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陸塊の棲む頂へ その⑧

 

 世界を揺るがす確かな胎動。


 ───初めてである。

 霊亀の甲羅を突き破るなどという破天荒な荒業を成し遂げたのは、1人の拳闘士───奏汰。


 そんな荒業を歓喜するがごとく───否、その暴挙を看過できないと言わんばかりに───否、それも否。

 甲羅が損壊したことで初めて、背中に乗る勇者一行6人の姿にやっと気が付いたのが霊亀であった。


 人間に例えるのであればダニに噛まれたような、ほんの少しの違和感だ。

 だが、霊亀はそこに違和感が生まれてしまった以上、対処するために動く以外の選択肢はない。


 ───故、霊亀はその体を震わせて上に乗る勇者一行を振り落とそうと企むのだ。


「───揺れるッ!」

 健吾が、その場で頭を低くし甲羅に引っ付くようにして立つ。『蠢動する超大陸(プレートテクトニクス)』などという二つ名で世間からは畏怖されている霊亀であったが、そう名付けられた意味がわかったかもしれないと、健吾は思う。


 一挙手一投足が、人間にとっては激震なのだ。

 虫のようにもぞもぞと動くだけにしても、多くの被害を生んでいたのは間違いないだろう。


「───今は引き剥がされないように甲羅に引っ付いていろ!揺れが収まる時を待つッ!」

 攻撃を続けるにも、足場を安定しなければ上手くいくことはない。皇斗は他の5人にそんな指示を出す。


「───落ち着いてポーションも飲めないとは思わなかったよ」

 奏汰はそんなことを口にして、揺れる甲羅に両膝を付いて使えなくなった右腕を回復させるために左手でHP回復用ポーションを飲む。すると、右腕だったものが右腕へと早戻りする。


「回復魔法、すごいな。こんな一瞬で回復するとは」

「うちの学校の保健室もスゴいピョン。ゲームみたいな速度で回復していくピョン」

「まぁ、ゲームの世界をこうして再現してしまう以上デスゲーム運営の持つ超常的な異能力はまだまだ底が知れないと言ってもいいだろうな」


 皇斗の異常な身体能力も底が知れないのだが、自分のことは棚に上げて皇斗はそんなことを語る。

 だが実際、こんな生物を創り出すデスゲーム運営の持つ能力はかなり膨大で汎用性の高いものになるだろう。


 マスコット大先生曰く厳密には少し違うようだが死者も蘇らせることが可能だし、異空間を一瞬で作ることも可能だし、別の世界から連れてきた異形の生物を蘇らせることも可能だし、四次元に行くことだって可能だ。


 秘密があるとすればその「四次元」というところだろうが、デスゲームに参加している皆には計り知れないような空間が広がっていることとなるだろう。


「───って、そんなことより今はこの揺れを何とかするのが先決じゃない?」

「そうだな。揺れが激しくなり、しがみついているだけも大変になってきた───って、智恵!」


 皇斗がマスコット大先生の特異な能力を考察しようとしている中で、思考を現状置かれている霊亀の方へ戻す美緒と健吾だったが、その視線の傍らで智恵が宙を舞う。


「───やば」

 智恵の顔が青ざめて、数瞬先の未来を悟る。

 このまま行けば、智恵はそのまま甲羅の外へと弾き飛ばされて、100m以上の高さから落下することになる。


 100mもの高さから落ちれば、死亡するのは赤子でもわかるだろう。


 ───こんなところで、死ぬの?


「智恵!」

 健吾が名前を呼び、甲羅を掴む手を離して智恵の方へと伸ばす。健吾も吹き飛ばされないように、その足を押さえるのは美緒であった。


「───健吾」

 智恵は、健吾の方へと手を伸ばすけれどもその手はギリギリのところで届かない。そのまま、霊亀の甲羅の外へと弾き出されて地面へと落下していき───。



 ───智恵は、この落下を感じたことがある。


 智恵が自殺未遂を起こした1度目の高校2年生の秋、智恵は建設途中のマンションから空を飛ぶ───否、墜ちた。


 その時は、運悪く都合悪く、主人公補正がかかったかのように奇跡的に助かってしまったが、今度は違う。

 今度は、運悪く都合悪く、平々凡々に死んでしまうのだ。


 ───落下していく感覚と恐怖。


 人生で2度感じることが無いで感覚に対して明確な既視感を覚えつつ、頭を下にして落下していく。

 地面にひしゃげる前に、パソコンがシャットダウンするようにして智恵の意識がフワリと無くなくなる前に───


「───〈衝撃吸収〉ッ!」

 地面と智恵の間に入り込み、大盾を構えて〈衝撃吸収〉を使用することで、落下のダメージを全て盾に押し付けることを成功したのは稜だった。


「助かっ...た?」

「びっくりしたよ、急に落ちてきたから」

「稜、ありがとう」


 周囲の地面がボコボコになっているのを見ると、霊亀が短い手足を動かしたことが感じられる。


「智恵ちゃん!」

「大丈夫だった?回復魔法今かけるね!」

「稜がキャッチしてくれたから大丈夫だよ、心配かけてごめんね。ありがとう」

 智恵の元に転びそうになりながらも必死に駆けてくれるのは梨央と紬・純介の3人だった。

 梨央と紬が智恵を取り囲んで心配する中で、純介は質問をする。


「上の方は大丈夫?さっきすごい爆発とかあったけど」

「うん。なんとか霊亀の倒す作戦を実行しているところだよ」

「───本当?」

「うん。皆にも共有しておくね」


 そう口にして、奏汰が立てた作戦を智恵は共有する。

 霊亀の甲羅を破壊する───のは、まだまだ作戦の一つに過ぎず。



「霊亀の首は普通の斧じゃ切れないから、霊亀の硬い甲羅を付けた蒼の斧で切り落とす。───それが今回の作戦」


 剣や斧じゃ一つだって傷をつけることができなかった霊亀の首。それを、霊亀の首よりも硬いであろう霊亀の甲羅を使用して切り落とす───そんな作戦は佳境にまでやってきていた。


 ───もし、ここで智恵が落下せず純介達に情報共有がされていなければ勝敗は変わっていただろう。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
ポーションや回復魔法が想像以上に便利ですね。 まあこの辺はゲームならではの仕様ですね。 でも油断していると死ぬので、 稜の行動はグッジョブですね!
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