陸塊の棲む頂へ その①
───翌日。
「出発の準備はできたか?」
「えぇ、バッチリ」
「こっちもだ」
「つむも出来てるよ!」
「僕も大丈夫。いつでも行けるよ」
現在、6体まで数を減らした龍種を、更にもう1体減らそうと画策し準備に励んでいるのは智恵達10名。
2週間以上宿泊している宿の前に集合し、それぞれが元気であることを確認する。
───霊亀と直接的な因縁があるわけではないが、別行動をしている康太達との待ち合わせ場所である商業都市アールに行くための道を、霊亀の影響により塞がれている。
そのため、霊亀を討伐してその影響を無くさなければならないのだ。
「───それじゃ、全員準備バッチシってことで。霊亀討伐に、行くぞー!」
「「「おー!」」」
───そんなこんなで、智恵達10名はフル装備で出発する。
決戦の場所は、最初の街プージョンを東の方角に出てから北の方に進んだ場所に存在するエットゥ大山脈に属する山の1つ、霊鬼山であった。
龍種の名前は霊亀であり山の名前は霊鬼山と、読みは同じ「れいき」であるがそれぞれ当てられている漢字が違っている。
霊鬼山の名前の由来は、霊亀が存在しているからだとされているが、霊亀の「亀」の字を使わなかった理由は、山が名付けられた時代に、霊亀が鬼のように恐ろしく感じられたから霊鬼山となった───というところだろう。
名付けられたのは、唯一神がこの世に顕現して龍種を討伐するよう人民に命令するよりも前であり、10世紀以上昔の出来事のため、言い伝えで変容しているところもあるだろうし、その名付けが事実かどうか確認する術はない。
───16日目から見せられてしまっては、智恵たちの霊亀討伐が急なものに思えるかもしれない。
だが、彼ら彼女らは麒麟を討伐してから1週間、霊亀を討伐し康太達と合流して、その道を開くことしか考えていなかったのだ。
霊亀を倒したからと言って、すぐに栄と出会えない───というのは皆の頭の中には薄々感じ取れていた。
だが、智恵達は探さなければならないのだ。
栄を探すために、できる限り多くの場所を見て回りたいのだ。
17日目の今、康太達は栄の場所を「極寒の地パットゥ」と特定している。
しかし、情報伝達する方法がない以上智恵達は霊亀を討伐するために身を乗り出すのである。
───もし、ここで智恵達10人が霊亀の討伐に乗り出さず、絶崖アイントゥの方へ迂回して商業都市アールへ移動していたら、未来に起こる王国戦争の結果は変わっていただろう。
***
「───久しぶりだな。霊鬼山」
ゲームの世界に来て2日目以来に立ち寄った霊鬼山。
灰色の地面で、到底植物が育たなさそうな痩せ細ったている霊鬼山を前にして、健吾はそんなことを口にする。
前回はレベル25以下の人は入れないと、NPCに止められたが今回は違う。
全員がレベル30を超えていて、怪物と戦う準備はできている。
───霊鬼山。
最高高度が海抜2500mにも達する、ドラコル王国内3番目の山であり、そこにはほとんど植物が生育していない。
エットゥ大山脈はドラコル王国のほぼ中心に位置しているが、北側は寒い地域が多いため、山頂にも雪が降らないのは、この霊鬼山とされている。
雪の降らない山ではあるが、その登頂者はドラコル王国最高峰の無限山よりも少ないとされている。
その理由は、もちろん龍種の1体である霊亀が存在するからだ。
霊亀の住処であるとして、その山に登るだけでもレベル25以上が必要であるとされており、多くの人はその山を登ろうとはしない。
登ろうとするのは、自分の命よりも山が好きな山馬鹿か、怖いもの知らずで無謀なことをする大馬鹿か、龍種を討伐しようと画策する常識知らずの馬鹿か、採掘できる鉱石に目がくらんだ金に執着する馬鹿だけである。そのため、馬鹿を招く山として「招馬山」と呼ばれることもある。
───と、そんな馬鹿しか登らぬ山に挑むのは、天才としてデスゲームに招集された10名。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
天才───もとい専門馬鹿は、栄という虎子の為に虎穴に入っていくのであった。
***
「───止まれ」
「───ッ!」
道を歩いていると、ふと皇斗からそんな指示が出て全員はその場で止まり周囲を警戒する。
すると、岩陰から出てきたのは───
「───コイツは...」
そこにいたのは、二足歩行もできそうな前足を持つ猿───いや、ゴリラのような生物。
体は、周囲の土と似ている灰色をしており、その目は琥珀色をしていた。
「コイツが噂に聴く霊亀───ってわけじゃなさそうだな」
「ロックロックゴリラ───それが、コイツの名前だ」
そこに現れたのは、1体のロックロックゴリラと呼ばれる魔獣。
魔獣の名前は、エンカウントすると理解できるようになっており、ゲームの仕様でもあった。
ロックロックゴリラは、太い前足を持っておりあれに殴られてしまってはかなりのダメージになるだろう。
「───しょうがねぇ、肩慣らしだ。霊亀を相手にするまえの準備運動って感じだな」
健吾はそう口にして、腰の鞘から愛剣を引き抜いた。
───修行を重ねた彼らの実力は如何に。