災害金魚の死んだ日に その①
───『剣聖』と勇者一行による鯀の討伐。
本来であれば、今日と言う日のトップニュースとなり、一週間は世間を騒がせることが確定していた内容であったのだが、その日に限ってはそうではなかった。
森林の火災を全て消火し、商業都市アールを凱旋する『剣聖』と勇者一行であったが、何やら街は慌ただしい。
「霊亀を倒した時は、皆真っ直ぐにやってきたはずなのに何かあったのか?」
「僕が大して活躍できてないから、皆興味がないんだピョン」
「というかそもそも、もう余等は龍種をこの短期間で4体も倒している。住民にとっては龍種討伐なんか珍しいものじゃなくなったのだろう」
健吾の疑問に、蒼と皇斗はお互いの考察を口にする。
実際、勇者一行がこの3週間足らずであげた実績は、どれもが神話級のものだが、短い期間で上げてしまったから、NPCも驚き疲れたと言えるだろう。
何でもない日にケーキが出たとなれば驚くだろうが、それが3日も4日も続くと当たり前に思えてくるのだ。驚きも次第に小さくなる。
「それでも、龍種の1体である鯀はドラコル神話にも名を紡ぐ最強種だ。鯀に家族が殺された人も少なくはないはずだし、もっと囃し立てられてもいいはず」
皇斗の意見をそうやって否定するのは、『剣聖』。
───そう、鯀はドラコル王国に住む人なら誰だって知る「破壊」の象徴だ。
それに、龍種は何体倒されようと喜ばしいことで、それぞれにある一定の被害者がいるのだ。
神話の中でも悪鬼羅刹のように描かれている龍種の討伐に、ここまで人が無関心なのは他に何か問題があった───ということ。
「何があったのか情報を仕入れる必要がありそうだ」
そう口にして、『剣聖』は近くで話していた数人の男性NPCに話しかけに行く。
そして、情報を手に入れて勇者一行の方へ戻ってきた『剣聖』は非常に悲しい顔をしていた。
その暗い表情を保ったまま、宿で話すと口にしたため勇者一行は宿に帰る。そして、戦闘を終えて疲れている中で『剣聖』と勇者一行の合計21名は康太の部屋に招集されて、『剣聖』の言葉に耳を傾ける。
「───今日、重大な事件は合計3つ起こっている。1つ目は、俺達の鯀の討伐だ。そして、2つ目」
『剣聖』が話し始め、全員がその言葉の一欠片だって聞き漏らさないように黙っている。
1つ目は、『剣聖』と勇者一行が当事者である龍種の1体である鯀の討伐。
これにより、龍種は残る4体と最初の半分にまで数を減らしていた。
「───2つ目は第12代『魔帝』グエス・シャガールが殺されて、その殺人犯に第13代『魔帝』が強制的に継承された」
2つ目は、何者かによる『魔帝』の殺害。
男性陣の数人には、『魔帝』という二つ名を知っていた。そう、『死に損ないの7人』のメンバーだと『無敗列伝』が話してくれたのだ。
「『魔帝』って、魔法においては右に立つものがいないとされている『魔帝』?」
「あぁ、そうだ。94歳と、超高齢であったけれど魔法はいつだって完璧な『魔帝』だ」
「一体、誰に殺されたの!?」
『死に損ないの7人』が殺されたというのは、大ニュースだ。
レベル85を超える猛者達が組み込まれ、龍種と戦っても互角に戦い、死なずに帰ってくることのできる最強に与えられる称号の『死に損ないの7人』だ。
その『死に損ないの7人』にも数えられる『魔帝』グエス・シャガールを殺した人物。それは誰か。
「───誰かは判明している。僕はレベル40超えの冒険者は大体把握してるつもりだったけど、それよりランクが低いのか、本当に聴いたことがない人だ」
「いいから、名前は?」
『魔帝』を殺したのは、猛者オタクの『剣聖』でも知らないような無名の人物らしい。その名前は───
「───ソノダマヒロ」
「「「茉裕!?」」」
唐突に出てきたクラスメイトであり、生徒会に属している裏切者の名前を聴いて、その場にいる全員が驚いてしまう。
───園田茉裕は、マスコット大先生の協力者として、デスゲーム参加者の妨害や殺害を試みる裏切者だ。
第6ゲームでは、沙紀と鈴華を操って『件の爆弾』で強敵として立ちはだかったことは記憶に新しい。
今やっている第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』での動向は、初日に逃亡して以来一切不明であったのだが、まさか『魔帝』を殺すなどという行為に走るとは、誰も思っていなかった。
茉裕のことだから、栄の救出を妨害してくるに違いない。
きっと、妨害するために必要なピースとして『魔帝』を殺害し、その二つ名を奪い取ったのだろう。
「君達、ソノダマヒロのことを知っているのかい?」
「あぁ、知ってるも何も俺達と同じ異世界から来た女子だ。『剣聖』が知らないのも無理はない」
「そうだったのか...」
「きっと、茉裕は妾達の敵として立ちはだかってくるに違いないな。次の戦いでは、『古龍の王』だけでなく『魔帝』も敵になると考えていい」
茉裕は強敵だ。
これまでに、何人もの生徒が茉裕に苦しめられて死んでいる。
「───茉裕、赦さないッ!」
茉裕に指示を受けた鈴華に恋人を殺された梨花は、怒りを見せる。
茉裕が自分のことを嘲笑う声が、梨花の頭の中では反芻されていた。