三者三様 その①
第8ゲーム 『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』のルール
1.誘拐された池本栄を救出したら全員がゲームクリア。
2.ゲームの世界で死亡したら、現実世界でも死亡する。
第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』開始から16日目の夜。
「ここが...」
「やっぱ夜だな。『全望の街』アールが映えるのは」
『無敗列伝』率いる勇者一行11名が到着するのは、熱望が、欲望が、待望が、渇望が、切望が、威望が、願望が、好望が、宿望が、声望が、才望が、野望が、希望が、絶望が───要するに、この世の全ての「望み」を一望できる都市である『全望の街』商業都市アール。
森羅万象が集う商業都市アールには、有機物も無機物も有形も無形も関係なしに金さえあれば何だって購入することができる。
売ろうと思えば何だって売れて、買おうと思えば何だって買える。
価値がない物はこの都市にはなく、勝ちを知らない敗者にさえも「価値」が付けられるこの都市には、レンガ造りの建物が乱立していた。
「宗教都市ムーヌよりかは、宗教的な何かを感じないな」
前までは康太達が出禁になっていた宗教都市ムーヌは、純白の壁の教会が多かった印象を受けるが、商業都市アールからはそんなものは一切感じ取れない。
「そりゃそうだろうな。宗教都市ムーヌには現在のドラコル教でいいと思ってる保守派が集まって、商業都市アールには現在のドラコル教じゃ駄目だと思ってる急進派か宗教なんかどうでもいいと思ってる無宗教が集まってる感覚だ。王都プージョンは両方が入り混じってる感じだな」
喧騒に包まれる夜の街を固まって歩く勇者一行。
夜ではあるが、街頭が乱立しており建物の中からも明かりが漏れているので真っ暗闇というわけではなかった。
「───それで。どうするよ?今からでも俺は『顕現する神の食指』の情報を買いに行くけど。皆はサカエとやらの情報を買いに行くのか?」
「買いたいけど、どうやって買うんだ?」
初めてこの街に足を運んだため、康太はその「情報」を買う方法がわからない。
いや、わからないのはその「情報」の買い方だけではなく、その「情報」の真偽もだが───
「───真偽を疑ってるようじゃ、お前らはこの街じゃ生きていけないぜ」
「はい?」
まるで心を見透かされたように、『無敗列伝』に考えていることを指摘されて康太は驚きが隠せない。
「商業都市アールで最も基本的なことはお金だ。お金を払えば何だってできるし、何だって手に入る。商業都市アールの赤子は、母親の手より先にお金に触れるとも言われてる。お金はそれだけこの都市で重要だ。だから、そんなお金を払えば向こうは嘘をつかない。つこうとしないし、つくことができない。だから安心しろ、ここでの情報に嘘はない。それを疑っちまえば、全てを奪われるぜ?この情報、俺じゃなかったら金を取ってる」
「でも、その情報はどこから仕入れてる?」
「さぁな。俺も知らねぇ。知りたければ、情報よりも高い値段を払ってその仕入先を教えてもらえばいい。ソースはいくらだって湧いてくるだろうよ」
そう口にして、一つの建物の前で立ち止まる『無敗列伝』。それに続いて、他の勇者一行の足も止まった。
「ここは?」
「俺がよく使ってる情報屋。俺の知り合いで、驩兜を討伐した勇者ってことならそれなりに安くしてくれると思うぜ。別室案内だろうが、どうする?」
「他の店はわからないし、同じところでいい」
「了解」
そう口にして、11人はわらわらと店に入ってくる。
「───なんだい?もう閉めるところだったのに。束になって入ってきて。働いて欲しければ金をくれ」
「悪かったよ、婆ちゃん。俺の顔と勇者の肩書に免じて許してくれね?」
店に入った先、高台に置いてあるちっぽけな椅子に座っていたのは小柄で白髪の紫の着物に身を包んだお婆さんであった。
「なんだい、アルちゃんかい。仕方ないね、少しくらいの時間の延長は免じてやるよ」
「アルちゃんって呼ばれてるのか?」
『無敗列伝』の本名は、アルグレイブ・トゥーロードだからアルちゃん。
あだ名としてはおかしくないが、『無敗列伝』が「アルちゃん」と呼ばれているのはどこか面白さがある。
「って、アルちゃん。そんなに子どもを連れて。若気の至りって怖いねぇ...」
「俺の子どもじゃねぇよ!話題になってるだろ、勇者だよ、勇者」
「冗談だよ、冗談。こっちだって情報屋。全く、コウちゃんにアイちゃんも大変だったでしょ。アルちゃんと一緒で」
「コウちゃん?」
名乗ったつもりはないのに、「コウタ」という名前がバレていることに驚きが隠せない康太。
だが、相手は情報屋。隠せる情報はない。
「───それで、アルちゃんとコウちゃん達とじゃ買いたいものは別だろう?それじゃ、1番の部屋と11番の部屋を使うんだね。案内が必要なら金をくれ」
「ありがとよ。案内は俺がしておくから必要ない。行くぞ、コウちゃん達」
「その呼び方をするな、アルちゃんめ」
『無敗列伝』に煽るようにコウちゃんと呼ばれて、康太は仕返しとしてアルちゃんと呼び返す。
そして、『無敗列伝』に連れられて暖簾の奥にある長い廊下を渡って、「11番」と書かれている部屋に勇者一行が、「1番」と書かれている部屋に『無敗列伝』は入っていったのだった。
「───失礼します」
「よく来たねぇ。座ってどうぞぉ...」
「え!」
そこにいたのは、受付にいた人と瓜二つの小柄で白髪の老婆であった。ただ違うところとしては、和服の色が紫ではなく緑色ってところだろうか。
「受付にいたはずじゃ...」
「あぁ。受付にいたのは長女のマカですよ。私は、三女のムカです。本日はよろしくお願いします」
そう口にして、小さな頭をしっかりと下がるムカ。
「それで、本日はどのような情報をお望みで?」
「───そう、ですね。池本栄という男の居場所を買いに」
「わかりました。まずはお代金を」
康太は金貨を取り出してムカに渡すと、数えた後に受け取って一礼する。そして───
「イケモトサカエさんは、現在『古龍の王』に囚われています。居場所は、極寒の地でもあり城内都市とも呼ばれるパットゥの牢屋の中です」
「「「パットゥの牢屋の中...」」」
これまでの旅路の中で、ずっと探してきた栄の居場所がついに判明する。
栄がいるのは、ドラコル王国の最北に位置し、現在『古龍の王』が支配しているという極寒の地───パットゥであった。
───第8ゲームをクリアするための条件の居場所が判明し、康太達は前進する。
そんな中、囚われの身である栄は何を感じ、何を思うのか───。