4月7日 その④
「禁止行為書換紙って言われても、皆目検討もつかへんやろ?」
そう言って、教卓の前に立つマスターは一人で会話を続ける。
「ほな、この紙の持つ効果を説明するわ!この紙の効果を一言で説明するとするならば、他人の禁止行為を交換できるってことや!」
「───ッ!」
「なっ...それってつまり...」
「せや!君達は頭がええからわかるやろ?嫌いな奴にこの紙を貼れば、ソイツを必ず死に至らしめるような禁止行為に変更できるっちゅうわけや!」
マスターはニコニコ笑顔でそんな説明をする。そんな事をしては、デスゲームのバランスが崩壊してしまうのではないか。それに、人を殺す以外の方法───絶対に死なないような禁止行為に変更することだって可能なのだ。
人を必ず死に至らしめる禁止行為、例えば「呼吸してはならない」だとか「瞬きをしてはならない」だとか「体外から栄養を摂取してはならない」だとか。あげていけばキリがない。
逆に、絶対に死なないような禁止行為。例えば、「10億光年先の宇宙に移動してはいけない」だとか「マーライオンを破壊してはいけない」だとか「死亡してはいけない」だとか。こちらも、あげていけばキリがない。
「でも、この禁止行為書換紙にもしっかりルールはあるんや!まず、同じチームの人には効果が無いんや!すなわち、自分と同じ寮のメンバーには効力を発揮しないって訳や!それに、貼る場所も決まっておる!この紙は必ず背中に貼らなければならない!だから、デコに貼っても脚に貼っても駄目なんや!服の上からでもいいから背中に貼らなければならへんのや!わかったか?」
マスターはこちらの方を見て確認を取る。
「そしてやな、この紙はなんと生徒会にも役に立つんや!」
───生徒会。
生徒会は、禁止行為が免除されている。だが、その禁止行為を変更───言い方を変更すると、生徒会にも禁止行為が復活するのだ。禁止行為が生徒会に復活する。
それは、一度「死」から離れた彼ら彼女らをもう一度「死」の近くに手繰り寄せることができるというものだ。
俺は、マスターが持ってきた禁止行為書換紙の後ろに天使と悪魔の2人が見えた。使いようによっては、人の生き死にを左右できる恐ろしすぎる紙。
例えるならば機関銃。機関銃は、大量に無差別に弾を射出する道具だ。故に、そこにどんな人物がいようと、ところ構わず滅多打ちにして殺してしまう。要するに、殺しが「作業」になってしまうのだ。
人を殺したという罪悪感も碌に湧かないまま人を殺して殺して殺してしまう。それが、機関銃だ。
そんな機関銃と禁止行為書換紙は「殺しが作業になってしまう」という点で一緒だった。
この禁止行為書換紙はきっと殺害を用途として製造されたものだ。故に、殺しが作業化してしまう。
人の人格を変えずに殺しを行わせてしまう狂った道具。何の罪悪感も持たないまま殺しを行ってしまう道具。
こんな紙があっては、人の命が軽くなってしまう。平等だった命の価値が変動してしまう。
───だが、批判ができない。
この紙は、確実に死んでしまうような内容を書く他にも、「確実に死なない」ような内容を書くことだって可能なのだから。
この紙の利用方法は利用者によって分かれる。誰かを助けるためにこの紙を使用するか、自分が生き残るためにこの紙を利用するか。
「ただし、生徒会に利用する場合のみ直接的に死に繋がるような禁止行為───例えば、呼吸をしてはならない。だとかは発動しません!これも生徒会の優遇ですね!」
マスターがそう説明に付け足す。生徒会には死の湖には近付けるが、その湖に足を突っ込ませることはできないと言うわけだ。
「どうでしょう?一枚10万コインで販売しております!是非とも売店にやってきてくださいね!」
マスターはそう言って宣伝をする。そして、教室を出ていった。
禁止行為書換紙 他チームの人の禁止行為を紙に書いた内容に変更することが可能。この紙は、禁止行為を変更したい人の背中に貼らなければならず、背中以外に貼っても効果を発揮しない。どのような内容でも、この紙は効果を発揮する。
例:呼吸をしたら死亡。食事をしたら死亡。死んだら死亡。など。
生徒会に貼った場合も、効果を発揮する。だが、直接的に死に関わるような内容だった場合は、効果を発揮しない。
「皆さん、是非とも活用してくださいね」
マスコット先生は、教卓に戻ると笑顔でそう言った。その笑顔の裏には、悪魔のような笑みが浮かび上がっていると思うと気味が悪かった。
デスゲームを行う彼にとって人の命はゴミやチリのようなものなのだろう。そう、感じた。
「───と、それでは広告も無事に終わりましたね。では、本日の予選も開始しようと思います!」
4池本栄 126pt
6宇佐見蒼 16pt
9菊池梨央 8pt
10小寺真由美 6pt
11斉藤紬 6pt
18津田信夫 26pt
19東堂真胡 12pt
22西村誠 10pt
24橋本遥 4pt
30村田智恵 12pt
31森愛香 32pt
32森宮皇斗 42pt
と、白板に表示されるのは俺らの現在のポイント数。2位の森宮皇斗とは3倍もの差があった。
「それでは、4月7日、予選3日目!スタートです!」
マスコット先生のかけ声と共に、3日目が幕を開ける。俺を含めた予選参加者11名が教室の外に出ていった。





