必要だ。


 ドラコル王国の神話に名を残す悪女となるには、それなりの強さの証明が必要だ。


 ───だからこそ、茉裕は動いたのだ。


 その称号を手に入れるために、『死に損ないの7人』の1人である『魔帝』を殺すために───。


 ***


 勇者一行が鯀を討伐したのと同日。

 四季を問わずして吹雪が吹き荒れるエットゥ大山脈の最高峰・無限山の山頂には1人の客人がいた。


 気温は氷点下を下回っており、並みの冒険者でも気を抜けば一瞬で死亡する危険性がある大山脈の頂に、その1人の客人───園田茉裕は何の用があるのか。


 目的は、1つの家であった。


 そこには、第12代『魔帝』と、その10人の弟子が住み込みで修業しているとされており、その噂を聞きつけて茉裕は尋ねたのだった。


「───見つけた」

 茉裕は、大山脈の山頂には似合わない、体育館のような建物とと小屋を発見し、不敵な笑みを浮かべる。

 その建物群は、氷の塀で囲まれており、中には人工の灯りが見えた。


 その建物が、全て魔法で作られた『魔帝』の修行場であることを理解するのは容易であった。

 茉裕は、無限山に挑んだけれども、仲間とはぐれてボロボロになってしまった一介の冒険者を演じる。

 彼女は、勇者として名が知れていないからその作戦も通用するのだ。


 茉裕が建物に近付くと、その存在に気付いていたと言わんばかりに、1人の若い───と言っても20代後半くらいの男性が姿を見せる。


「お嬢さん。こんな山奥までやってきてどうしたんですか?」

「すみません、冒険者のマヒロと言う名前なんですけど。仲間と一緒にこの無限山に挑んだんですけど、皆とはぐれちゃって...もう寒いし何も食べてないし死んでしまいそうなんです。少しばかり暖を取らせてくださいませんか?」

「───わかりました。では、中に入りください」


 そう口にして、その男性は扉を開く。茉裕はそれを見て、弱弱しい笑みを浮かべた。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 茉裕は、その横暴さに似合わず平身低頭する。そして、男性が「いえいえ、いるんですよ。雪山に挑んで死にそうになる人が大勢」などと口走っている間に───


「───私をか弱い女性と勘違いしたこと。それがアナタの、唯一の失態です」

 その言葉を最後に、男性の意識は茉裕の放つ鎌によって一瞬にして奪われる。


 第12代『魔帝』の7番弟子である『落雷の鉄槌』カール・トーマスの死亡を皮切りに、『魔帝』とその弟子の大虐殺が開始したのであった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
茉裕、悪女ムーブ全開ですな。 こうなると彼女をどのように殺すかが大事ですね。 引っ張りすぎると、ウザいけど、 簡単に殺すと消化不良気味になる。 その塩梅が非常に難しいですね。
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