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海を走る者、海を壊す者 その⑪

 

「───〈機械仕掛けの暗黒世界〉」


 世界が、2つに割れる。

 甚大で、強大で、強烈で、鮮烈で、鮮明で、空明で、空々漠々としたその一閃は、森羅万象を切り裂くほどに強力な技であった。


 放たれると同時、世界が黒く稲光をして驩兜(かんとう)の持つ2つの触腕───崩壊の剛腕と猛焔の辣腕を、そして驩兜(かんとう)がその巨体全てに血液を送るために必要な3つある心臓のうちの2つを破壊する。


 きっと、この『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』以外の他のゲームであれば、心臓を3つ全て破壊しないと死亡しない───などという設定があっただろう。

 だけど、このゲームは妙に現実に似たものを用意してくれる。心臓が1つ残っていたとしても、2つ破壊された───ということは、もうそれは体の大半が動けないということ。

 それは、則ち死───


「───ヤバ...」


 誰もが勝利を確信したその時、斬撃が驩兜(かんとう)にまで及び、その斬撃がツタンカーメンマスクにぶつかり、それが2本の触腕に引きずられて海の中へと落ちていく。


 ───それは即ち、驩兜(かんとう)のツタンカーメンマスクが外されたということ。


「───皆、逃げろッ!」

『無敗列伝』が声を張り上げて、回復を終えた勇者達にそう口に伝えた刹那───、



 ───勇者達11人が立つ氷の大地はひっくり返されて、その上に立っていた全員が海に投げ出されたのであった。


 ***


 ───龍種とは。


 神が世界を守るために作った8体の超常的で圧倒的な力を持つ生物であり、現在は『古龍の王』の仕業により、人間を苦しめる敵として跋扈している存在。

 首が伸びる人面馬や、甲冑を身にまとった砂漠を彷徨う亡霊、海を支配する巨大イカに、空を泳ぐ魚など、姿がそれぞれバラバラの龍種全てにある特徴としては、天災よりも恐ろしい力を保有することと、全員顔に何かが付けられていて姿が見えないことだ。


 麒麟にはおかめの面が付けられており、三苗は兜を被っていて、驩兜(かんとう)はツタンカーメンマスクを装着していた。


 そんな、龍種であるための絶対条件であり必要十分である龍種の顔を覆い隠すものを外してしまったらどうなるか。


 ───ドラコル王国に住むものなら知っている。


 龍種の仮面を外すな、と。


 ───この世を生きるものなら知っている。


 龍種の仮面を外すな、と。


 ───冒険者なら重々理解している。


 龍種の仮面を外すな、と。


 ───旅するものなら、理解させられる。



 龍種の仮面を外すな、と───。



 龍種の仮面を外したら、ただでさえ天災をも超える力を持つ龍種が、暴走する。

 神よって創られた龍種には、世の人には考えつかないような力を発生させる。龍種の仮面が外れれば、たとえ10万人もの兵士が囲んでいても、一瞬で滅亡するほどの力を持つ。


 ───前回、『無敗列伝』が龍種の仮面を外し暴走状態にしてしまったのは、麒麟と戦った時だ。

 その際は、生物非生物問わず伸び始めて、阿鼻叫喚が繰り広げられた。麒麟が暴走すると周囲にあるものを、「伸ばす」権能を神から与えられていたのだろう。

 もっとも、そんな状況から『無敗列伝』は、命辛辛逃げ出してきたのだが。


 そして、今回。

 驩兜(かんとう)の被るツタンカーメンマスクが外れて海の中に落ち、暴走状態に突入する。

 驩兜(かんとう)は、どのような権能が与えられているのか。それは───


 ───海になる。


「〜〜〜ッ!」

 ちゃぶ台返しのごとく、氷の大地はひっくり返されて勇者一行は驩兜(かんとう)のフィールドであり、デンキクラゲが多量に集まっている海中へ落ちていく。


 触腕を全て切り落としたと言うのに、どうしてこんな芸当ができようか。答えは簡単、驩兜(かんとう)が暴走状態に陥り「海と同化し、海を自由自在に操ることができる」権能を使用し始めたからだ。


(なんであの状況でツタンカーメンのマスクが外れんだよッ!最ッ高にツイてねぇ!)


 海中に落ちた『無敗列伝』はそんなことを口にする。

 酸素が後1分もすれば足りなくなるような状態で、全員海に落ちたのだから全滅は待ったなしである。


(水中で、驩兜(かんとう)に勝てる訳が無ぇ...今日こそ、俺の死だ...)


 これまでの人生において、累計189回心の底から絶望した『無敗列伝』アルグレイブ・トゥーロードであったが、今この瞬間が190回目となりその心に刻まれた。

 そして、190回目にして片手で数え切れるくらいには絶望している彼。


 ここまで絶望したのは、7回目の絶望であるいけ好かない叔母のせいで齢6歳にしてギロチンにかけられそうになった時や、32回目の絶望である龍種の応龍と鳳凰の2体に囲まれた時、107回目の絶望である龍種の鯀に丸呑みにされた時と同じくらいの絶望であった。


 もう、このまま死ぬ。暴走した龍種のテリトリーに落ちて、流石に勝てる訳が無い───。


 無敗列伝がそんなことを思いながら、同じく海中に落ちた勇者の方を見ると──


(……!)


 水中で、猛々しく槍を掲げていたのは1人の女傑───『高慢姫』という二つ名を自他共に振りかざし、『総主教』に冒涜者認定を受けた女子最強。水中でも尚、その美しい立ち姿を崩さす、驩兜(かんとう)に対して敵意を剥き出しにしている彼女に、『無敗列伝』は唯一神の姿を重ねた。


(あぁ、クソ...アイツラが諦めてないってのに、どうして俺が諦められよう!どうせ死ぬならやってやる、死に損ないになってやる!)


 その言葉を覚えながら、デンキクラゲを避けて愛香の方へ泳いで動き出す『無敗列伝』。

 他の勇者も愛香の方へ泳いでいき、『無敗列伝』の名に似合う、辛勝を手に入れるための行動を開始したのであった。

自由の女神は愛香のこと

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
やっぱり『無敗列伝』はついてない。 まあある意味、彼らしいが……。 そしてこんな状況でも愛香は高慢のまま。 ここまで来ると凄いですね。 しかし水中戦は苦戦しそう。
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