再会・離別と邂逅と その⑦
「話を戻しますけど、この都市を救ってほしいってどういうことですか?何がこの都市を危険にさらしているんですか?」
『無敗列伝』───言い換えると、猛者の話になると超絶饒舌になる『剣聖』に長々と付き合っている暇はないので、康太は話を本筋に戻す。
「───と、そうだね。協力してくれるって二つ返事で言ってくれたけど、何と戦うのかを話しておかないとダメだよね」
『剣聖』は、『無敗列伝』のことを話していた時のような楽しそうな顔から、一瞬でキッチリとしたまじめな表情に戻る。
真剣な眼差しも、楽しそうな表情もどこを切り取っても『剣聖』はイケメンだ。きっと、盾を構えたとしてもその顔が崩れることはないだろう。
「僕の見立てと、仕入れた情報によると龍種の1体である鯀が明後日にもここ、商業都市アールに到着するようなんだ」
「龍種がやってくるんですか!?」
「あぁ。鯀はここ10年くらい、ドラコル王国の東側の海に住み着いてたんだけど、なんでかドラコル王国の方にやってきてね。鯀がやってきてしまったら、栄えている商業都市アールは大ピンチだから倒したいんだ」
話を聞いていた康太と美玲の2人は「鯀が商業都市アールに来る原因、絶対に『無敗列伝』がちょっと前まで滞在してたからじゃん」などと思うけれども、『剣聖』のオタクな一面が出てきて長話が始まるので声には出さなかった。
彼彼女がそんなことを思っている中で、智恵が口を開く。
「今、栄って言いました?」
「栄えているって言ったけど」
「あ、栄えている、か...」
智恵は智恵で、栄のことで頭が一杯のようだった。
「智恵、疲れているなら寝たほうがいいぞ」
「───うん、そうする。ごめん、途中で抜けちゃって」
皇斗の忠告に、智恵は少し考えたけれども素直に頷いて会議をしている康太の部屋から出ていき、梨央や美緒・紬などがいる女子部屋に帰っていった。
「智恵もかなり限界そうね。とっとと鯀を倒して『古龍の王』討伐に向かわないと」
「───なんだか僕は割り込みをしてしまったようだね。申し訳ない」
『剣聖』は、これまでの発言を考慮して、鯀の討伐が勇者一行の計画に支障をきたしてしまったことを察して謝罪をする。
「いやいや、鯀の討伐もかなり緊急度が高いですから」
「そうだピョン!明後日にはこの都市に来ちゃうピョン。なんとかしないと駄目だピョン!」
「蒼はどの立場で言ってんのよ」
栄の救出───そのための『古龍の王』の討伐は、第8ゲームの目標であり目的でありクリア条件であるが向こうからやってくるわけではないためタイムリミットはない。
一方で、鯀は直接的なクリア条件ではないけれども、2日後には商業都市アールを襲うことがほぼ確定しているので、タイムリミットがすぐそこまで迫っており緊急度が高い。
「本当に申し訳ない。龍種の討伐は君達勇者一行にしか試せないんだ。僕は調べさせてもらったよ。君達の経歴を。国王陛下に勇者として認められた次の日から早速麒麟と遭遇しているのだろう?その日、麒麟の目撃情報があったから僕も調べたんだ。そしたらまさか君達が相手をして追い返したとは。その場には『親の七陰り』の『閃光』もいたらしいけど、随分と上手く追い返したみたいだね。それで、その後二手に分かれてこの世界の南半分を旅したんだろう?その間に麒麟に驩兜・霊亀の3体を倒しちゃうなんて。あ、聴かせてほしいな。どうやってあの巨大な驩兜を倒したんだい?触腕の1本1本がかなり強くて、普通の剣で何発か攻撃しても切れないような強さなんだけど。やっぱ、『無敗列伝』がいたから彼の指示に従った感じかな?でも、それにしても流石だよ。『海の民』って恐れられて、これまで何隻もの船を沈めてきた驩兜を倒しちゃうんだから。麒麟を倒したってニュースにも十分驚いたけど、麒麟よりも驩兜や霊亀の方が被害は大きかったからね。でもまぁ、麒麟だって色々と冒険者を殺してるから危険な部類に入るんだけどね。それでそれで、驩兜には───」
「はい、ストーップ。驩兜の話はともかく、麒麟討伐と霊亀討伐の話は後で蒼がするから今は置いといていい?」
「僕がするピョン?」
「『十戒破り』のアオイ君が話してくれるのかい?それは嬉しいなぁ。僕のところにも入ってきてるよ、霊亀討伐物語。〈雪月華〉で動きを止めるってよく思いついたよね。〈雪月華〉の特性上、霊亀くらいの大きさじゃないとその足まで氷が根を張らないから、霊亀のための作戦って感じがするし、その〈雪月華〉を踏まえた上での〈絶対───」
「だ・か・ら!おしゃべりは後にして欲しいんです!」
そのお喋りに早くも苛立ちを見せる美玲は、机を叩いて『剣聖』を黙らせる。
もはや、どんな発言をしても『剣聖』の話の種になってしまいそうで恐ろしい。
「話し合うのは、鯀と戦うまでをどうするかだろう?」
「あー、それに関してはもう準備できてます。鯀は基本的に空を悠然と泳いでいるんですけれど、対策として履いている人が空を飛べるブーツ───スカイブーツは僕の分を抜いて7足は用意できてますし、明後日の朝早くにでも商業都市アールの東の海の方に行けば、そこに高台があるので戦闘には丁度いい場所だと考えてます。もちろん下見もしてあります。ですから明日は、基本的には自由に過ごしていいです」
「準備万端じゃない!」
『剣聖』の話で会議の半分以上の時間を取られてしまっていたような気がしたが、『剣聖』の中ではもう既に鯀との戦闘を見据えた準備はできていたようである。
───その日は、明後日の早朝に宿の前に再集合と言う約束をした後に、『剣聖』は蒼を連れて持ち家に帰っていったのだった。