陸塊の棲む頂へ その⑥
「───話としては有り得なくもないけど、まるで現実味があると思えない。できるのか?それ」
「できないと思ったらそこで終わりにしようと思っているよ」
奏汰が、霊亀の背中に乗る5人に思いついた作戦を説明する。
全身全霊の攻撃を持ってしてもその首に傷一つ付けられない霊亀の首を両断する唯一と言っていいほどの作戦。
この方法が失敗すれば、もしくはこの作戦を現実にすることが不可能だとわかった自転で、霊亀に対して現状での対抗手段は無くなり、智恵達10人の敗走は決定的なものとなる。
「最初から最終手段か。だが、これだけの巨体を相手にするのだ。そうでもおかしくはあるまい」
皇斗はそう口にすると、笑みを浮かべる。
きっと、奏汰の話を聞いて勝ち筋───というのを見出したのだろう。
先程の爆撃に襲われて尚、こうして勝利を確信できるのは彼が天才の中の天才であり、最強の中の最強であるからだろう。「最強格」と「最強」は「カニカマ」と「カニ」のように全くの別物のだ。
「───奏汰、その作戦を実行しよう。目には目を、歯には歯を。霊亀には霊亀を、だ」
皇斗のそんな言葉を聴き、その場にいる全員は頷いた。皇斗のお墨付き、折り紙付きとなった奏汰の作戦は、その頷きと同時に、開幕したのだった。
───これは、最初で最後の最終手段。
そんな作戦が今、開始したのだった───。
***
「───爆発は収まった...けど、皆大丈夫だったのかな」
地上に残る4人───梨央・紬・純介・稜の4人は、首が痛くなるほど霊亀の背中のてっぺんを見上げて、6人のことを心の底から心配しているのだ。
連鎖し続ける爆音が、梨央の最近覚えたAランク魔法である〈漆黒世界の黙示録〉で太陽光が届かなくなることで止まり、風の吹く音だけが響く荒涼とした霊亀の住処。
風の音と少ない木々から離れ飛んでいく木の葉の擦れる音さえ耳に届かなければ、真空とも錯覚してしまうような沈黙が広がっている戦場が表すものは、僥倖か敗北か。
便りの無いのは良い便り───などという言葉がこの世にはあるが、それは戦場においても通用する言の葉なのか。
霊亀の背に登った勇猛果敢な6人は、先程の爆撃に巻き込まれて成す術なく敗北してしまったのか。
Aランク魔法を使用し、MPの半分ほどを消費した梨央はゴキュゴキュと音を立てながらMP回復用ポーションを飲みながら、いざとなれば皆に回復魔法を使えるように対策しつつ上層の民の心配をしていた。
「───俺達も登る?」
「いや、登るのは危険だ。握力が弱い───ってか、ほとんど梨央がいるから、少なくとも稜はその援護として残っていてほしいし、僕と紬の2人が登るとしても、行動を開始した霊亀の足を登るのはかなり危険だ。皇斗とか奏汰ならまた別だったんだけど、僕も紬も運動は人並みで...」
純介も、この学校に入って超常的な運動神経を持つ生徒に何人もあってなんとか努力を重ねて、人並みの運動神経を手に入れることに成功した。
だが、それでも劣悪が平凡へとなし上がっただけ。まだまだオリンピック選手を優に越える超人的なパワーを持つ彼らには敵わないのだ。
平凡な彼は動く壁をクライミングすることは不可能だ。
これはゲームだが、スーパーマリオのようにキャラを操作するのではない。自分自身で動くのだ。
だから、自分自身が「できない」と判断してしまったものは、どう足掻いてもできないのだ。
「じゃあ」
「───仕方ない。僕達は、上の皆の返事を待つことしかできない」
純介が歯痒い思いをそう口にする。
誰だって、先程の爆撃を受ければ耐えることはできないだろう。
だが、信じたくなってしまうのだ。天才として選出され、勇者として頼りにされる6人なら、栄を追い求めて自分の命を易易と駆けられる彼ら彼女らなら、霊亀の爆発の連鎖にも耐えられるのではないか───と。
心配に押し潰されそうになる、永遠にも感じられるような数分間が経過したその時、純介達は霊亀の背中に赴いた6人の安否を知ることになる。
「───じゅんじゅん、あれ!」
首だけでなく腰までもが痛くなるほどまで、霊亀の背中を見上げ続けた紬が気付くのは、梨央が霊亀の背中よりも遥か上空に敷いた巨大な雲を突き破るようにして降ってくる、無数の矢。
「アレンも使ってた技だ...」
4人の中で、唯一麒麟討伐に参加した純介が、そう口にする。
天泣のごとく無数の矢が降り注ぐ攻撃は、純介が否が応でも認めざるを得ない、純介が出会った中でも屈指の実力者『閃光』のアレンが麒麟相手に使用していた技だ。
「確か、その技の名前は───」
「「〈夢幻の蒼穹〉」」
純介達4人が地上で目撃した、MPを消費して魔法で増やした矢を遥か上空から降らす技───〈夢幻の蒼穹〉を皇斗は使用する。
これはレベル39の皇斗が一番最近に覚えた技であり、現状最もダメージを与えることが可能な技だ。
皇斗は、それを鋼鉄よりも硬い霊亀の甲羅に向かって放っていた。
「───って、突き刺さってるのは数本しかないし甲羅がひび割れそうな様子がないわね」
美緒が周囲に散らばった大量の矢を見ながら、そんなことを口にする。
───そう。奏汰の立てた作戦の第一は、霊亀の甲羅を破損させることなのだ。
「───仕方ない。世界を穿つ〈夢幻の蒼穹〉でさえ穿てないと言うのであれば、第二案に移行する。蒼」
それと同時、空中へ高く飛び上がった蒼は、大きく斧を振るい上げ───