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旅路 その⑥

 

「修行の内容は簡単。全員で僕に襲いかかってこい」


 新しく参加する誠に対してそんな説明をするのは『神速』。その単純明快な説明に、誠は1つの疑問を投げかける。


「こちらは6人いるのに、そっちは1人だ。少しそっちが不利すぎるんじゃないのか?」

「自惚れるな、新参者め。私達が束になっても『神速』には勝てない」

「そ。心配ご無用。殺す気でかかる───ってか、殺すから。そっちも殺しに来て」


 心配そうに声を掛ける誠であったが、『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデンによってそんな差があっても『死に損ないの7人』に数えられる『神速』には敵わないことが伝えられる。


 誠の味方としているのは、『親の七陰り(ワーストヒストリー)』の5人であった。

 リーダーであり『神速』の一番弟子である『閃光』の二つ名を持つ銀髪の弓使い───アレン・ノブレス・ヴィンセントに、『暴若武人』の二つ名に相応しい筋骨隆々とした肉体と恐ろしい顔を持つ斧使いの大男───タビオス・グレゴランス。

 そして、目の周囲を緑色に着色した「パスパス」と笑う『失敗作』と呼ばれるサイコパス───パーノルド・ステューシーに、重鎧に身を包みながら紅蓮の長い髪を翻す『高潔欲』の二つ名を持つ女性───エレーヌ・ダニエラ・レオミュール。最後に、黒くてつばの広い三角帽子を被った銀髪の魔導士───『鋼鉄の魔女』のアイアン・メイデンの5人がいた。

 この5人は全員、昔は8体おったが、現在は6体にまで数を減らしている龍種の、減った2体の内1体───『一触即死』の二つ名で恐れられている麒麟を討伐している。

 誠は、『海の民』などと呼ばれて、太古の昔にドラコル王国の首都を滅ぼした驩兜(かんとう)の討伐に協力しており、そんな6人が揃っているということは、強大すぎる程の戦力なのであるが、アイアン・メイデンこと、メイが言うには『神速』に到底及ばないのである。


「───『神速』が全員で来いと言うのであれば、全員で行かせていただこう。意見をしてすまなかった」

「そうだ。もっと謝れ。新参者が口を挟むな。死ね。殺されろ。劣等人種」

 誠が素直に謝罪するものの、メイは誠に対し罵詈雑言を投げかける。


「ほらほら、喧嘩はお終い。早速始めるよ。よーい、ドン」

「「「死ね」」」

「───ッ!」


 その言葉と同時、誠以外の全員が『神速』に向けて明確な殺意を向けていた。

 師弟関係にある者や、修行の一環であるのにも拘らずここまで明確な殺意を向けられるものなのか───と、誠は驚いたけれど、これほどの殺意を向けなければ『神速』に対応できない理由を、誠は瞬きをする間もなく理解した。


 体を低くして剣を振るうエレーヌと、上空へと飛び上がり『神速』の脳天をかち割ろうと斧を振り下ろすタビオスの攻撃を一瞥もすること無く躱し、避けた先へ強力な土魔法と毒の塗られたナイフと音速を超える矢を最小限の動きで避ける。


「───ボーッとしてないで誠も動けッ!」

「───わかった!」

『閃光』からそんな喝が飛ばされて、急いで誠は弓を引き、その矢を放つ。


 だが、一瞥もされずに矢をその手で投げられて止められてしまう。

「───ッ!こっちを見もせずに!?」

「見なくたって、どこを飛んでいるくらいはわかる。弓矢に関して、僕の右に出る者はいないよ」

「───やべ」

『神速』は、驚く誠にそんな言葉をかけながら、攻めの姿勢に出過ぎたタビオスに対して、一本の矢を放つ。


 矢に当たったタビオスは、そのまま矢の推進力に押し負けて、筋骨隆々とした巨体を遠くまで吹き飛ばし、メイに激突して意識を失う。


「私にぶつかってくるな。足手まといの劣等人種め。〈ハイ・ヒール〉!」

 メイは、タビオスに対して罵倒の言葉を重ねながらも回復魔法をかける。ツンデレ───ではなく、彼女は魔導士として必要な仕事を理解しているから、仕方なく行っているのであろう。


「来いッ!『神速』!〈星屑(スターダスト)斬り(スラッシュ)〉!」

 一方、『神速』に接近戦を挑むエレーヌは、『神速』が手に直接持つ矢に当たらない適切な距離感を保ちながら、その剣を振るい牽制しつつ攻撃を当てる隙を狙う。

 そんな中、音もせずに毒をたっぷりと塗ったナイフを『神速』の方へと投げたのはパーノルドであった。


「───」

 チラリと、飛んでくるナイフの方へと一瞥すると、『神速』はナイフの方へと弓を放ち、ナイフを弾いて地面に落とした後にそれをキャッチする。そして、弓の弦へとナイフを引っ掛けて、そのままパーノルドの方へと放った。


「矢だけでなく、ナイフまで!」

「放てるものはなんでも放つ。戦闘中に弓矢が無くなることなんか日常茶飯事だ」

 誠が驚きを口にする中で、『神速』は冷静沈着にそんな解説を挟む。毒入りのナイフは、見事にパーノルドに刺さり、戦闘不能にまで持ち込む。


 そのまま、接近戦に持ち込んでいたエレーヌに対して弓を使わずに矢だけで、剣と対等に───いや対等以上に戦い、その首筋に矢を突き刺していた。


「───ほら、こうしている合間に僕と誠の2人にまで減らされた!」

 メイはまだ戦えるけれど、パーノルドやエレーヌはこのまま放置しておけば死んでしまう。

 だからこそ、放置することはできなかった。


「弓使いにおいて大切なのは、どうやって接近戦に対してどう対応するかだ。今、アレンは自分達が接近戦にならないようにするために、タビオスとエレーヌの2人を前線に配置して攻撃を行わせていた。それは正しい判断だ。だが、今君達に足りないのは接近戦をどのようにこなすか。遠距離武器の弓矢を使って、君達には接近戦を覚えてもらう。わかったね?」


 ───こうして、誠・アレン・『神速』の3人は戦闘不能になった3人の回復が終わるまで、弓矢を使用した接近戦の修行を行ったのであった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
おお、こういう乱戦も良いですな。 読むのは楽だけど、書くのは超大変。 だから自分もこういう乱戦は避けがちです。 よく読んでないと、戦闘の過程も分からなくなるけど、 こういう書き手の拘りは個人的に良いと…
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