再会・離別と邂逅と その⑥
「お願いがあります。私と一緒にこの都市を救ってください」
「───あったりまえだピョン!都市の1つや2つを救うのくらい、僕達に任せろピョン!」
智恵が事態を飲み込めないうちに、勝手に話が進んでいく。
栄の居場所がわかったことに対して嬉しさを噛みしめていたというのに、突如として脈絡も無くやって来た男が、やってきてこんんあことを言い、それに対して蒼が後先考えずに承諾してしまったのだ。
「本当ですか?」
「ちょ、待って...」
「本当だピョン!僕達が簡単に救ってやるピョン!相手が龍種だろうとなんだろうとドンとこいだピョン!」
「ありがとう。それじゃ、是非とも君たちを頼りにしているよ。勇者の皆」
───突然の来訪者、『剣聖』と蒼によって話が勝手に進み、『剣聖』の人助けに参加することになったの
だった。
***
「本当に、本当に納得できない。何が、何があったの?」
先程の話し合いのメンバーはガラリと変わり、机を囲むのは康太・蒼・皇斗・美鈴・智恵・『剣聖』の6人。
その中で、その現場にいたのにもかかわらず現状が全く理解できていないのは、智恵であった。
智恵からしてみれば、蒼はとんだクソ野郎だろう。
恋人である栄の場所がわかったと言うのに、そこにはすぐに行かず、突如として現れた『剣聖』を名乗る男性に協力することを選択した蒼は、苛立ちの対象であることには他ならない。
「調子乗ってるでしょ」
「乗れる時に乗らなくてどうするピョン?」
「───ッ!嫌な奴...」
その傲慢で自分勝手な振る舞いに智恵は苛立ちを見せるけれども、相手は蒼だ。
煽り合いや化かし合いで勝てるような相手ではない。そのウザさは、これまで3ケ月以上クラスメイトとしてやってきて知っているのだ。
「───と、『剣聖』と言ったか?一つ条件がある」
「はい、なんでしょうか?」
「余等は今、『古龍の王』の討伐を目的に行動している。まぁ、プラム姫と後1人。俺達20人と私的に知り合っている男を助けるためにな。今回、都市を助ける協力をするから、『剣聖』にはその『古龍の王』の討伐に協力して欲しい」
皇斗の突きつける条件を、ニコニコと見ているだけでウットリしてしまうような美顔を浮かべながら聞き入れるのは『剣聖』。
「あぁ、もちろんだよ。この都市を救ってくれるというのなら僕ができることがあればなんだってする」
初対面の時は「私」であったが、今の一人称は「僕」に変わっている。『剣聖』はお願いする立場であったからか、「僕」をより丁寧にした「私」を使用していたのだろう。
「『剣聖』も『古龍の王』の討伐に協力してくれるってなら百人力ですね!」
康太はそんな風に喜ぶ声をあげる。
「君は僕のことを知っているのかい?」
「はい。俺はちょっと前まで『無敗列伝』と一緒に行動してて───」
「『無敗列伝』!『無敗列伝』ってあの『無敗列伝』かい?」
「え、えぇ...『死に損ないの7人』のあの『無敗列伝』ですけど...」
「いや、やっぱりね。『無敗列伝』っていい男だよね。僕も僕以外の『死に損ないの7人』の中では一位二位を争うくらいには好きだよ。やっぱ、『無敗列伝』はすごい男だよね。どんな状況に立たされても、敵が誰であろうと負けないんだもん。僕も尊敬するよ。前に一度だけ勝負したことがあるんだけど、確かその時は急に大雨が降ってきて結局、勝負がつかずに終わっちゃったんだっけかな。あ、それは前の前で、前は『無敗列伝』が魔法も使っていいか?とか聞いてきたからそれを承諾したら、僕が後一歩のところで負けたんだった。やっぱ、魔法が使えるっていいよね~。あ、僕を知らない人が結構いるみたいだから補足しておくけど、僕って生まれつき魔法が使えないんだ。魔力の量とかの問題で、Cランクの魔法だって使えない。Dランクの小さな魔法をなんとか剣に付与してカバーしてるって感じになるかな。でも、『無敗列伝』は剣術だけじゃなくて魔法まで超一流に使えるからすごいよね。僕はすごく尊敬してる。世間一般からは『剣聖』だとか言われて、僕ばかりがチヤホヤされてるし、僕と『無敗列伝』が一緒に歩いてても、大体声をかけてくるのは僕のファンだっていう人間で『無敗列伝』のファンは見たことがないんだけど、僕だけは『無敗列伝』のファンだよ。まぁ、どれだけ凄いかって言うと聞いたかな?龍種に囲まれた話。すごいの。龍種のうちの2体───応龍と鳳凰に同時に接敵したらしいんだけど、その巧みな剣術と魔法でなんとか逃げ延びてきたらしいんだよ。そのエピソードを聞いた時に僕はちょっと惚れそうになったよね。だって僕は応龍に一度殺されかけたんだよ?それなのに応龍だけでなく鳳凰までもがいるってのに生きて逃げて来たんだから。あ、鳳凰と言えば『無敗列伝』にあの話もあった」
「───あのぉ...」
一度話始めたら全く止まらなくなった『剣聖』を前にして、智恵が思わず困惑してしまう。
「どうしたの?あ、『無敗列伝』の話は知ってた?じゃあ、他の『死に損ないの7人』の話をする?『神速』でもいいし、『魔帝』でもいいよ。あ、『羅刹女』のことが知りたい?いいよねぇ~、『羅刹女』。僕も会ってみたいけど会ったことないんだぁ~」
「いや、そうじゃなくて...」
この時、勇者一行は気付いた。
目の前にいる『剣聖』。その正体は、史上最強の猛者オタクであることに。
智恵が止めてなかったら、3話分くらいの文量を普通に語ってきます。
強い人が好きすぎて色々と調べつくした結果、自分がいつの間にか王国最強になっていたパターンです。
先代『剣聖』に弟子入りしたのも、先代『剣聖』が推しだったからです。