陸塊の棲む頂へ その⑦
「───〈大切断〉」
皇斗の〈夢幻の蒼穹〉によって、無数の矢が散らばっている霊亀の背中に、大きく斧を振るって、甲羅に叩きつけるのは蒼。
ロマン武器である斧を使用する蒼の放つ、重量級の攻撃。
斧を振るうと、その甲羅が微弱に振動する。が───
「───全然、ダメージ入ってる様子がないピョン」
斧を持ち上げた蒼の目に写ったのは、傷一つ付いていない霊亀の甲羅であった。
霊亀の首の皮膚よりも硬い甲羅だ。ここまでやっても壊れないのは、想像の内だ。
「第二案でもだめなのなら、第三案に移行する。奏汰」
「任せて」
皇斗の〈夢幻の蒼穹〉と蒼の〈大切断〉を的確に当てるために少し遠くに移動していた奏汰が走ってきて、メリケンサックの付いた握りこぶしを見せつける。そして───
「〈篠突く雨〉」
奏汰の放つラッシュ。右へ左へ、拳を放つ。
「───割れそうか?」
「割れそうだよ。理由としては、割れるまで殴り続けるから」
常人であれば、途中で諦めてしまいそうな途方もない作業となるだろう。
点滴石を穿つ───などという言葉があるが、霊亀の甲羅は鋼鉄よりも硬い。そこらの斧じゃ傷一つだって付けられない最強の盾だ。
「割れるまで殴り続けるなどという愚行はするな。駄目だったら第四案───即ち最後の案へと移動する」
「あぁ、もちろん。わかってるよ。それに、僕ももう第四案を実行したほうがいいと思っている」
「じゃあ、その拳を止めろ」
皇斗の冷静な判断がくだされて、殴り始めてから2分半程で、奏汰の拳の動きは止まる。
そして、非現実的な破壊作戦から、現実的な破壊作戦が実行されることとなる。
「───第四案。行くぞ」
「「「おう」」」
「「えぇ」」
皇斗の言葉に5人が返事をする。そして───
「───開始」
その言葉と同時、先程まで奏汰が殴っていたところに向けて放たれるのは2本の剣と2本の矢。そして、1本の斧───
”ドォォォォン"
響くような爆音が、霊亀の甲羅を襲う。
凝縮された爆発が、霊亀の甲羅を襲う。
───何が起こったのか。
霊亀の呼気に含まれる辛気蠟。その正体は、気体の蝋だ。
陽光に当たる程度で爆発を起こす気体の蝋が、辛気蠟の正体だ。
暗雲がかかっている今、何もしなければ爆発することは無いが、少しでも圧力をかけたり燃える要因を作れば爆裂するのだ。
であるから、6人は自分達でも使えるような低ランクの炎魔法を使用して、武器に纏わせてそれで甲羅を攻撃したのだ。
甲羅の周囲にある辛気蠟が爆発として利用されて、甲羅を襲う。
───人間の放つどんな攻撃も効果がないが、霊亀自身が放つ辛気蠟ならどうだろうか。
爆撃を終えて、煙がモクモクと上がっていく中で、そこに残されたのは───
「───ッ!」
「傷が付いてる!」
「が、完全に割れているわけではなさそうだ。欠片も採取はできない」
6人がが、爆撃により熱された甲羅を見ながらをそれぞれの感想を口にする。
甲羅の傷をつけることができた───というのは、これまで全くの無傷だったものを前にして一つの進歩だ。
「───それじゃ、第四案が成功したってところで第四案・改を提案させて欲しい」
「第四案・改?」
傷付いた甲羅を囲うようにして立つ6人の中で、またも一つの案を出すのは奏汰であった。
「僕の技の一つに、〈叢時雨〉ってのがあるんだけど。それはかなりの破壊力を有している代わりに、一発で腕が使い物にならなくなるんだ。回復魔法やポーションさえあれば復活できるんだけど、それにプラスして辛気蠟の爆発を使えばかなりの威力になるのかなって思って」
「少々危険よ?」
「重々承知だよ」
「薄々勘付いていた。危険なのを十分理解している上で提案していることは」
「粛々と行おうピョン」
「堂々やってもいいだろ」
「ドキドキするね」
「───って、ちょっと智恵ちゃん。どうして僕達は踊り字を使ってるものを使ってたのに使わないピョン?」
「え、ドキドキってだめだった?」
「ドキドキはカタカナだから踊り字とか使わないピョン」
「感じ、難しい」
「まぁまぁ、そんなに怒る必要はないわよ。アジ々んなんだしさ」
「色々とおかしいピョン」
「蒼。くだらん話は終わったか?」
無駄話をする蒼であったが、皇斗によって止められる。
「───それじゃ、奏汰。頼む」
「うん。任せて」
そう口にして、奏汰はゆっくりと息を吐く。HP回復用ポーションはしっかり用意されているので、その腕の心配をする必要はない。
「───〈叢時雨〉」
奏汰が技を発動させて、強烈な一発を甲羅に叩きつけると同時に、地面が火を吹く。
霊亀の辛気蠟に加えて奏汰の〈叢時雨〉が発動し、シナジー効果を引き起こす。
───本来であれば、霊亀の技である辛気蠟で霊亀を大きく傷つけるようなことは出来なかっただろう。
だが、そこに奏汰の〈辛気蠟〉によって破壊力が加わることで、ついにその甲羅を破壊することに成功する。
「───割れたッ!」
そんな言葉と同時、奏汰の腕には激痛が走り宙には鋼鉄よりも硬い霊亀の甲羅の破片が飛び散る。
A4サイズの破片が数個飛び散り、霊亀の甲羅の一部が割れたことが確認される。そして───
「〜〜があああああ」
そんな、鼓膜が破れて体が破裂しそうになる大きな鳴き声が上がり、ここに来て初めて霊亀が、自らの背中に誰かが乗っていると、智恵達6人を認識したのであった。
───霊亀の戦いは、今を持って開始する。
霊亀の甲羅が割れるのは、あなた達人間がダニに噛まれるみたいな感じです