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海を走る者、海を壊す者 その⑥

 

『無敗列伝』の目の先で、揺らいでいるのは1本の触腕。


「───さァ、勝負だ!その足、切り落としてやるよ」

 啖呵を切った『無敗列伝』は、触腕を2本相手にしている康太や真胡の助太刀に入るためにも、目の前の触腕を無力化するために動き出す。


「〈絶断〉」


 3歩、一本の触腕───付けられた名を「光芒の手腕」に対して近付いた後の一閃。


 麒麟との戦いにおいて、エレーヌも使用した技ではあるが、その規模が段違いであった。

 樹木よりも太い光芒の手腕に対して、宣戦布告と取れる一閃を当ててその体から海のような青色の血を噴出させる。


 言葉を持たない触腕が、鈍く動いた後に、その足の先端が『無敗列伝』の方向を向いたと同時───


 〈有刺光線〉


「───ッ!」

『無敗列伝』の頭蓋を狙い、一直線に伸びてきたのは薔薇の茎のように棘を纏う橙色の光線。

 咄嗟に、『無敗列伝』は横に転がるように回避したので直撃は避けたが、ジッと音が鳴って先程立っていた場所の半歩後ろが溶けていたことを確認する。

 きっと、避けていなければ頭が熱光線で焼かれていただろう。


「お前は、光魔法を操る触腕か...」

 氷で足元が覚束ない中でも、鍛え上げられた体幹で難なく立ち上がりそう口にする。

 通常の光であれば、剣で反射することも可能だ。だが、光芒の手腕が易易と放ったのはBランクの熱光線。

 最悪の場合、剣が溶かされて反射どころかその後の攻撃までもができなくなってしまう。



「んま、避けれないわけじゃねぇからいいけど」

 そう口にして、剣を握り直す『無敗列伝』。そして、〈有刺光線〉が放たれた触腕の先端を睨む。

 そして、『無敗列伝』がその先端に攻撃を仕掛けようと揺れる光芒の手腕の方へと走る───が。


「───ッ!」

 魔法など関係なく『無敗列伝』の方へと倒れてくる光芒の手腕。

 先程〈断絶〉によりできた傷を庇うようにしつつ物理攻撃を仕掛けてきた光芒の手腕に、一瞬驚きを見せる『無敗列伝』であったが、すぐに光芒の手腕の作る影から脱出する。


「物理攻撃ということは、斬るチャンス!」

『無敗列伝』がそう口にした直後、氷の大地にぶつかる───いや、その衝撃を正しく表現すると、衝突してきたのは光芒の手腕であった。


「───ッ!」

 氷の大地をに大きなヒビが入り、不運にも『無敗列伝』が立っている場所が他の大地にと分断されてしまう。


「クソッ!逃げ場がねぇ!」

『無敗列伝』の運動能力があれば、氷の大地の方へジャンプすれば届く距離であった。だが、問題はそこじゃない。

 氷の大地には、光芒の手腕がいる。もし、『無敗列伝』が氷の大地の方へ飛べば、それを打ち返すようにして光芒の手腕も動くだろう。


「───迂闊に動けねぇ...だが、動かねぇと沈む!」

 海中には、デンキクラゲがいることを先程泳いできて確認できていた。海に落ちて藻掻けば、すぐにでもデンキクラゲに気付かれてその電流の餌食になるだろう。


 これまでの冒険において、『無敗列伝』がデンキクラゲに囲まれたことなど何度だってあり、それで尚生き延びていたが、今回は龍種である驩兜(かんとう)がいる。

 驩兜(かんとう)は海の生き物なのだから、こうして陸で戦うよりも海で戦うほうが強いはずだ。


 そんな状態で、デンキクラゲに囲まれては流石の『無敗列伝』でも勝てる想定はできなかった。


「クソ、どうすれば...」

『無敗列伝』がそうやって思考を逡巡させる中で、光芒の手腕の先端が『無敗列伝』の方を向く。


「───マズいッ!」


 〈有刺光線〉


『無敗列伝』が己の危機を察した刹那、光芒の手腕による〈有刺光線〉が放たれる。狙われたのは『無敗列伝』───




 ───の立つ氷の地面。


 ジュワッと氷が融解する音が聞こえたと同時に、『無敗列伝』を乗せる足場が崩れ落ちる。


「マジかよッ!」


 光芒の手腕は、己のテリトリーである海の中に『無敗列伝』を誘い込み、確実に殺すために足場を狙ったのだ。

『無敗列伝』は、そのまま足場と同時に、驩兜(かんとう)の領域内でありデンキクラゲが跋扈する海中へと姿を消し───




 ───てしまうことはなかった。


「魔法を使えるのは、お前だけじゃねぇんだよ!」

 そう口にして、『無敗列伝』が使用するのは風魔法。己を吹き飛ばす程の風を吹かせて、光芒の手腕が待ち構える氷の大地の上へと移動しのだった。

 Bランク以上は魔法杖が必要だが、Cランクの魔法であれば手ぶらでも───もっと言うなら手足が無くても使用できる。


 空中を移動する『無敗列伝』に対して、大地の上へと立たせないように地面に着地すると同時『無敗列伝』へ攻撃して海に引きずり込もうと考える光芒の手腕。


 ───が、強者であり、これまで一度も負けたことのない───快勝や圧勝のみを手に入れ続けた驩兜(かんとう)のそんな考え方は、同じくこれまで一度も負けたことのない───辛勝か引き分けを手に入れ続けた男を前にしてはあまりにも甘すぎた。


「その余裕、俺にくれや」

 地面に着地する刹那、腰にある鞘へと剣を戻す。『無敗列伝』が狙うのは、居合。

 そんな居合の中でも、剣を振り続けたもののみが習得できる、現在を生きる者において『剣聖』と『無敗列伝』の2人のみが使用可能な、最強最速の大技───。




「───〈絡繰仕掛けの白銀世界〉」




 世界が、白く染まる。

 一瞬のラグがあった後、最初に放った〈断絶〉の傷口から、激しく血が噴出し───




 ───そのまま、光芒の手腕が傷口から切り落とされ、そのまま氷を滑って海中へと大きな音を立てて姿を消す。



「───光芒の手腕、敗れたり」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
『無敗列伝』、強い事は強いんですね。 只の不幸キャラじゃなかった。 なんか色々と美味しいキャラですね。
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