空を揺蕩う金魚の襲来 その⑤
試験で忙しく更新できておりませんでした。
学年末は重要でした、すみません...
空を揺蕩う災害金魚───鯀の破壊力は龍種の中でもピカイチだ。
龍種の中で最も観測されるのは麒麟で、龍種の中で最も大きいのは霊亀。そして、龍種の中で最も被害を出したのは驩兜で、龍種の中で最も手堅いのが三苗。龍種の中で最も倒し方がわからないとされているのが鳳凰で、龍種の中で最も厄介なのが共公で、龍種の中で最も強いとされているのが応龍だ。
───が、その7体の龍種をもってしても、鯀の持つ破壊力には及ばない。
「『剣聖』が失神しちゃったのに、どうするの!?」
「とりあえず地面の方に運んでくれ!」
「了解!」
稜が失神した『剣聖』を支えて、康太の指示で地面の方へ連れていく。が───
「「───ッ!」」
スカイブーツを使用していた稜が地上へと降り立とうとしたその時、深手を負った鯀の体が爆発し、全方向に爆炎と轟音を鳴り響かせる。
「───〈爆撃吸収〉!」
稜はなんとか〈爆撃吸収〉を使用させて、自分と失神した『剣聖』をその爆弾から身を隠す。
四方八方が灰色の煙に包まれて、息がしずらいながらに稜が地面に着地し、『剣聖』を戦場から離れた場所に避難させに動く。
が、この爆炎に飲まれた他の勇者一行は───。
「───なんだよ、コイツ...急に爆発しやがって...」
「これが───」
刹那、爆撃。
閃光と爆音。
「───ぐッ!」
立て続けに起こる爆音に聴力を奪われ、間断なく引き起こされるフラッシュに視力を封じられる勇者一行。攻撃するためではなく、己の身を守るためになんとか攻撃を放ち、その爆撃を防ぐ───否、軽減させる。
「一回距離を取るぞ!無限に爆発を繰り返されたら」
爆撃。
爆撃、爆撃。
爆撃、爆撃、爆撃。
爆撃、爆撃、爆撃、爆撃、爆撃。
爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆撃。
連続、連続、連続。
終わりなき爆発こそが、暴走した鯀の手に入れた特別な能力。
そして、破壊力の頂点に立つ理由であった。
「───死、ぬッ!」
猛威を振るう間断なき爆撃に対し、〈星屑斬り〉を振りながら爆炎を避け、後方に下がる康太。その爆発には鯀が纏う鱗が含まれており、それが当たると裂傷が体に刻まれる。
回復魔法を使用すれば簡単に治癒するような傷だが、回復魔法を使用する隙が無い。
爆風に煽られ、後方に吹き飛ばされながら攻撃に耐え続けることも、傷が開けば難しくなってくるだろう。
「全員離れて!」
純介が声を張り上げて、スカイブーツを履く6人───空中にいない『剣聖』と稜以外に声をかけるけれども、その声は全て爆音にかき消されて届かない。
「じゅんじゅん、声を大きく魔法はないの!?」
「そんな魔法、僕は知らない!」
魔法はランクが高くなればなるほど、範囲が広く威力が強大になっていくので、こうして戦闘で戦っている誰かを巻き込んでしまう可能性がある。
もちろん、範囲を絞ることも可能だ。だけど、灰色の煙が鯀の周辺を覆っている今、誰がどこにいるのか把握できていないため、避けることもできない。
「これじゃ、魔法の攻撃もできない...」
「───いや、ワタシの魔法を使えば行けるかも」
「本当?」
「えぇ、任せて」
そう口にして、弱弱しい力で魔法杖を爆心地の方へ向けるのは梨央であった。
霊亀との戦いでレベルが上がった彼女は、Aランクの魔法を〈漆黒世界の黙示録〉以外にもう1つ保持している。それは───
「───〈神出鬼没の花吹雪〉」
刹那、ズボンが足に何度も叩きつけられるような感覚を覚える。その風の強さに思わず、顔を隠すように手を伸ばし、それでも尚魔法使いとしての職務を遂行するために鯀の方を睨みつける。
梨央の放つ神風は、鯀の周囲にいた勇者一行と共にその煙を吹き飛ばしていく。
ガードに集中していた6人には申し訳ないけれど、視界はクリアになったし仲間に当てる心配も無くなった。
「純介!」
「ありがとう、梨央!〈雷炎の楔〉!」
その言葉と同時、鯀を中心に10個の雷と炎を纏った球体が生まれる。
「食らえッ!」
バチバチと音を立てながら、バスケットボール大の10個のその球体は、鯀の方へと吸い込まれるように当たっていく。そして、それは鯀と衝突して小さく爆発を引き起こす。
───が、爆発を無限に繰り返している鯀だ。電撃以外のダメージはほとんどなさそうである。
「なら、蓮也!」
「わ、わかった!〈世界氷結の理〉」
三苗を氷漬けにして、驩兜との戦闘の足場を作り出した〈世界氷結の理〉を、蓮也は鯀との戦闘で使用する。
すると、鯀の大部分が氷漬けになりその動きも空中で止まる。水中に落下していないということは、まだ生きているという事だろう。ならば、次は───
「───ッ!」
純介が、次なる一手の使用を試みたとき、鯀が氷の中から爆撃を起こして、その氷の礫を純介達の方へと飛ばしていく。粗削りの氷の礫は、大きさと密度から考えても避けられそうにない。
「───この量はマズいッ!」
真胡は咄嗟に盾を構えるけれども、自分一人じゃ守れない量であることを悟る。
となると、使用するのは炎魔法で氷を融かすことだろうか。純介がそう思い、咄嗟に〈紅焔神の涙〉を使用しようとしたその時。
「全く、無理矢理飛ばすなんて酷いじゃない!」
一番に、純介達の方へスカイブーツを履いた足で駆けつけて、飛来してきた氷の礫をその拳で叩き割るのは1人の女傑───『負けん気』の竹原美玲であった。





