再会・離別と邂逅と その②
───翌日。
「それじゃ、出発するぞ。皆忘れ物とかは無さそうか?」
「ワタシ達の部屋は隅から隅まで確認したよ」
「余等も問題ない」
智恵達10名は、第8ゲーム開始から18日目にして、遂に最初の街プージョンから違う都市へと移動する。
向かうは、『最初の街』プージョンから東に進んだ先にあるドラコル王国の第二首都『全望の街』アール。
商業都市となっているアールは、食料品から生活必需品まで日常生活で最低限必要なものから、魔獣や奴隷・金銀財宝などの他の場所では購入できない危険もしくは貴重なものや、記憶や体験談───まとめて言ってしまえば情報といった形のないものまでなんでも購入することができる場所だ。
そこでは、智恵一人を見てみても「目撃情報」「盗撮写真」「詳しいプロフィール」「音声データ」「吐いた吐息」「抜け落ちた髪」「鼻をかんだティッシュ」等々と、お金になるものはたくさんある。
もし智恵がドラコル王国にある公衆浴場などに行けば、「勇者の裸体」などとしてすぐにその写真は拡散するだろう。だが、もしそんなことが起これば栄が全てを滅ぼす破壊神に変貌してドラコル王国は終焉に向かうだろうからそんな愚行は行われない。
───と、そんなメリットとデメリットが明確に現れている商業都市アールに出発する智恵達10人。
商業都市アールは、南西進出組との待ち合わせ場所になっており、もう既に南西進出組の10人は到着している。麒麟と霊亀を倒した勇者が来たならすぐに話題になるから、合流に困る事はないだろう。
「お、前は通れなかった道が通れるようになってる」
前に来た時は「霊亀の影響で道が崩壊した」などと言われて、規制線が張られていたがもうそれは撤去されていた。
道は、何事も無かったかのように遠くに見える都市群の方へと続いていた。
「本当に霊亀の影響があったのかな。復旧までは半年かかるとか言っていたよな?」
「ゲームの仕様だろうよ。特定のボスを倒すまでは通れなかったり、特定のレベルまで上がれなければ入れないところがゲームにはよくあるだろう?」
「まぁ、確かにそうだけど...」
「もしくはプリキュアみたいに敵を倒せばその影響が全て無くなる感じかもしれないよ?」
何一つとして異常を感じられない道だが、ゲームの仕様で封鎖されていたのか、それとも異常が全て元通りになったのかは健吾にはわからない。
そんなことも気にせずに、智恵達10人は『全望の街』として人が集う商業都市アールに足を向かっていったのだった。
その到着は、その日の晩になるだろう。
***
───『無敗列伝』が失踪した。
「どこに...行ったんだ?」
康太は困惑する。
智恵達が霊亀を討伐するために動く日の明朝。康太は消えた『無敗列伝』を探すために宿中を探し回るも、その姿は見つからない。
───昨日、情報屋に情報を買いに行った後、『無敗列伝』と勇者一行は近くにあった部屋に空きのある宿に入った。
そこで、『無敗列伝』だけが高い宿泊費だけを取られるという実に彼らしい与太話があったのだが、そんなのはどうでもいい。
「───『無敗列伝』がいない」
康太達と同じ部屋で寝ていたはずなのに、誠の寝ていたベッドの隣りにあるベッドで寝ていたはずなのに、どこにも見当たらない。
「消えた?でも、どこに」
康太達が手荷物を確認しても、何かが盗まれたような気配はない。
そもそも、『無敗列伝』が誰かから何かを盗むような性格はしていないし、運がないことがわかりきっている彼は、それをしてもすぐに捕まるのは目に見えているだろうからそれを実施することはないだろう。
「じゃあ、どこに...」
「康太、なんか置いてあったよ...」
「蓮也、本当か?」
前まではいがみ合っていた───というか、康太が一方的に敵視していた蓮也であったが、第8ゲームの中で蓮也がそれなりに活躍したからか、その名誉は回復していた。
「これ。机の下に落ちてた」
「アルグレイブ・トゥーロード───『無敗列伝』からの手紙...」
そこに置かれていた手紙をすぐに開いて、その内容に目を通す康太。
皆へ
俺が何も言わずに姿をくらましてしまい驚いてるかもしれないが、その全てはこの手紙に書いてある。
結論から先に言ってしまうと、俺は『顕現する神の食指』の二つ名を持つ人物を発見したから、一刻も早くソイツを殺しに行かなければならない。
自分が生き残るために誰かを殺すのはかなり自分勝手だし、相手が相手だから色々と問題になっちまうだろうからお前ら勇者に汚名を背負わせないためにもここは俺一人で勝手に行動させていただく。
別れを言わずに出ていったのはここが商業都市アールだからで、感動的な別れをしたらお前らも俺の仲間だと扱われかねないからだ。
お前らは俺を裏切り者のように扱ってくれればそれでいい。そうすれば、少なくともお前らは『無敗列伝』に騙されていた可哀想な勇者一行と、『総主教』に喧嘩を売った汚名と一緒に吹き飛んでいくだろう。
と、お前らも知りたいだろうからここに『顕現する神の食指』の正体を書いておく。
『顕現する神の食指』の正体───それは、第62代『総主教』などと偽の肩書きを騙っている悪女。ウェヌス・クラバス・ホーキンスだ。
この手紙を読んだら、すぐに炎魔法で燃やして処分してくれ。
『無敗列伝』アルグレイブ・トゥーロードより
智恵ちゃんに関する内容は全部俺が買い占めているので何一つとして流出しません。