三者三様 その②
「池本栄君。元気にしておりますか?」
「マスコット大先生!?」
───康太達11人が商業都市アールに到着したのと同日。
俺を囚える牢屋の外に、その姿を現したのはマスコット大先生だった。
布団もベッドもない、硬く冷たい床の上で眠るのにもそろそろ慣れ、意識を手放そうとしていた時に声をかけてきたので、タイミングは考えて欲しかったが、確かにそこにはマスコット大先生が───俺の父親がいた。と、イマイチ状況が掴めないでいると───
「マスカット大臣!?こ、ここまで来たのですか!?」
俺と同じ檻に入れられているプラム姫が、驚いたような声を出す。
「あぁ、いや私はマスカット大臣ではないです」
「でも、その被り物...」
「安心してください。私はマスカット大臣とはなんら関係のない一般ピーポーです」
「一般ピーポー?」
「それに、物語を邪魔して連れ出す───だなんてことはしませんよ」
第2回デスゲーム生徒会メンバーであり、第8ゲームのラスボスとして立ちはだかるであろう鼬ヶ丘百鬼夜行から告げられているが、第8ゲームは『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』というゲームの世界に行って俺を救出したらクリア───というルールでやっているらしい。
そのせいで、マリオで言うピーチ姫扱いを受けている俺は、狭い牢屋で本来のピーチ姫ポジションのプラム姫と一緒に監禁されているのである。
きっと、マスコット大先生の言う「物語」は実際のゲームの話をしているのだろう。
プラム姫はまだマスコット大先生のことを「マスカット大臣」と見違えているので、俺が話をつけると口にして、なんとか黙らせた。
一国の姫に「黙らせた」なんて動詞を使っていいのかわからないが、声にはしてないしまだ許されるだろう。
「───それで。マスコット大先生、何の用ですか?」
「クラス会長として、池本栄君に話があります」
「───話?」
「えぇ。まず、現在行われている第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』はかかる時間や規模感を考慮して、第二回試験を兼ねています」
「はぁ」
マスコット大先生が、俺に対して何を伝えたいのかが不明瞭だ。
隠し事や含みがある言い方をするのはいつものことだけれど、第二回試験と俺がクラス会長であることはどう繋がりがあるのか。
「───正直、デスゲームって面倒じゃありません?」
「───はぁ?」
「やっぱり、クラス会長として取捨選択も大事だと思うんですよ。デスゲーム面倒だなぁ...人の上に立つダルいなぁ...って」
「何が言いたい?」
「池本栄君だけ、クラス会長として特別に卒業させてあげます」
「───ッ!」
マスコット大先生から囁かれるのは、甘い誘惑。
マスコット大先生のことだから、いくら含みが多くて隠し事をしていても嘘はつかない。
だから、これに頷けば俺はデスゲーム全体から抜け出せる───というわけだ。
「───もしここで頷いたら、どうなるんですか?」
「どうもこうも、卒業するんですよ。池本栄君1人だけ」
「俺の話じゃない。今頑張って俺を助け出そうとしてくれる皆はどうなるんですか?」
「そりゃあもちろん、池本栄君を見つけ出せず条件を達成できないから、一生このゲームの世界に残り死ぬ時を待つんじゃないですか?こちらとしては、発売する前のゲームのバグがないかの最終確認として皆さんにデスゲームをしてもらっているので本編をクリアしてもらった後は、DLCでもやってもらえればいいなぁ〜とか思ってます」
「じゃあ、答えは却下だ。俺は智恵を、皆を見逃して生きようとは思わない」
「え〜、いいんですか?今、池本栄君を助けようとしている皆は、第7ゲームでちょっと殴られるのが嫌ってだけで渡邊裕翔君に投票するような奴らですよ?」
「それでもだ。俺は今痛くない。いくら痛くしようったって皆を見捨てて出ていこうとは思わない」
「では、こういうのはどうでしょう?5人までなら池本栄君と一緒に卒業できる。これならよくないですか?」
「俺と一緒に21人が卒業できるのなら考えなくもない」
21人───それは、生徒会であると判明している茉裕も含めた全員だ。
初日に皆と別れて以降、どこで何をしているのかわからないけど茉裕のことだから野垂れ死んだりはしていないはずだ。
「そんな頑なに...クラス会長に選出してくれた有権者がそんなに可愛いですか?」
「クラス会長だ───ってずっと言ってるけどそんなの関係ねぇ」
「はい?」
「───お、俺はクラス会長以前に皆の友達だ!皆を見捨てて生き残るなんて、そんな生き方は嫌だ!それに、クラス会長だってんなら尚更皆を信じないと駄目だろ!」
「───そうですか、わかりました」
そう口にして、マスコット大先生は彼我の間にある鉄格子に触れてこんなことを口にする。
「池本栄君のことだからそう言うのは十中八九わかっていたのですが、こうして確認もできてよかったです。これで、第二回試験は終わりです」
「───は、え?どういうことですか?」
俺は、自らがおかれた状況を掴めない。
「皆は、クラス会長である池本栄君を助けること自体が第二回試験なのですが、クラス会長はクラスメイトを信じるというのが第二回試験だったんです。まぁ、牢屋の中にいてアクティブなことはできないからですね」
「じゃあつまり、マスコット大先生の言葉を信じて頷いていたら?」
「卒業ですよ。人生を」
マスコット大先生は嘘をつかないと思っていたが、それと同じくらい俺達をデスゲームから解放させようとしてこない。
もし頷いていたら、デスゲームから解放されて卒業した後に偶然を装って事故死───だなんて言うのもあり得ただろう。それでも「卒業した」というのは嘘ではない。
本当に最低で認めたくない男だが、どこか納得してしまう自分がいる。
「池本栄君。第8ゲームが終わり夏休みに鳴ったら、会長会議へ参加状を渡します」
「───会長会議?」
「えぇ。楽しみに待っててください」
そう口にすると、マスコット大先生は俺とプラム姫の囚われている牢屋の前から去ってしまう。
「あぁ、クソ。行っちまった...」
嵐のようにやってきて過ぎ去っていったマスコット大先生。これにて俺は、第二回試験をクリアしたようだった。
「───でも、まだここから助けてもらわないと。信じてるよ、皆」
俺は、そう口にしてクラスメイトに思いを巡らす。
その中でも一番大きいのは恋人である智恵。
「会いたいよ、智恵...」
俺は、冷たい床にベッタリと座りながら小さくそう呟いたのだった。
栄が智恵を想う中、智恵が栄を救出するためのどう尽力しているのか。
次は、智恵達を見ていこう───。
栄、自分でもビックリするほど書きやすい。