再会・離別と邂逅と その④
ドラコル王国の首都プージョンを東に出てから、整備された道を進んでいく智恵達10人。
目的地は、ドラコル王国の最も東にある第二首都『全望の街』と呼ばれている商業都市アールと明確に決まっていて、その足取りはブレていない。
「商業都市アール、どういうところだろうな?」
「わからない。けど、楽しみだね」
左側に山を、右側に平原を感じながら智恵達10人は歩みを進めていく。
最初に来た時は、霊亀の影響により通れなくなっていた道も、今ではすっかり通れるようになっていて、最初に立てた計画とほとんど狂いなく、栄救出へと歩みを進められていた。
「康太達は先に到着してるの?」
「その答えもわからない──だな。余等には情報交換をする方法がない。スマホがあればよかったのだが、ここはゲームの世界。連絡を取れる手段は暫定ない」
実際のゲームであれば、ゲームの世界でキャラクターどこにいようともDiscordやその他アプリの通話機能を使用すれば現実世界で会話をすることが可能だ。だが、今智恵達がいるのはゲームの世界だ。
だから遠く離れた相手に確認を取る術を持っていないのだ。
「全く、ここが現実なのかゲームの世界なのかわからなくなってしまいそうだピョン」
ゲームのような、規格外な技や怪物が登場するが、その動きのほとんどが現実でもできてしまうような動きなのだ。
それこそ、現実で再現できないのは魔法を利用した攻撃くらいだろう。
「康太達がいたら合流もしやすいし、先に付いていたらいいなぁ〜」
紬がそんなことを言いながら一歩ずつ前へ前へと進んでいく。
──こうして、智恵達は先に進んでいき、その日の夕方に商業都市アールへと到着したのであった。
「ここが...」
街頭が乱立し建物が密集する商業都市アールは、夜でも愛香が通常通りに振る舞えるくらいには明るい。
智恵達10人が入る商業都市アールの西側の入口は、そのまま東へと直進したら商業都市アールの中心へと繋がる大きな道路がある。
夜だと言うのに人が多く出ているこの街で、智恵達が歩くと───
「勇者様だ!勇者様だぁ!」
「おい見ろ、勇者様がこの街にやってきたぞ!」
「麒麟と霊亀の2体をも討伐したって本当!?信じられない!」
「───すごい盛り上がりだな」
「すごいピョン!やっぱ僕って有名人だピョン!」
智恵達が商業都市アールに入るとその盛り上がりは凄まじく、一瞬にしてお祭り騒ぎになってしまった。
そして、10人を囲うようにNPCは集う。
「すげぇ、勇者様だ!こんな斧使ってたんだ!」
「ちょ、僕の斧を触らないで欲しいピョン!」
「勇者様だ、可愛い!手握っていいですよね?ねぇ!?」
「え、ちょ、じゅんじゅん。助けて」
「え、え、えっと、智恵さんですよね。勇者パーティーの中で唯一恋人がいないって聴きました、付き合ってください!」
「んなッ!失礼な、私にも恋人はいます!ここにはいないけど!」
そんなこんなで、好き勝手声をかけてくるNPC達。
康太達がやって来た時は、「宗教都市ムーヌを出禁になった野蛮」という印象があったので近寄ってこなかったが、今回は完全に「麒麟と霊亀を討伐した」という功績だけが広まっているため、近寄ってきたのだ。
「───ウザったいな」
皇斗は、近くにあった街頭の上に移動して、その大量のNPCを回避していた。と、その皇斗の双眸に映り、その集るNPCの方へと移動してくるのは───
「───退け、この愚民ども!」
「「「───愛香!」」」
凛とした立ち姿で、自前の扇で自らを仰ぎながらその場に立つのは1人の女傑───『高慢姫』森愛香であった。
「集うな集うな、退け退け!名もなき愚物は死に腐れ!」
「──なんだなんだ」
「げ、『高慢姫』だ!」
「うるさいのが来た」
多くのメンバーは避けていくけれども、女性陣に凄まじいアピールをする数人のNPCは愛香のことを無視して声をかけ続けている。
「『閃光』のことは振ったらしいけどさ、いいだろ?俺はこの街にも詳しいぜ?チエのことを暇させない」
「愛香、助けて...」
激しくストーキングしてくるそのNPCを前に、智恵が助けを訴える。すると、愛香は背中に背負っていた槍を引き抜き───
「〈雷鳴の一突き〉」
「───ひぎゃあああ!」
智恵に熱烈なアピールをするNPCに対して、愛香の攻撃が襲う。
電撃を纏った槍が飛んできて、そのNPCは感電した後に倒れる。愛香は、そのNPCを踏み台にして、周囲にいる他のNPCを威嚇する。
「とっととどこかに行け。貴様ら凡愚には用がない。死ね」
「ありがとう、愛香。助かった」
「別に。見ていて癪だっただけだ。貴様らを助けようとは思っていない」
「何はともあれ、合流できたピョン」
───と、こうして勇者20人の合流が達成されたのだ。
その日はもう夜も遅いので、特に商業都市アールについての探索はせずに、愛香達が寝泊まりしている宿に移動して、智恵達のこれまでの疲れを癒やしたのであった。
───合流を果たし、物語は大きく進展する。
そのトリガーとなるのは、前まで名前は何度も登場していたが、その実態は掴めなかったゲーム内最強と呼ばれる男。この世で唯一のレベル99の最強───第34代『剣聖』マルクス・シュライデンである。
次回、『剣聖』登場───。