4月7日 その③
「いやぁ、栄!残念だな、残念!可哀想だ!オレを殴って友情は確認できても、愛情は見つからなかったようだし、逃げられちまった!まぁ、大丈夫!次がある!」
そう言うのは、裕翔だった。励ますかのようにして俺を煽っている。
その証拠に、裕翔の顔は嘲笑としか言えない笑みを浮かべている。
「───俺は」
「いやぁ、大丈夫だよ、栄。女に逃げられたからと言って友情が無くならない訳じゃない!愛情はなくとも友情は残ってる!愛は無いけどな!」
俺は裕翔の言葉に耳を塞ぐ。聞きたくない言葉が頭の中に入ってくる。
「栄、裕翔の言っていることは一部正しい」
そう言って俺の方を叩くのは康太だった。
「女に逃げられたからと言って友情が無くならないのは事実だ。村田智恵さんの勘違いが原因だしな。実際、細田歌穂さんとは付き合ってないんだろ?」
「───うん」
「今の間、嘘を付いてるんじゃないか?」
「裕翔、囃し立てるな。静かにしていろ!」
康太の怒鳴り声に、裕翔が肩を震わせる。
「───はい、すいません...」
裕翔は謝罪するとだんだん小さくなっていった。もちろん康太を恐れたという暗喩だ。
「付き合ってないなら、まだ完全に逃げたって訳じゃない。だから、その誤解を解けば問題はないだろう?違うか?」
「うん、そうだね...でも...」
「でも、何?」
「今の俺が智恵と話しても会話にならないような気がする...」
教室は、俺と康太の言葉だけが聞こえている。煽り散らかす裕翔が静かになり、女子からの冷たい目線に晒されている。他の男子───例えば、稜や健吾・純介は俺を励ます為に必要な言葉を見つけられなかったし、女子は変に口を出すと新たな誤解を招く可能性までもが出てしまっている。
故、皆沈黙を貫いている。ただ、話すのは栄と康太だけでよかったのだ。
「そうか。ならば、今じゃなくてもいい。明日でも、明後日でも。しっかり村田智恵さんと話し合う機会を取らないと駄目だよ」
「───うん、わかった...」
俺は、康太の意見に賛成する。彼は、親身に寄り添ってくれた。
きっと彼はいつでも『「正義」でいる』のだろう。『「正義」でいたい』俺とは大違いだった。
”ガラガラガラ”
教室に入ってきたのは、森愛香であった。
「どうした?お通夜みたいな雰囲気で。誰か死んだか?」
教室に入ってきてすぐに、そんな事を言った。実際、お通夜のように静かだったから死を疑うのは不思議ではない。実際、これはデスゲームであるし。
「いや、少しね...」
「少しとはなんだ?明確に述べよ」
歌穂が森愛香に事情を説明するように頼まれる。
「───でも...」
「なんだ?妾にだけ教えぬというのか?それはちと傲慢すぎはしないか?」
森愛香を歌穂の事を睨む。
「栄が、歌穂と付き合ってるって言ったら智恵が嘆いて逃げちまったんだよ!いやぁ、やっぱり罪な男だねぇ、栄は!」
そう説明したのは、裕翔だった。
「貴様の説明は脚色が入ってそうでにわかに信じがたい。別の者が説明せよ」
「きゃふん」
裕翔の説明は、森愛香に一蹴される。
「ど、どうしてオレは駄目なんだよ!」
裕翔が、一蹴された後に反論する。
「わからないのか?貴様は昨日栄と殴り合って負けた───いや、多対個で負けたのか...だが、負けたことには変わりない。最初に喧嘩を振ってきたのはきっと栄であっただろうから、栄を目の敵にしている。それで、負け惜しみで彼の悪評をばら撒こうとしている...違うか?」
「はぁ?違うわ!負け惜しみなんて───」
「違わない。それとも妾が間違えるとでも言うのか?貴様、妾の足場志願者か?言いだろう、そこに四つん這いになれ。足場にしてやる」
森愛香がそんな事をしながら、裕翔の足を蹴っている。すると───
「はい、皆さん!ホームルームを始めますよ!」
教室に入ってきたのは、マスコット先生であった。
「ほら、皆さん座って座って!」
先生が手を叩いて皆を急かす。
「えっと...30番...村田智恵さんが休んでますね...」
マスコット先生は、空席となった智恵の机を見る。
「池本栄君、女の子を泣かせちゃ駄目ですよ?」
「はい、すみません...」
俺は、マスコット先生に咎められた。実際、俺が悪いのだからしょうがないだろう。
「えっと、本日は4月7日。今日の夜でこの学校に来て1週間ですね。皆さんどうですか?生活には慣れましたか?」
「デスゲームなんか慣れちゃ駄目でしょう!」
「ははは、それはそうですね。慣れてはいけませんね」
康太のツッコミに先生が笑って返す。
「1週間経ちまして、そろそろゲームにも新たな刺激が欲しいところでしょう。まぁ、皆さんの中には、第2ゲームの予選に参加している人が12人いますが...」
マスコット先生は何かを隠しているような感じがする。
「と、言うことで新たな刺激を追加します!マスター!カモーン!」
そう言って、教室に入ってくるのはマスコット先生と同じ被り物をした人物───マスターであった。
「5日ぶりやな、皆。俺のこと覚えとってくれたか?」
マスターは、売店の店員をしている人物だ。
「俺のところの売店で扱う新商品を紹介しに来たんや!」
生徒全員の視線が、マスターに集められる。マスターは、一枚の紙を取り出した。そして、この紙の名を叫ぶ。
「その名も、禁止行為書換紙や!」
禁止行為書換紙だってぇぇぇぇ????
ナニソレオイシイノって感じですね、はい。





